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マイクロソフト、知的財産戦略をテーマとしたプレスセミナーを開催――自社製品/サービスに対する“責任”“補償”を強調

2005年01月14日 18時46分更新

文● 編集部 内田泰仁

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マイクロソフト(株)は13日、都内オフィスで月例のプレスセミナーを開催し、同社およびグローバルにおける知的財産戦略に関する説明を行なった。登壇者は、執行役 法務・政策企画本部統括本部長の平野高志氏と、法務・政策企画本部法務本部長の水越尚子氏。セミナーでは、2004年5月の月例プレスセミナーで取り上げられた同テーマの最新アップデートという位置付けで、当時以降の取り組みや状況の変化、および当時のセミナーではあまり触れられなかった“補償”に関する内容が取り上げられた。

執行役 法務・政策企画本部統括本部長の平野高志氏

平野氏の説明によると、同社の知的財産権に対する基本的な考え方は以下の5点が大きな柱となるという。

  1. 製品を注意深く管理し、製品に関する知的財産権を保護する
  2. 他者の知的財産権を尊重し、同社製品およびサービスが必要とする追加的な権利についての手当てを行なう
  3. 顧客に“補償”を提供することを通じて、同社製品に対する信頼性を確保する
  4. 同社の取得する特許権を、他者に有償または無償でライセンスする
  5. 知的財産権が尊重される社会を目指す

開発~リリースにおける知的財産権のチェック/対応/管理のプロセス
まず、(1)および(2)については、市場/顧客ニーズに応じた製品開発のスタートから製品のリリースに至るまでの各過程において、自社および他者の知的財産の保護と尊重を前提としたチェック/対応/管理のプロセスが組み込まれているという。

また、(3)については、同社製品を使用するユーザーが、同社と(ユーザーとは直接に関係のない)第三者との知的財産権に関する紛争に巻き込まれることのない“安心”を提供するものであり、製品に対する責任とユーザーの保護の点から、企業として当然の責任である、としている。この“安心”の提供に向けては、前述した製品やサービスの知的財産権の十分な管理を行なうとともに、ユーザーが知的財産権の問題に関連した訴訟費用や損害賠償の請求を他者から受けないようにすることを目的とした補償の仕組みがすでに整えられているという。



同社および同業他社の知的財産権関連係争における補償の違い。表中の“Covered”は上限なし補償、“Capped”は上限付き補償を示す
具体的な“補償”の内容は、製品の購入経路に関わらず、すべてのエンドユーザーが取得した全製品に対し、知的財産権紛争における特許/著作権/商標/営業秘密の範囲において、防御のための訴訟費用および裁判所の決定した損害賠償額を上限を設けず補償するというもの。従来はボリュームライセンス契約を行なっている大規模ユーザーのみが対象となっていた補償制度だったが、2004年11月から前述のとおり“すべてのエンドユーザー”“すべての製品”が対象となっている(ただし、同社からOEMを受けたメーカーの手でコードの改変が可能で、責任の所在の切り分けが明確にしにくいケースが多い組み込み型の製品については、上限が設けられているという)。

平野氏によると、オープンソースソフトウェアを扱う競合他社では、一部のみ上限なし補償/一部のみ上限付き補償/特定の案件のみ補償といったケースがほとんどであることから、同社では、開発からリリースまでの徹底した知的財産権管理と上限なしの補償制度により、ユーザーに対して高い信頼性を提供できるとしている。



法務・政策企画本部法務本部長の水越尚子氏同社の特許ライセンス制度の基本方針。学術機関や標準化団体との協力体制の強化が盛り込まれている

(4)に関する説明を引き継いだ水越氏は、特許のライセンスに関する基本方針と、2004年5月のプレスセミナーで取り上げられたクロスライセンス契約の拡大についての現況説明を行なった。

同社の特許ライセンスの基本方針は、同社および市場全体の技術革新の継続的なサイクルの確立と、それに伴うビジネスの発展と産業振興への一助であり、水越氏は、特許収入の増加による同社の収益増を第一としたものではないという点を強調した。また、昨年からグローバルで取り組みを強化しているクロスライセンス契約については、独SAP社、独シーメンス(Siemens)社、米シスコシステムズ(Cisco Systems)社、米オートデスク(Autodesk)社、米シトリックス・システムズ(Citrix Systems)社などとのクロスライセンス契約を締結し、日本においては、現時点では企業名は具体的な挙げられないとしながらも、協業すべきパートナーと取り組んでいくと述べた。

またこれらに加えて、同社では標準化団体への参加にも取り組み、参加する各団体のポリシーを尊重、遵守し、同社が持つ技術やノウハウを、合理的かつ非差別的な条件で、有償または無償で提供しているという。

このほか、知的財産権の視点から見た“商用ソフトウェア”と“オープンソース・ソフトウェア”の違いについて、平野氏が同社の見解を説明した。この中で同氏は、「知的財産権は新製品を生み出すための“根源”」だと述べてその重要性を改めて強調、商用ソフトウェアの世界における知的財産権に関する制度の整備は十分に進みつつあるとし、技術革新には、知的財産権の尊重と制度の整備の両方が欠かせないものであるとした。一方、オープンソース・ソフトウェアは、大学などでの研究活動が起源にあるもので、ロイヤリティー負担のない特許ライセンスの供与を伝統とし、商用ビジネスモデルや経済活動とは異なる活動の中で成長してきた「(商用ソフトウェアとは)異なる起源を持つ、異なる形態」であるとした。

しかし現在は、異なる形態の両者が連携を図ることが求められており、同一のルールに基づく他者の知的財産権の尊重と、実効的な相互運用性の実現や業界横断的な協業関係の構築が必要だと述べ、これらにより「長期的にはオープンソース・ソフトウェアの開発者も利益を享受する」とした。だが、両社の間には今現在でも認識の相違があるという点も指摘しており、オープンソース・ソフトウェアでは、知的財産権の検討(自ソフトウェアの知的財産権の管理、他者の知的財産権との連携など)を経た開発プロセスが取られていないこと、“GPL(The GNU General Public License)”において、開発者およびディストリビューターのためのロイヤリティーを基礎とした知的財産権との連携を阻止することを意図する内容が盛り込まれており、「基本的に特許と違うところで生きていきたいという考え方」「知的財産権を否定する考え方」(平野氏)が根強く残っている点が課題として残っていると挙げた。

平野氏はプレゼンテーションの最後に、「知的財産の保護は業界および社会にとって重要な問題」であり、「知的財産の保護と活用は全世界的な潮流」だとして、産業の発展と活性化にも必要であるという面も含めた知的財産権の重要性を述べた。

プレゼンテーションに続いて行なわれた質疑応答の中では、米IBM社が現地時間の11日に発表した、オープンソースソフトウェア・コミュニティーに対する500件の特許の提供を公約した件(日本IBMによる参考資料)にも触れ、「現時点ではわからない点も多いが、マイクロソフトの取り組みとは(方向性が)違うと認識している」と答えたが、詳細についてのコメントは控えるとした。また、特許に関連して、“発明に対する対価”の報酬制度が同社および米本社にはあるのかという質問が出たが、平野氏によると、米国と日本とでは基本的な考え方が大きく異なっており、米国では「大きな対価を得られる発明をする人は、企業内で特別な報酬を受けるよりも、新たに会社を興す」という考え方が強いという。そのため、マイクロソフトグループにも、発明などにたいする特別な報酬の制度自体はあるものの、何億円もの支払いや訴訟といったことにはならないという。

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