シンポジウム開会の挨拶を行なった慶應義塾塾長の安西祐一郎氏。自身はリアルタイムコミュニケーションの研究に従事とのこと |
米マイクロソフトの最高経営責任者、スティーブ・バルマー氏 |
「テクノロジーで教育は変わる」としたバルマー氏は、慶應義塾大学の創設者、福沢諭吉氏とマイクロソフトの基本理念を比較。福沢氏が、“教育により人の可能性を伸ばす”という考え方を持っていたのに対し、マイクロソフトは“ITによって人の可能性を引き出す”ことを念頭においているとして、人の可能性を伸ばすことができるのは“教育”と“IT”の2つだと述べた。
さらにバルマー氏は、今後10年間でビジネス、エンターテインメント、そして教育はITの発展により「劇的に変化しないと思いますか?」と質問。来場者はほぼ全員が挙手で「変化する」を支持したが、これを見た同氏は「私はどちらかというとビジネスマンで、10年先のビジョンはビル(=ビル・ゲイツ(Bill Gates)会長)の頭の中に」としながらも、「皆さんが知っているように、今後10年でITは大きく進化し、各分野は劇的な変化を迎えるだろう」と述べた。
マイクロソフトの研究開発、サポート/フィードバックに対する取り組み |
IT技術の現状については、「普通の人が考える単純なシナリオが実現できていない」状況だと分析。例として、同氏が“普通の人”だとする同氏夫人がデジタルカメラで撮り貯めて日付別のフォルダーに分類している3人の子供の写真を、たとえば“それぞれが5歳のときの写真”といったような“普通の人が考えつく分類”で直感的かつ簡単に取り出すことができないといったケースや、バルマー氏の今回の来日のスケジュール調整の際、予定をOutlookに入力して管理していても、調整や情報収集などのさまざまな準備は秘書の手を借りるなど“人の手”が必要になる状況を挙げた。しかし、これらの例も、この先の進化により10年後には解消されているだろうとした。
今後10年で大きな変革が進むとする分野へのマイクロソフトの取り組み |
また、今後のITの進化に必要なこととしては「テクノロジーがいかに人々の意見を聞いていくか」が重要だとしている。これらを踏まえマイクロソフトとしては、研究に対する多額の投資や専属の研究機関の運営、新しいシナリオ/使われ方の提案に基づく“統合されたイノベーション”の推進と、情報の収集と分析、迅速な対応、価値の創造による“顧客ニーズへの対応”の2点を注力するとしている。教育分野とも関係の強い技術面での展開としては、入力インターフェース(手書き入力、音声認識、リモコン)の強化やさらに高品位なデジタル体験の実現(HDクオリティーの映像)、存在や場所の認識、デジタルコンテンツの権利保護や管理といった分野の研究開発や普及活動をさらに進めるという。そしてこれらの先にあるコンピューティングの形として“シームレスコンピューティング(Seamless Computing)”を挙げ、どこからでも情報にアクセス可能で、個々人から企業まですべてのユーザーにわたり、真の生産性を創造する、というコンセプトを示した。
「デジタルコンテンツ分野における日本の役割は大変重要」だと述べたバルマー氏は、その理由として、
- 日本の産業界がリーダーシップを取るジャンルがある(家電業界やアニメーション制作分野)
- IT化推進を含む政府による産業育成政策が実施されている
- 教育分野が主導する研究が行なわれている
の3点を挙げている。特に、同社の研究開発機関“Microsoft Research(マイクロソフトリサーチ)”と大学との連携を重視し、教育分野との人材交流によるイノベーションの促進、教育分野の“教える”“学ぶ”環境整備への協力、技術革新のための支援といった取り組みを継続するとしている。
講演の最後に贈られた花束と人形を受け取るバルマー氏。「私はどちらかというとビジネスマン」と述べながらも、熱っぽくITを取り巻く未来を語り、ジョークを交えながら質疑に応じた姿が印象的 |
スピーチや挨拶は行なわなかったが、会場にはマイクロソフト(株)代表執行役社長兼米マイクロソフトコーポレートバイスプレジデントのマイケル・ローディング氏とマイクロソフト(株)執行役最高技術責任者兼米マイクロソフトコーポレートバイスプレジデントの古川享氏も来場し聴講していた |