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マイクロソフト、防衛ITシンポジウム 2005を開催――防衛分野がIT技術によって迎える変革についての講演を披露

2005年02月17日 23時28分更新

文● 編集部 小西利明

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トランスフォーメーションと情報技術について語る在日米軍 C4システムディレクターのジャニス・ライ大佐
トランスフォーメーションと情報技術について語る在日米軍 C4システムディレクターのジャニス・ライ大佐

マイクロソフト(株)は17日、防衛分野でのIT技術の重要性についての説明会“防衛ITシンポジウム 2005”を開催し、防衛分野での同社の取り組みや、多国籍の軍事活動におけるIT技術の重要性について、同社の担当者や有識者を招いての講演を行なった。同シンポジウムは2003年に第1回が開催され、今年で2回目である。

冒頭で挨拶を述べた同社代表執行役社長のマイケル・ローディング(Michael Rawding)氏は、「防衛分野と民間企業には重要な共通項が存在する。民間企業がいかにオープンシステムを使っているか、インターネットベースの技術を使ってチャレンジに答えているのか。そのいくつかは防衛分野においても役に立つと考えている」として、企業の経営・運用上の問題を解決するIT技術は、防衛分野の課題の解決にも応用できるとした。そのうえで、米軍内部や同盟国軍との相互運用性(インターオペラビリティー)やコラボレーションの向上のために、同社のエンタープライズ向け製品(Windows Server 2003やBizTalk Server 2002、SQL Server、Office 2003など)が米陸軍や米空軍で活用されている事例を簡単に説明した。空軍の事例では、システム統合により航空機による戦闘計画立案にかかる時間が、5時間から2時間へと劇的に軽減できたという。

マイクロソフト 代表執行役社長のマイケル・ローディング氏 企業が直面している課題と、防衛分野が直面している課題は本質的には似ており、企業と同様にIT技術の活用は、組織経営上の課題を解決するツールとなると指摘した
マイクロソフト 代表執行役社長のマイケル・ローディング氏企業が直面している課題と、防衛分野が直面している課題は本質的には似ており、企業と同様にIT技術の活用は、組織経営上の課題を解決するツールとなると指摘した

続いて壇上に上がったマイクロソフト オーストラリアのディフェンスインダストリースペシャリストであるワレン・プレンティス(Warren Prentice)氏は、昨年行なわれた米軍と公的機関、および同盟国軍との相互運用性に関する実験“JWID 2004(ジェイウィド:Joint Warrior Interoperability Demonstration)”と、今年予定されている参加国を増やした第2段階実験“CWID 2005(シーウィド:Coalition Warrior Interoperability Demonstration)”について、実例を交えながら説明を行なった

マイクロソフト オーストラリアにてディフェンスインダストリースペシャリストを担当するワレン・プレンティス氏
マイクロソフト オーストラリアにてディフェンスインダストリースペシャリストを担当するワレン・プレンティス氏

まずプレンティス氏はマイクロソフトが防衛分野に真剣に取り組んでいる点について触れ、防衛分野は同社にとって影響力の強い大きな顧客であるとして、たとえばExchange Server 2003の機能向上を行なう“Service Pack 1”の提供などは、かなり軍を意識したものになっていると述べた。

JWID 2004は2004年6月に開催され、米北方軍(USNORTHCOM)を中心に連邦緊急事態管理局(FEMA)、沿岸警備隊、FBI(Federal Bureau of Investigation)、カナダPSEP(Public Safety and Emergency Preparedness)、英国警視庁などが参加して行なわれた。実験は米軍(および関係機関)と同盟国との相互運用性を高めるために、必要なC4ISR(※1)ソリューションについて調査することを目的としている。マイクロソフトはこの実験で、電子メールや軍用メール規格(ACP133、P772)、チャットなどのメッセージングサービスを提供したり、『Office SharePoint Portal Server 2003』による共同作業環境の提供などを行なった。実験に参加した各国は、独自にActive Directoryネットワークを構築し、各国の共有環境として『Office Live Communications Server 2003』(LCS)や“Windows SharePoint Services”を利用した。各国間のセキュリティーを維持するため、各国の環境間にはあえて信頼関係を設定しなかったという。

※1 C4ISR Command(指揮)、Control(統制)、Communications(通信)、Computers(コンピューター)、Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)の頭文字を取った造語で、これら7要素を統合してシステム運用を行なうことが重要とされている。

