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無線ブロードバンド事業の開始を発表したドリームテクノロジーズ 代表取締役社長の山本勝三氏(中央)と、平成電電 代表取締役の佐藤賢治氏(左2人目)、ジャパンワイヤレス 代表取締役の大山茂氏(右2人目)。左は本サービスにセキュリティー技術を提供するオープンループ 代表取締役社長の駒井滋氏。右はデジタルコンテンツ販売機『デジらく』を展開するアドテックス代表取締役社長の黒瀬克也氏 |
ドリームテクノロジーズ(株)と平成電電(株)は5日、両社が共同出資するジャパンワイヤレス(株)を通じて、本年11月より無線ブロードバンド事業に参入すると発表した。“MIMO”(Multiple Input Multipul Output:マイモ)技術を取り入れた“Wi-Fi”や“WiMAX”対応アクセスポイントを各都市や企業などに設置して、公衆無線LANサービスを行なう。バックボーンには平成電電が敷設済みの、全国約3万3000kmもの光ファイバーネットワークを利用する。
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本サービスで利用する無線アクセスポイントや対応機器 |
ジャパンワイヤレスが展開する無線ブロードバンド事業は、いくつかの段階を経て展開される。まず本年11月には、Wi-Fi対応のアクセスポイントを利用した公衆無線LANサービスを開始する。2006年上期には、より広いエリアをカバーするWiMAX基地局を設置し、Wi-FiとWiMAXを組み合わせた無線ブロードサービスを開始する。またそれと共に、無線ブロードバンドを使った音声通信サービスも開始する。2005年末までには全国の政令指定都市レベルでサービスを開始して、人口カバー率25%を達成し、最終的には2007年末時点で全国にサービスを展開、人口カバー率で80%以上を目指すとしている。全国展開の場合、Wi-Fi基地局は約20万局、WiMAX基地局は約6600局を目標としている。
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本サービスのインフラ構成。平成電電の光ネットワークとWiMAX基地局を結ぶ。さらにWiMAX基地局とWi-Fiアクセスポイントを結び、ユーザーはWi-Fi経由かWiMAX経由でインターネットに接続する(発表会資料より引用、以下同) |
無線通信技術から見た注目点は、MIMOと呼ばれる高速通信技術を取り入れることで、カバー範囲の広いWiMAX基地局だけでなく、Wi-Fiアクセスポイントでも広い範囲をカバーすることで、公衆無線LANサービスで重要なアクセスポイントの設置数を減らし、コストを削減する点にある。MIMOとは複数のアンテナを送受信に利用して通信を多重化し、受信したデータを合成、複合することで、同一周波数帯を使いながら通信速度を向上させる技術である。現在規格化が進行しているIEEE 802.11nなども、このMIMO技術を利用して通信速度100Mbps以上の高速化を実現しようとしている。
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従来のWi-Fiアクセスポイントと、MIMO技術導入よるWi-Fiアクセスポイントの違い |
ドリームテクノロジーズ代表取締役社長の山本勝三氏によるプレゼンテーションでは、本サービスで利用されるWi-Fiアクセスポイントについて、アクセスポイントからの通信可能範囲を600m、通信速度は最大108Mbpsを実現するとしている。通信帯域にはIEEE 802.11a/b/gが使用する帯域に加えて、4.9GHz帯なども使用する予定とのことだ。アクセスポイントの設置対象は企業内や家庭を想定しているが、さらに(株)アドテックスが開発したデジタルコンテンツ販売機『デジらく』にアクセスポイント機能を搭載して、デジらくが設置されたレンタルビデオ店やゲームセンターなどでサービスへの接続を可能にする。通信に使用するセキュリティー技術については、(株)オープンループとの協業により開発し、IEEE 802.1xやIEEE 802.11iなどの標準化技術を利用する予定である。
![]() | アクセスポイントとしても機能するデジタルコンテンツ販売機『デジらく』。メモリーカードやDVD-Rなどに映像コンテンツを書き出して販売する。すでに600台が設置済みで、本サービスに合わせて全国に1万台展開を目指す |
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WiMAXは“IEEE 802.16”として規格化された高速無線通信技術である。現在は移動体通信への対応も含んだ広域高速無線通信規格“IEEE 802.16e”の規格化が進んでいて、通信事業者各社が実験を行なっている段階である。本サービスでもこの.16eを利用して、WiMAX基地局とユーザーのパソコンや、基地局とWiFiアクセスポイントを結ぶ計画である。通信速度は最大で76Mbps、基地局1基でのカバー範囲は約2~3kmで、本サービスではWiMAXにMIMO技術を組み合わせることで、通信可能範囲や速度、移動体の速度が50%程度向上するとしている。しかし.16eは規格自体がまだ確定しておらず、使用する帯域についても現在総務省が検討中という状況にあり、本サービスでの開始時期も2006年上期と、具体的には示されていない。本サービスではジャパンワイヤレスが基地局の免許を取得して、Wi-Fiではカバーできない地域、有線インフラの設置が困難な地域に設置するとしている。
無線LAN技術を使った無線ブロードバンド事業は、先にライブドアが月額525円の定額制サービス“D-Cubic”を発表したこともあり、にわかに脚光を集めている。これに対して山本氏は「誰よりも早く無線LANアクセスポイントを置く。置いた者が勝つ」と述べ、アクセスポイントを早期に普及させることを重視していることを示した。そのための施策としてジャパンワイヤレスと平成電電では、Wi-Fi対応無線LANアクセスポイントとPCカードタイプの無線LANカードを、最大10万人に無償配布(無償貸出)するという前代未聞のサービスを展開することも発表した。平成電電のアクセス回線(ADSL接続サービス“電光石火”)を使用することが必要となるが、対象ユーザーには無線LANアクセスポイントとカード、ジャパンワイヤレスが提供するワイヤレスモバイルサービスが無料で提供される。平成電電が現在提供しているアクセス回線はADSLだけであるが、将来的には光回線やワイヤレス接続の提供も用意するとのことだ。本サービスで必要とされるWi-Fiアクセスポイントは約20万であるから、この無償配布サービスだけでその半分の10万件分がまかなえることになる。まさに掟破りの普及作戦と言えよう。なお無償貸出の申し込みは、ジャパンワイヤレスのウェブサイトから行なえる。
また本サービスの利用料金についても、提供エリアが限定される間は無償で提供され、エリア拡大(2006年4月をめど)と共に有料化を行なうとしている。データ通信は使い放題で、料金自体も「他社の2分の1程度」(山本氏)の低価格で提供するという。この“他社”については、(株)ウィルコムのPHS接続サービスなどを念頭に置いているとのことだ。またエンドユーザーに対する無線ブロードバンドサービスだけでなく、同サービスを基盤とした企業内ネットワークインフラを無線LANで提供するソリューション事業や、デジらくによるコンテンツ販売も収益源とするとした。
無線LANアクセスポイントの無償貸出やWiMAXの展開など、目を見張る内容の多い本サービスの発表で、日本での公衆無線ブロードバンドサービスの普及には、さらなる拍車がかかりそうだ。
