非常にシンプルな基板の裏側に対して、表側にはネットワークウォークマンに必要なチップがギッシリと並べられている。「チップの高さは、一番面積の広いものでだいたい1.4mm」(原口氏)。基板が小さいため、本来小さいはずのチップもずいぶんと大きなものに見える。音の良さを保つために必要なアンプ、HDDから読み込んだ音楽データをキャッシュするSDRAM、OSのμITRONとともに基本機能を司るCPU(ARM7コアの704060)……など。その中で特に注目したいチップが、ソニー自慢の“VME”(Virtual Mobile Engine)である。
「ソニーのスタミナの理由はVMEである」と、西内氏は言う |
製品企画を担当した西内氏は、ネットワークウォークマンの“スタミナ”を実現する上で「VMEはかかせないチップ」だと言う。VMEは主にMP3やATRAC3などの圧縮データを非圧縮のPCMに変換する“デコード処理”を行なっている。一般的なプレーヤーでは、この処理を“DSP”(Digital Signal Processor)というチップが担当するが、ネットワークウォークマンでは2002年に登場した『NW-MS70D』以来、VMEを利用している。
VMEは圧縮データを非圧縮のPCMに変換するデコード処理やサウンドエフェクトの処理に用いられるチップで、DSPなどの代わりに用いられる。専用のDSPを使ったハード処理より柔軟性があり、汎用的なチップを使ったソフト処理より低消費電力なのが持ち味だ |
“省電力”の意味でネットワークウォークマンを支えるのが、Virtual Mobile Engine(VME)だ(シールを貼ってあるチップ) |
デコード処理を実現する際には、大きく分けてソフトウェアを利用する方法とハードウェアを利用する方法の2種類がある。
これを解決するのがVMEに搭載されている“アクティブリコンフィギャラブル”(Active reconfigurable)技術です。日本語では“動的再構成回路技術”と言います。VMEの内部には複数の回路ブロックがありますが、これらのうちいくつかを組み合わせることで、さまざまなコーデックに対応することができます。一方で、使わないブロックの電源は落とすことができますし、チップの数を減らせるので全体の消費電力を落とすこともできます。
VMEの概念図。機能ブロックを柔軟に組み合わせることで、低消費電力と汎用性を両立できる |
“省電力”を実現する上で、忘れてはならないのはHDDのパワーマネージメントだ。実は音楽再生時にHDDが回転している時間は非常に少ない。25分間に1回だけ。しかもたったの8秒間である。この間に音楽データを一気にSDRAMに読み込み、あとはそこからチョロチョロとデータを吐き出していく。
衝撃もHDDの大敵である。そのためにNW-HD5では“インシュレーターによる保護”と“Gセンサーによる落下の検出”という2重の対策を行なっている。インシュレーターは、HDDの側面を非常にやわらかいゴムで覆うもので、ゲルの一歩手前ぐらいの触り心地だ。
HDDを覆っているインシュレーターは非常にやわらかい |
一方“Gセンサー”は3軸方向の動きに対応した動体センサーでNW-HD5の位置や動きを検出してHDDのヘッドを退避させ、データを破損から守る。