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~どうしたら日本で本当に新しい産業が生まれるのか? 建物というより、ソフトウェア的なプロジェクト~

【こちら秋葉原一丁目ホームページ】Act.0001「秋葉原クロスフィールド」(前編)

2005年04月12日 04時17分更新

文● 遠藤諭

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秋葉原が大学や研究機関を呼んだ

――実際に、動き出してプロジェクトチームのように事例研究されたり、具体的にモデルになった例とかあるんですか?

モデルしたのはシリコンバレーです。でも米国と日本では風土がぜんぜん違います。小さい会社を育てたりする風土といいますか、まったく同じものを持って来れば第2のシリコンバレーになるかというと、そうはならなさそうだと。もう少し日本風の産学連携のやり方があるんじゃないかと試行錯誤して、ある程度の企業と新しい技術をマッチングさせるやり方がいいのではと考えました。

――いわゆるベンチャーということではないと?

そうです。ゼロからではなく、日本で盛んな社内ベンチャーとか、そういう会社がインキュベートを進められるようなものです。加速度をつけた形で始められるようなスタイルが良いのではないかと。ここでは、ある程度大きな会社や株式を公開している企業と、新しい技術が出会える。ここからお金も出るし、経営ノウハウも出るようなものがいいと考えたわけです。

――米国だと、大学の先生と助手が一緒に会社を作ってというような話が、たくさんありますよね。

米国だと資金さえ集めればどうにかなるという考えなんですが、日本だとちょっと違う印象がありますからね。

――たしかに、米国ではお金以外の部分の仕組みがありますからね。技術を見つけてくる仕組み、会社としてちゃんと回るように適材を連れてくる仕組みなど。日本の場合は、お金のあまっている企業はあっても、技術にお金を突っ込むというよりも、すでに動きはじめている会社を買収というような形になりがちですよね。同じ投資といっても、だいぶ趣が違いますよね。

米国というのはモデルの1つであるけれど、違う格好で煮詰めてきたわけです。

――そういう場合、御社は社内でがっちり研究プロジェクトチームを組んでやるんですか?

いえ、鹿島建設(株)だけでなくてエヌ・ティ・ティ都市開発(株)とダイビル(株)もそれぞれ、社内で人間を集めました。とくに産学連携は、結果的には鹿島建設(株)が中心になってやることになりましたが、社外の方をお呼びしました。今回は東大の先端研の教授である妹尾堅一郎先生と一緒に「どうしたら日本で本当に新しい産業が生まれていくのだろか」と議論してやってきたわけです。先生の人脈を含めて、大学関係で8校入る予定です。それから公的研究所が2つ。民間のベンチャーもしくはベンチャー育成企業が2社。あとは、公的な特許関係の組織が入ります。まだ発表できない部分がありますが。

模型
秋葉原を産学連携の実証実験の場にしたいという。その中心となるのが“秋葉原クロスフィールド”だ

――要するに“秋葉原クロスフィールド”というのは、建物ではなく、日本のIT拠点とするための“ソフトウェア的なプロジェクト”だったけわけですね。少なくとも、これだけのものが1つの建物に入るだけでもめちゃめちゃ新しいです。

だと思います。

――ただ、それだけ凄いプロジェクトだと私もいまお聞きして驚いたのですが、やはりここに“秋葉原”という言葉がキーワードとして入ってくるのではないですか?

実は、彼らも1つの建物に入ることを目指してきているというよりも、秋葉原に来たいというのがあるのも事実です。

――でしょう!

入居する国立大学法人 筑波大学にもすばらしい施設があるわけですが、「やっぱり秋葉原」という部分もあるようです。それは筑波より秋葉原のほうが交通の便が良いという点や、欲しい部品がすぐ手に入るという点以外に、プレマーケティングができたり、実証実験ができたり、そういうマーケットに近いのが良いというのがあるようです。例えば実証実験をやるにしても、新宿でやったら問題になるものも、秋葉原であったらやりやすい部分がある。また街の理解を得やすい。それがうまく行こうが行くまいが“実証実験”というのはそういうもんだと認識してくれる風土があると思います。

――そこが秋葉原の凄いところですよね。

そういうところもあって、“実証フィールド”を作ろうと話をしています。産学連携に入られた方が中心になって実証実験をしていただきたいのですが、そのグループに限らず、悪く言えば中途半端な技術を、規模の大小を問わず市場に投げることができる形にしたいのです。訪れる人も秋葉原に来ればいつも何か新しいものや知らない技術があって、そのバグを見つける楽しみとか自分なりの評価を、例えばウェブ上で議論するとかできるのではないかと。そういった土壌がある街だと考えています。

――とっても興味深いですね。“実証フィールド”というのはどこまでとなるのですか?

