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富士通研究所と東大、通信波長帯における単一光子発生に成功! 2007年の量子暗号通信実用化を目指す

2004年07月16日 21時40分更新

文● 編集部 小板謙次

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東京大学先端科学技術研究センター・生産技術研究所ナノエレクトロニクス連携研究センターの荒川泰彦グループと(株)富士通研究所は共同で量子暗号通信技術実現につながる単一光子の発生器を開発、15日に富士通本社にて報道関係者向けの説明会を開催した。

(株)富士通研究所ではナノテクノロジー研究センターを2000年に設立し、ナノデバイス、ナノマテリアル、ナノバイオの3分野を主に研究している 東京大学のほかにも、Cambridge-MIT Instituteとキュービットの研究を、さらに独立行政法人の物質・材料研究機構と一緒に量子ドットの製造技術の研究を行なっている
(株)富士通研究所ではナノテクノロジー研究センターを2000年に設立し、ナノデバイス、ナノマテリアル、ナノバイオの3分野を主に研究している東京大学のほかにも、Cambridge-MIT Instituteとキュービットの研究を、さらに独立行政法人の物質・材料研究機構と一緒に量子ドットの製造技術の研究を行なっている

量子暗号通信は秘密鍵を送信者と受信者の間で安全に共有することができる通信技術だが、(株)東芝、日本電気(株)、三洋電機(株)などが先行しており、いずれも実用化を見据えた研究開発を進めている。すでに量子暗号キーの配布に成功しているところもあり、海外でも米MagiQ Technologies社といったベンチャー企業が設立されている。しかし、「開発レースは序盤で、これまで発表されている技術だけでは本格的な実用化は困難であろうと我々は考えている」と(株)富士通研究所ナノテクノロジー研究センター長フェローの横山直樹氏は話す。

(株)富士通研究所ナノテクノロジー研究センター長フェローの横山直樹氏
(株)富士通研究所ナノテクノロジー研究センター長フェローの横山直樹氏

従来の光ファイバー通信について東京大学ナノエレクトロニクス連携研究センターの荒川泰彦教授は、「通常の光ファイバー通信では光パルスの列を送ることになるのだが、そのひとつの光パルス、すなわち1ビットに対応する情報媒体に光子の数が1万個から10万個くらいの数になる。ここで(実際に原理的に可能なのだが)なんらかの形で一部の光子を盗み出すということが行なわれるとする。1万個の光子を送っているときに100個くらい盗んで盗聴したとすると、9900は受け手に送られる。この状態では盗聴されているということは、まず気がつかない」と話し、現在のシステムは非常に弱いと指摘した。それを防ぐためには、1つの光子を確実に送るということが重要だ。つまり、ひとつの光子が盗聴された場合には、受信側に光子が送信されず、傍受されていることが検出される。

量子暗号通信のしくみ。量子力学の原理から光子は分割してコピーされることはできない
量子暗号通信のしくみ。量子力学の原理から光子は分割してコピーされることはできない。したがって送受信の間で盗聴が行なわれると、受信者に光子が送信されないため盗聴が検出される

また、単一光子は光の通信波長帯(1.3~1.6μm)で生成することがポイントだが、米国のスタンフォード大学や諸外国で発表された単一光子は1μm以下の短い波長となっている。また、従来のものは、ひとつの光子を検出するためにレーザー光を制限したコヒーレント光を用いているという。このため、かなり遅いビットレートになり、距離も限定されている。

今回の単一光子発生器は、光ファイバーでの通信波長帯で単一の光子を発生することが検証されたことが大きく、速度は従来の400倍程度になるとしている。

この発生器は量子ドットというナノ構造から効率よく光子を発生する半導体素子によって実現された。簡単にいうと、ちょうど電子がひとつ入る10~20ナノの大きさの落とし穴を作ってやり再結合することによって単一光子を作るしくみだ。この量子ドットはインジウムリン(InP)の上にインジウムヒ素の立体構造を作ることで実現している。サイズは20ナノメートル。高さが2~3ナノメートルだ。「この立体構造は自然発生的に生成されるもので、ちょうど机の上に水をたらすと表面張力によって水玉ができる現象に似ている」と荒川教授は説明する。これを光子を効率よく上に取り出すことができるよう設計された光学構造のなかに入れてやる。「断面はちょうど台形をしており、もう少し工夫すればもっとまっすぐに光子を取り出すことが可能」だという。また、ガリウムヒ素を使わなかった理由に関して横山氏は「ガリウムヒ素(GaAs)がドットのなかにガリウムが入り込み波長が短くなる。インジウムヒ素(InAs)のドットは高さのコントロールができる。成長をストップしてやると、上が削れるという現象がある」とコメントした。

量子ドットで光子を1個ずつ出すしくみ。ひとつの電子をきちんと制御しているために、ひとつの光子をきちんと制御することができる
量子ドットはインジウムリン(InP)の上にインジウムヒ素の立体構造を作ることで実現
量子ドットはインジウムリン(InP)の上にインジウムヒ素の立体構造を作ることで実現

本当にパルスのなかに光子が1個だけ含まれるかどうかという証明は、光ファイバーをカプラーで2分し、2つの検索器で計測した結果で判断された。光子は2分の1にはならないため、もし2個の光子が含まれると、同時に検出される。この結果、同時計測がほぼ0という結果が得られた。

本当にパルスのなかに光子が1個だけ含まれるかどうかという証明は、光ファイバーをカプラーで2分し、2つの検索器で計測した結果で判断された
本当にパルスのなかに光子が1個だけ含まれるかどうかという証明は、光ファイバーをカプラーで2分し、2つの検索器で計測した結果で判断された

これらの技術のニーズがどこにあるのかは明確ではないとしながらも横山氏は「金融機関を中心にある部分だなけでも通信が保証できるような要望が2007年くらいには出てくる可能性がある」と話している。

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