発表会後のフォトセッションで、高樹沙耶さんとツーショットにご満悦の渡社長 |
新日本石油(株)は20日、東京・日比谷の帝国ホテルで記者説明会を開催し、LPガス(液化石油ガス)仕様の家庭向け燃料電池システム『ENEOS ECO LP-1(エネオスエコ エルピーワン)』を世界で初めて商品化し、2005年3月1日に関東の1都10県で限定150台を皮切りに提供開始すると発表した。2006年度以降は全国展開を図り、年間5000台の出荷を見込むという。当面は買い切り販売ではなくレンタル契約となり、契約期間は3年間、契約料は年間6万円で、設置に関してはアンケートおよび設置場所の調査を行なうとともに、動作中のモニタリング、運転データの収集などの契約が付帯する。また、ガスや水道などの配管工事費用や使用料はユーザーの負担になるという。
代表取締役社長の渡 文明氏 | 常務取締役 研究開発本部長の松村幾敏氏 |
説明会には、代表取締役社長の渡 文明(わたりふみあき)氏、常務取締役 研究開発本部長の松村幾敏(まつむらいくとし)氏、常務取締役 新エネルギー本部長の岡部達之介(おかべたつのすけ)氏らが出席し、同社が燃料電池事業に取り組んできた経緯や背景を説明した。さらに、最初にENEOS ECO LP-1を設置する著名人として選ばれた5人のゲスト、冒険家の風間深志(かざましんじ)さん、女優&ダイバーの高樹沙耶(たかぎさや)さん、エッセイストの玉村豊男(たまむらとよお)さん、プロスキーヤーの三浦雄一郎さん、ジャーナリストの幸田シャーミンさん(幸田さんのみスケジュールの都合で欠席)を招いて、燃料電池の普及に対する期待などについてトークセッションが行なわれた。
最初にENEOS ECO LP-1を設置する著名人として選ばれた5人のゲスト(幸田さんはスケジュールの都合で欠席) | 幸田さんはビデオレターで「家庭向けのLPガス仕様燃料電池ができたことは素晴らしいこと。私が使うことで、一般の方にも興味を持ってもらえればうれしい」と、メッセージを送った |
最初に挨拶に立った渡氏は、燃料電池への取り組みの経緯について、「独自の水素製造技術、触媒開発技術、環境対応技術などを最大限に生かせる分野として、1986年から燃料電池の研究に着手している。1995年にはLPガス仕様のリン酸型燃料電池、灯油仕様の燃料電池などを開発し、2002年に国の実証実験にも参加してきた。そして2003年に6万時間に及ぶモニター実験を実施したうえで、今回の商品化になった」と説明した。
同社の燃料電池への取り組み |
LPガスを使用する家庭用燃料電池の特徴については、「環境対策として期待できることに加えて、災害にも強いことが挙げられる。従来、大地震などの災害が起こると電気や都市ガスは寸断されてしまうが、ボンベという“拠点型供給システム”であるため、被災地にも迅速にエネルギーを供給できる。災害に強い都市づくり/街づくりという現在のニーズにも合致していると考える」と語り、先だって発表された東京ガス(株)と荏原バラード(株)、松下電器産業株が共同開発し、2005年2月に発売予定の固体高分子形燃料電池(PEFC)を牽制するような発言も飛び出した。しかし、記者からその点を指摘されると、「都市ガスの普及は都市圏に集中しており、面積比率では5%に過ぎない。しかし、人口も都市圏に集中するため、人口比率では50%に上る。逆に、LPガスは都市部以外の地域に広く浸透しており、先ほどの災害への対応といった観点からも、需要が高いと予想している。決して、都市ガスとケンカしようというつもりではない」と穏やかに訂正した。
続いて松村氏が製品の詳細を説明した。それによると、今回提供される家庭用燃料電池の仕様は、以下のとおり。
- 定格出力
- 750W
- 発電効率
- 34%
- 排熱回収効率
- 42%
- 総合効率(発電+排熱回収)
- 76%
ENEOS ECO LP-1は、酸素と水素の反応によって電力を得ると同時に、反応熱を水に伝えて給湯する“コージェネレーションシステム”で、先に発表されているPEFCタイプより定格出力はやや劣る(PEFCタイプは1kW)ものの、効率は上回る(それぞれ31%以上/40%以上)。