“秋葉原”という言葉が持つ“意識の結界”というのはあると思うんです。蔵前通りから先や神田川から南は“秋葉原”とは呼ばない。ただ、“実証フィールド”はポイント・ポイントでやりましょうと。今後は面で行なう実験も出てくると思います。例えば“パーソントリップ”といって、駅から降りた人がどこを歩いてどこに行って、というのは面で行なうものです。極端に言えば駅前で何かを配って、帰りにそれを回収してログを取っていくというような実験などですね。そうすると、秋葉原のエリアを気にせずに済むケースは多い。ただ、いろんな方とお話をしていると、どこからどこまでが秋葉原というのは、非常に明快ですね。

――そうすると、ここにくると何か行なわれているのを期待してくる人がいる。常に2、3のそういった実験が行なわれいると楽しいですね。

そうですね。平日のお客さん向けとか、土日のお客さん向けとか。住民がほとんどおられないので、住民向けというのは難しいんですけど。

――秋葉原の住人というのは何人くらいなのですか?

住民登録して住んでいない人も多いので正確には分からないのですが、町会単位で100人くらい……。

――100人! でも、“TOKYO TIMES TOWER”ができましたから。

そうですね、400人くらいお住まいになっていると思います。

屋上風景
現在建設中の“秋葉原UDX”の屋上から撮影

――“実証フィールド”があるというのを期待して入ってこられる大学とか研究機関が結構多いのでしょうか?

そうですね。妹尾先生がおっしゃるには、いい技術が途中でうまくいかなくなるのは、いい技術があってもいい製品にならないとか、うまい製品があっても商売にならないといった要因があると。それはやはりマーケティングやテストマーケティングをする場が日本にはないからだというのですね。大企業が一気に製品としてバッと売り出して、売れたらOK、売れなかったらダメというようなパターンになりがちであると。そこにはベンチャーや中小企業が入りにくいわけです。

――“実証フィールド”はいいですが、法律的な制約があるんじゃないですか? とくに電波や通信の関係は日本は規制が多いですよね。単純な話として、IEEE802.11aは米国では屋外でOKなのに、日本ではダメであるというようなことですよね。

おっしゃるとおり、法律で縛られるものが多くて、ICタグの研究も総務省の許可が必要です。これが結構大変なんです。できればここを“実証フィールド特区”のような形にして、枠組みを外してもらいたいと考えています。

――マレーシアは制約が少ないというので、さまざまな実験的なことがされましたよね。日本の企業もそうしたプロジェクトに参加して、それに関わられた方がいま活躍されている例を知っています。何かを解いてやらないと技術は進化しない部分がありますよね。

実際問題、秋葉原はいま非常に電波状態が悪いのです。いろんな電波が干渉しているようです。

――いろんな電波っていいですね(笑)。いま日本中で無線LANが漏れまくっていますけどね。米国では飛行機で低空を飛んで調べる人がいますが。ただ秋葉原は、それが“どんな電波が飛んでいるか分からない”というところが凄いですね。逆に、そういう場所だからこそ実験の場になるというのもありますね。

きれいなところでやっても意味がないですからね。この前、ICタグの実験をやったのですが、うまくいかなかったんです。筑波ではうまく行ったんですけど、秋葉原に持ってくるといろんな環境が作用してうまくいかない。私は、聞きかじりですけど、ここは厳しい環境なのだそうです。

――特区になる可能性はあるのですか。

いま働きかけをしているところです。郵政だけでなく、総務省にまずは行くことになりますね。電波の管轄でなく、特区関連に携わっている内閣の当該部署になります。

――ベンチャーは税金が安いとか、中国みたいにIT企業が優遇される仕組みがあるといいですね。

ええ、あるといいですね。昔は沖縄とか北海道とか、いろんな政治的・地理的な問題で特区扱いになっていたところはありましたから。小泉さんになってから“温泉特区”とか“ロボット特区”とか話題になりましたが、実際のところ認定を受けたところはどうなのでしょう。今回はずっと継続的に税金を安くしてくれというような形ではなくて、単発的に1ヵ月とか1週間とか期間を定めて、実験をするときだけはちょっと法規な制限を緩めるという形がいいですね。お役所に申請を出すときも、本当の申請をするのではなく、申請するこの1週間だけは違法電波を飛ばしても目をつぶってもらうというのがいいですね。われわれのビルだけでやるのつもりはなくて、われわれのビルが核になりながらも、秋葉原全体で盛り上がっていくようになれば良いなと考えています。

――ぜひともやって欲しいですね!

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