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NTT、1本の光ファイバーで1000波長を多重伝送する実験に成功――ビットレートは合計で333GB/秒以上!

2005年03月08日 20時05分更新

文● 編集部 小西利明

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発表を行なう未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 主幹研究員の盛岡敏夫氏
発表を行なう未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 主幹研究員の盛岡敏夫氏

日本電信電話(株)(NTT)は8日、1本の光ファイバーを使って、従来の10倍となる1000波長の光を伝送する波長多重分割伝送の実験に、世界で初めて成功したと発表した。実験については、米国カリフォルニア州アナハイムで6日より開催されている光通信や光ファイバーに関する国際会議“OFC/NFOEC 2005”(the Optical Fiber Communication Conference and Exposition/the National Fiber Optic Engineers Conference 2005)にて、現地時間の9日に発表される。

波長多重通信の概念図。1本の光ファイバーで同時に多数の波長の光を伝送できれば、高速大容量のデータ通信を低コストで実現可能となる
波長多重通信の概念図。1本の光ファイバーで同時に多数の波長の光を伝送できれば、高速大容量のデータ通信を低コストで実現可能となる

波長多重通信(Wavelength Division Multiplexing:WDM)とは、1本の光ファイバーに異なる波長の複数の光を通すことで、1本で伝送できるデータ量を飛躍的に増加させる技術である。実験を行なったNTT参加の研究機関である未来ねっと研究所の、フォトニックトランスポートネットワーク研究部 主幹研究員 盛岡敏夫氏はWDM技術について、「コア(都市間を結ぶ基幹ネット)からメトロ(都市内)、メトロからアクセス(各施設や各家庭への接続)へとWDM技術が浸透している」として、次世代の光ネットワークの中核技術に位置づけた。そしてその際に重要となるのが波長の数であるとして、光ファイバーを効率的に利用できるように多波長化が重要課題と述べた。

今回の実験は、京都けいはんな地区から大阪堂島までの間に敷設された、独立行政法人“情報通信研究機構(NICT)”が運営する研究開発用のテストベッド(※1)ネットワーク“JGN II”を利用して行なわれた。“けいはんな情報通信オープンラボ”に1000波WDM送信機と受信機を設置し、けいはんなから奈良県大安寺を経由して堂島に至る約63kmの光ネットワークを往復(126km)利用して通信を行ない、1芯のグラス光ファイバーで1000チャネル(波長)分、1チャネル当たり2.67Gbit/秒(合計で2.67Tbit/秒=333.75GB/秒)の伝送を行なうことに成功した。

※1 試験のための環境や試験用ネットワークのこと

実験を行なった光ネットワーク環境。片道63kmのネットワークを往復利用し、126kmの伝送を行なった(画像提供:NTT)

今回の実験のポイントとなったのは、次の3点にある。

  • 超高密度で高品質の1000波長を発生する“スーパーコンティニウム(Super Continuum:SC)光源”の開発
  • 従来の8分の1以下の波長間隔のWDM信号を、低クロストークで合波・分波する“波長アレイ導波路格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)フィルタ”
  • 通常の光ファイバーを用いながら、伝送路での雑音を抑制し、伝送品質を維持する伝送技術

従来のWDM通信では、使用する波長の数だけ光源(半導体レーザー)が必要で、波長が増えれば増えるほど制御が困難になった。そのため波長同士が干渉し合わないように、広い間隔を持たせる必要があり、波長数は100~200程度が上限であった。今回開発されたスーパーコンティニウム光源は、光の分散特性に優れた特殊な光ファイバーを異なった波長の光を作り出す発生物質として用いることで、パルス光源からの“種波長”から、多数の波長を作り出した。作り出された光は波長同士の間隔が6.25GHz(従来比8分の1)と、非常に高い密度となっており、これにより1000もの異なった波長の光を等間隔で並べて発生させることが可能になった。

また1000波長の光を光ファイバーに通すためには、波長をミックスしたり分離したりする必要があるが、超高密度の光を合波・分波可能な優れた分解能を持つAWGフィルタも開発された。

スーパーコンティニウム光源による異なる波長の光の発生メカニズム。パルス光源から発生した光が発生物質の光ファイバーでプリズムのように波長ごとに分解される
従来のWDM光源と、今回の超高密度SC光源の違い SC光源で作られた超多波長光の測定グラフ
従来のWDM光源と、今回の超高密度SC光源の違いSC光源で作られた超多波長光の測定グラフ

今回の実験成功により、ただちにこの技術が商業利用に結びつくわけではないが、光ファイバーのデータ通信速度を大幅に拡大可能になるわけで、注目に値する技術と言えよう。盛岡氏は実用化時期の予測について、「5年くらいをめどに」と答えた。同社では今回の技術を“次世代フォトニックネットワーク”の中核技術として、今後は数千波長の光の多重化によって、“1人に1波長”の超高速通信の実現を目指すとしている。

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