ENEOS ECO LP-1を設置した家庭のモデルケース。青のラインが給湯システム、赤のラインは電力供給 | 新日本石油は、今回の燃料電池システムの販売を契機に、総合エネルギー企業を目指す、という |
松村氏は、「家庭での標準的な消費電力は300~3000Wと言われている。従来の発電では一次エネルギーのうち60%が利用されない排熱として処理され、送電ロスで5%欠損し、家庭に届く電気としては35%程度になっていた。しかし、燃料電池システムでは電気と熱(給湯)で76%が活用でき、利用困難な排熱は24%にとどまる。また、使用する電力が750W以下の場合は燃料の供給を抑えて発電量を制限し、750Wを超える場合は従来の電力系統で供給する。給湯は最大200リットルの水を65度のお湯として排出するもの。バックアップの給湯器も備えており、湯切れになる心配はない」と同製品の特徴を説明した。定格出力を750Wに設定した理由について質問されると、「一般家庭で必要とされる給湯の容量との兼ね合いで電力を設定した。これより大きな出力も可能だが、同時に熱を回収する貯湯槽も大きくなり、無駄にする湯が出てしまうと考えたからだ」と答えた。
商品化の概要。契約料の金額は、燃料電池の導入による経済効果と相殺して、自己負担はほぼゼロになるよう計算したという |
また、年間6万円という契約料の設定について質問したところ、「あくまでもモデルケースだが、標準的な4人家族の家庭で試算すると、電気代の節約分が月額5500円程度になる。それに対して、ガスの消費増加分にはFC(燃料電池)導入支援の特別価格を設定し、これによる割引料金を利用すれば500円程度のコストアップで済む。この差額の5000円をベースに計算しているため、実質的なユーザー負担はゼロになると思っている。ただし、FCの特別価格を徹底する努力は、LPガスの供給元であるわが社にも必要と考えている」と根拠を説明し、実質負担ゼロによる普及の促進を目指すことを語った。
ゲストの4名と渡社長が、燃料電池システムを囲んでの一枚。高樹さんが腕を置く小型のユニットが発電装置で、渡社長の後ろにある長身のユニットが貯湯槽 |
一通りの説明が終わった後の、ゲストによるトークセッションでは、それぞれにLP-1の導入を決めた理由が質問された。高樹さんは、「ハワイの海でフリーダイビングの練習を重ね、日本に戻って海に潜ってみたところ、海の中が汚れていることに気付いてショックを受けた。これは陸の上で生活している我々に原因があると考えている。今新しい家を建てているが、ここには“パーマカルチャー”という循環型社会システム、簡単に言えば自給自足システムを導入することを検討している。そんな折にお話をいただいたので、ぜひ取り入れたいとお願いした」と答えた。
玉村さんは、「里山で1万5000坪の畑をやっているが、農作業にはエネルギーが必要。農業は地球の温暖化と密接につながっている。また場所が田舎なので、プロパンガスしか頼れない。そんなプロパンガスを使った燃料電池ができると聞いて、私自身も新しいもの好きだから、ぜひやってみたいと思った」と述べた。
三浦さんは、「昨年ヒマラヤのふもとにベースキャンプを作ったが、その際にぜひ燃料電池が欲しいと思っていた。しかし、日本にこんなにいいものがあるとは知らなかった。次の機会にはぜひ使いたい。実は、2008年にエベレスト、チョモランマの頂上に北京五輪の聖火を挙げようという計画があり、そこに参加するため、来年にはまたベースキャンプを設置する。ぜひそこにも使わせてほしい」と壮大な計画を明かした。
今年のパリ・ダカールラリーにバイクで出場したものの怪我を負ってしまい、リハビリ中という風間さんは車椅子で登壇し、「ちょっと事故っちゃって、ライフスタイルを変えてみたいと思っていた。山梨の自然の中でのんびり暮らそうと考えていたときに、この燃料電池を知った。自分の経験が、皆さんのいいサンプルになればと思っている」と抱負を語った。