FeliCa対応携帯電話を使ったFeliCaポケットのデモ。リーダーと操作端末のセットで5~7万円程度 | 写真のリーダーライターは、三和ニューテックが販売を予定しているFeliCaポケット専用の製品 |
ソニー(株)は13日、非接触ICカード技術“FeliCa”対応のICカードや携帯電話機を使って、ポイントカードや会員証などの顧客サービスを低コストで構築するためのアプリケーション『FeliCaポケット』の開発と、FeliCaポケットを使用するための低コストなリーダーライターなどを開発したと発表した。これらを用いることにより、中小企業や個人商店規模の事業者でも、FeliCaを使った顧客向けサービスを簡単かつ低コストで作成、運用できる。
FeliCaポケットの概要について説明する、ソニー FeliCaビジネスセンター営業部 統括部長の納村哲二氏 |
報道関係者向けに行なわれた説明会では、同社FeliCaビジネスセンター営業部 統括部長の納村哲二氏により、FeliCaポケットの概要についての説明が行なわれた。納村氏はまずFeliCaの特徴や普及状況について解説し、1997年に香港の交通機関向けICカード“オクトパスカード”として導入されたのを皮切りに、現在では日本で3600万枚、世界全体で6300万枚超が普及しているとした。納村氏はFeliCaの普及について、「カードの枚数もさることながら、FeliCaのカードがほとんど毎日使われているのが重要だと考える」と述べ、FeliCaが日常生活に根付いた技術となっていることを強調した。そして携帯電話にもFeliCa機能が搭載され始めたことにより、カードを普及させるコストが低減されるため、サービスとそれを提供する“場所”を圧倒的に増やすことに貢献すると述べた。ちなみにFeliCaの元になる技術は、1988年にソニーの研究所の1つで“宅配便用の物流タグ”として開発をスタートしたという。それを当時(財)鉄道総合技術研究所の理事をしていたソニー創業者の1人である故井深大氏が、「この技術は交通乗車券にいいんじゃないか」とアドバイスしたことで、交通乗車券の非接触ICカード化への研究が始まったという。
ワールドワイドでのFeliCaの普及状況。日本ではJR東日本の“Suica”が1000万枚を超えるなど、各地でプリペイド式交通乗車券として普及している | FeliCa発展の流れ図。道具としてのカード/携帯電話やリーダーとしてのパソコンなど、サービスとしてのSuicaやEdy、クレジットカード、さらにサービスを利用する“場所”の三位一体が重要と説く |
こうした現状を踏まえた上で、FeliCaをさらに普及させるには、サービスを受けられる“場所”を拡大することが重要ということで、「より簡便に安く(場所を)創出する」ために開発されたのがFeliCaポケットである。現状のFeliCaのサービスは、大量のカードを発行する交通事業者や、大規模なシステム開発/導入コストを捻出できる大企業に限られている。そこでFeliCaポケットでは、サービスの裾野を広げて中小企業や個人商店レベルでも導入できるようにするために、ある程度定型化されたサービスと、低価格の端末を提供する。
具体的には、FeliCaカード(以下FeliCa対応携帯電話も含む)上に用意される0.48KBのFeliCaポケット用共通領域を使い、1枚のFeliCaカード上に複数のサービスのデータを共存させる。たとえばレンタルビデオ店の会員IDや、ドラッグストアのポイントカードのポイント額、街の商店街限定のプリペイド金額といったデータが、1枚のFeliCaカードにまとめて記録できる。データ1件当たりの容量は32B(Bytes)で、1枚のFeliCaカードで最大8件分のデータを記録できる。
FeliCaポケットでカード上に定義されるフォーマット。FeliCaポケット用領域全体で0.48KB。そのうち個々のサービスが利用できるのは2ブロック(32B)分とのこと |
FeliCaポケットで重要なのは、サービスを提供する事業者のコスト負担が非常に少ないことだ。FeliCaポケット向けのサービスは、ポイントカードやプリペイド、会員証といったサービスが定型化されて用意されている。事業者が販社に対して希望するサービス内容を申請すると、サービスに応じた“アプリケーション設定カード”(これもFeliCaカード)が作成される。事業者はFeliCaポケット専用のFeliCaリーダーライターと、アプリケーション設定カードを購入する。これに加えて、事業者が何台分のFeliCaカードに自社のサービスを登録できるかを規定する“サービス回数券カード”も購入する。たとえば1000枚分登録したければ、1000回分のサービス回数券カードを買うというわけだ。リーダーライターの価格は、対応機器の第1号として2005年2月末に発売が予定されている三和ニューテック(株)の製品の場合5万~7万円程度(導入台数による)。これにアプリケーション設定カードが1枚7000円程度で、サービス回数券カードが1回分数百円(200円程度)。これだけで基本的なサービスは構築できてしまう。FeliCaカードは顧客自身が所有するものを使用するから、カードの発行コストはかからない。リーダーライターは必要な台数分だけ用意しなくてはならないが、同じサービスを運用するならアプリケーション設定カードは1枚でもかまわない。リーダーライターは単独で動作可能なので、必要がなければネットワークやパソコンとの接続(RS-232C端子装備、利用ログ等はコンパクトフラッシュ経由での出力も可能)も必要ない。個人商店レベルでの簡単なポイントサービス程度なら、10万円もかからずに導入できる(サービス回数券カード分除く)。既存のFeliCaサービスは、システム開発や導入で千万単位のコストが必要だったというから、それに比べれば劇的な低価格化と言えよう。
FeliCaポケットのサービス例。ポイントやプリペイド、会員証など、巷で一般的なカードの用途はほとんどカバーできる | リーダーライターにはログ記録用のCFスロットが備わるので、ネットワークを構築しなくても運用できる。背面にはRS-232C端子も装備 |
FeliCaポケットを使えば、たとえば弁当屋やクリーニング店のスタンプカードや、レンタルビデオの会員証を簡単に置き換えられるし、商店街の店舗共通のポイントカードを作るといったことも簡単だ。ポイントデータはカード側に保存できるので、個々の店舗を結ぶネットワークを作らなくても運用できる(もちろんネットワーク化された高度なサービスの窓口としても利用できる)。端末とカードの通信は暗号化されるので、セキュアーなサービスを提供できる。紹介された導入検討事例としては、札幌総合情報センター(株)が2005年度に、札幌市営地下鉄で実験中の交通乗車券“S.M.A.P.カード”を使った地域向けのサービスを予定しているという。またリーダーライターはオムロン(株)、(株)エヌ・ティ・ティ・データ、(株)デンソーウェーブなども製品化を予定している。
FeliCaポケットのサービス例。交通乗車券がその地域の商店のサービスも兼ねるなど、地域振興向けのサービスを構築できる |
FeliCa対応のiモード携帯電話機の場合、専用iアプリを使ってどのデータがFeliCaポケットを使っているかを確認したり、不要なデータを削除したりもできるという。FeliCaカードの場合は単独では確認や削除はできないため、不要になったサービスは、そのサービスを登録した店舗で削除してもらうことになりそうだ。パソコン用のFeliCaリーダライター向けに、ビューワー兼編集ソフトが提供してもらいたい。
現状のFeliCaカードのサービスは、1カード1サービス的な使われ方が多かったが、FeliCaポケットの登場により、より汎用的なICカードとしてFeliCaはさらに広がっていくと期待される。