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米ポリフューエル、新開発の燃料電池用電解質膜を発表――製造の柔軟性を向上、携帯機器向け燃料電池などに利用可能

2005年04月12日 23時24分更新

文● 編集部 内田泰仁

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米ポリフューエル(PolyFuel)社は12日、新たに開発した直接メタノール方式燃料電池(DMFC、Direct Methanol Fuel Cell)用の電解質膜を発表した。これは、現在広く用いられているフッ素系化合物ではなく、炭化水素系化合物を利用した電解質膜で、従来の炭化水素系電解質膜よりも加工が容易になったのが特徴で、これにより携帯電話などの小型デバイス向け燃料電池でも、炭化水素系電解質膜が利用可能になったとしている。

DMFCの基本構造

DMFCでは、燃料(水やエタノール)が入った燃料極と、空気が入った空気極とを分離する固定柵として、膜電極接合体(MEA)と呼ばれる、電極と電解質膜のサンドイッチ状の構造体が取り付けられる。この電解質膜にフッ素系化合物のものを利用するのが一般的だというが、固体高分子型燃料電池用として開発されたフッ素系電解質膜は、その構造上、メタノールや水が燃料極から空気極へ透過するため、得られる電力にロスが生じる。ポリフューエルが取り組んでいる炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜よりもメタノールと水の透過率が低く、より電力のロスが少ないのが特徴。

しかし、これまでの炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜に比べて軟化温度が高く、MEA製造において利用する“ホットプレス”(膜に加熱して圧力をかける成型方法)が行なえないため、フッ素系電解質膜を利用する場合とは異なる製造プロセスを必要とし、加工が難しいとされていたという。



手に持っているセロファン状のシートが電解質膜フッ素系電解質膜と炭化水素系電解質膜の違い

この日同社が発表した新開発の炭化水素系電解質膜では、メタノール/水の低透過といった従来のメリットに加え、これまで行なえなかった“ホットプレス”が可能になっているという(この日行なわれた記者説明会では、特許出願中とのことから、具体的な改善点などについては詳細な説明が行なわれなかった)。これにより、今回の電解質膜は、フッ素系電解質膜を用いる場合向けに設計された製造プロセスでも利用可能だという。

米ポリフューエルのビジネス開発担当副社長、リック・クーパー氏モバイル機器の性能向上と電池の性能向上のギャップ

同日に都内で開催された記者説明会では、ビジネス開発担当副社長のリック・クーパー(Rick Cooper)氏が現在の燃料電池を取り巻く状況や同社の取り組みについてを説明した。この中でクーパー氏は、携帯電話などのモバイル端末の電池事情は「ポータブルパワー機器」と言えるような危機的状況にあるという認識を示した。これは、“ムーアの法則”に沿ったモバイル端末の性能向上に対して、モバイル端末の電池性能はほとんど進まず、成長の差は今後開く一方であるためだという。そのため、各種モバイル端末には、燃料電池のような新素材の電池の開発が不可欠だとした。

同社が注目する携帯電話用電池としては、日本で販売されている携帯電話用急速充電器のような“二次電池”だという。現在の製品は乾電池を用いるものが大部分で、2~3回程度しか充電できず、かつ最終的には乾電池を捨てるしかなくなるため環境に悪影響があるといった欠点を指摘しているが、市場は確実に拡大しているとして、燃料電池による二次電池の登場に期待を示した。また、クーパー氏は、「多くの企業が2007年までに(燃料電池採用)製品を投入するといい、今後、多くの燃料電池製品が出てくると見られる。そのなかでも、日本の企業、日本市場の役割は非常に大きい」と述べるとともに、同社の電解質膜を採用している日本企業が多数あることなどを紹介し、日本企業/市場の重要性を強調した。

傳田アソシエイツの社長、傳田信行氏。同氏はインテル(株)の元・代表取締役会長でもある

また、記者説明会の冒頭には、同社の日本における“代理人”を務める傳田アソシエイツ(株)の社長、傳田(でんだ)信行氏が挨拶を行なった。傳田氏はポリフューエルについて、「世界で最も高い電解質膜の技術を持つ会社」と評し、一般コンシューマー市場における燃料電池製品の早期展開/普及を目指し、マーケットの育成とポリフューエルとの協力を進めていきたいとした。

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