JWID 2004でのネットワークアーキテクチャーの解説
JWID 2004でのネットワークアーキテクチャーの解説

JWIDをアップデートして、第2段階として今年実施予定のCWID 2005では、米英カナダに加えてオーストラリアやニュージーランド、オブザーバーとしてNATO加盟国も参加するという。そして複数の情報ドメイン間で情報を共有したり、通信帯域が限られた環境(行動中の特殊部隊や潜水艦など)での共同作戦計画、状況の把握などを目標とする。実験では“Federation(連携)”という概念を定義し、ユーザー偽装のリスクを軽減した安全性の高い認証システムを提供するほか、同盟国間の信頼関係に基づくシングルサインオン環境の構築や、管理負荷の軽減を目指す。予定されているセキュリティーモデルでは、オーストラリアのコラボレーションサイトに対して、米国のユーザーがアクセスする際のシナリオを提示して、国ごとのActive Directoryネットワークを“Federationサーバー”という窓口を介して接続するネットワークのモデルを示した。

CWID 2005で予定されているネットワークのセキュリティーモデル。各国のユーザーは自国で1度認証されれば、同盟国が提供するサービスに接続する際の認証はFederationサーバー同士のやり取りで行なわれるため、サービスごとにユーザー認証を受ける必要がない
CWID 2005で予定されているネットワークのセキュリティーモデル。各国のユーザーは自国で1度認証されれば、同盟国が提供するサービスに接続する際の認証はFederationサーバー同士のやり取りで行なわれるため、サービスごとにユーザー認証を受ける必要がない
プレンティス氏の講演で示されたコラボレーションサービスの画面。チャットやメール、インスタントメッセージング、ビデオチャットなどが統合して扱えるフロントエンドとなっている
プレンティス氏の講演で示されたコラボレーションサービスの画面。チャットやメール、インスタントメッセージング、ビデオチャットなどが統合して扱えるフロントエンドとなっている

シンポジウムでは、在日米軍でC4ISRを担当するジャニス・ライ(Janice Lai)大佐により、米軍が現在進めている世界規模の兵力再編(トランスフォーメーション)に、IT技術がどう関わるのかについて説明が行なわれた。トランスフォーメーションとは、単に冷戦時代の兵力配置を新時代に合わせて見直すというだけではない。“RMA(Revolution in Military Affairs:軍事における革命)”と称されるIT技術の軍事分野への活用を背景として、兵力運用の効率を大幅に高めたり、遠隔地での運用方式を見直して、必要な兵力を弾力的に運用可能にしようという概念である。ライ氏は情報技術の進歩が軍事をどう変えるかを、映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ラストサムライ』などの場面を、IT技術のない時代の戦争風景として引用しながら解説し、情報技術の進化をいかに活用するべきかについて語った。

ライ氏はトランスフォーメーションを進めるに当たり、やってはいけない“誤った道”として、相互運用性に欠ける独自のシステムを作らないこと、そうしたシステムを残したまま、相互接続用の変換ボックスで対処したりしないこと(リアルタイムでの情報交換を妨げるため)、シンボルやデータフォーマットの違いを放置せず、同盟国間で標準化する必要性などを説いた。またIPv6などのオープンスタンダードを活用することで、無駄を省くことも重要とした。特に情報流通のリアルタイム性については「60秒以上放置してから処理してはいけない」など、非常に重視している点を何度も強調した。

トランスフォーメーションに活用すべき標準技術の一覧。軍用技術ではなく、民生用のIT技術が挙げられている
トランスフォーメーションに活用すべき標準技術の一覧。軍用技術ではなく、民生用のIT技術が挙げられている

また一方で、情報の活用がうまくいかなかった反省例としてライ氏は、1983年10月に起こった、カリブ海の小国グレナダに対する侵攻作戦“Urgent Fury”を例に挙げた。カリブ海で旧ソ連やキューバの影響下にある共産主義国家の成立を阻止し、戦略的には成功といえる作戦だったが、ライ氏は「ありとあらゆる問題が起こった」と振り返る。情報伝達や情報収集、輸送の面で多くの問題が発生し、海軍特殊部隊による偵察任務が失敗したり、侵攻の名目であった“現地に孤立した米国籍の医学生600人の救出”さえも、所在地についての情報が古くて無駄足を踏むなどといった事態が発生したという。

講演の最後にライ氏は、「将来日本も、現在起こっているトランスフォーメーションの一部に入ってくる」として、日本も情報システムについては相互運用に適さない独自システムではなく、標準化された技術を利用することが重要であると述べた。現在英国を初めとしてNATO諸国も、米軍の再編や情報技術の活用に対応するために大がかりな変革を迎えつつあるが、弾道ミサイル防衛から海外活動まで、幅広い分野で米軍との共同行動が必要となっている自衛隊もまた、米軍のIT技術活用に追随していく必要があるだろう。マイクロソフトがこのようなイベントを主催するのも、日本でも防衛分野で新たなビジネスチャンスが生まれると認識しているからだ。

今年1月まで海上幕僚長を勤めた古庄幸一氏(元海将)は、“将来の海上作戦におけるC4ISR-指揮官とIT”と題した講演の中で、自衛隊の活動範囲が地球規模に広がっている現状を示した。さらに護衛艦というハードの拡充から、C4ISRにコストをかけるという価値観の変化が、海上自衛隊でも進んでいると述べた

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