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【特別企画】VAIO“type R”開発者インタビュー(前編)――ハードウェアの性能を引き出す新・冷却機構

2004年06月11日 23時33分更新

文● 永島和夫

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ソニー(株)の“VAIO”は、この夏“Do VAIO(=バイオする)”をコンセプトに、従来の“パソコン製品のブランド”から、“高次元なAV体験を提供する製品のブランド”として生まれ変わった。デスクトップパソコンの“type R”は、新コア搭載のCPUほか高速なアーキテクチャーと、ハードウェアの性能を引き出す新設計の冷却機構を採用した、“高速仕様”のフラッグシップモデル。またビデオ編集/DVD作成の楽しみを追求したマシンとして、DVD+Rの片面2層記録が可能なDVD±RWドライブを搭載し、『Adobe Premiere』や“TMPGEnc”シリーズなど関連ソフトを充実させ、高速仕様がガッチリとそれをサポートする。

主な仕様とデザインは5月に発表されたが、現時点(6月11日現在)では、上位2機種のCPU/チップセット/グラフィックスアクセラレーターが非公開。今回は、その全貌に迫るべく、type Rの開発者およびデザイナーに、インタビューを行なった。前編では筐体デザインや冷却機構、後編(近日掲載)ではスペックや静音性、ビデオ編集/DVD作成などについて紹介する。(取材協力はソニーマーケティング(株)の直販サイトソニースタイル)

type R
type R

インタビューに参加くださった開発者/デザイナー(カッコ内は所属部署)

商品企画:
戒能 正純(かいのう まさずみ、ITカンパニー)
デザイナー:
熊野 大岳(くまの だいがく、デザインセンター)
メカニカルエンジニア:
小林 紀男(ITカンパニー)
冷却機構エンジニア:
石川 雅幸(ITカンパニー)
光ドライブ担当:
大西 孝典(ITカンパニー)
左から戒能氏、石川氏、熊野氏、小林氏、大西氏


「小穴だらけにしたくない!」発熱問題に対するデザイン部門の回答は……

“黒とスリット(細長いすき間)”は、今期のVAIO全体のビジュアルテーマであり、それを最も体現しているのがtype Rだ。type Rを語る上で真っ先に取り上げられるのは、特徴的な外形だろう。モダンな高層ビルを想起させるブラックの筐体は、正面から見てスリット状のシルバーカラーがあしらわれているところを境に、光学ドライブとCPUの熱を逃がすヒートシンクが入った上段と、それ以外のHDD/グラフィックチップ/マザーボードのチップセットなどが入った下段に、構造的に分かれている。上段と下段の間は、側面から見ると、筐体を貫くようにエアインテーク(吸気口)が設けられている。側面にぽっかり穴が空いているのだ。

この外観についてデザインセンターの熊野大岳氏は、「熱くなるマシンだと聞いたので、発熱問題に対するデザイン部門の回答として、それ(放熱機構)を強いイメージとしてまとめた」という。もちろん、この外形が採用されるまでには、さまざまな検討と議論があったと振り返る。

熊野氏と小林氏
デザイナーの熊野氏(左)、メカニカルエンジニアの小林氏(右)

「(一般的に考えられる対応策として)例えば、空気を取り入れる小穴を空けるとすると、天井が小穴だらけになってしまう。デザイナーとして、そんなデザインにはしたくなかった」。熊野氏はこだわりの姿勢を貫き、他部署との調整を図っていったという。

また、筐体の構造を担当したITカンパニーの小林紀男氏は、「ただ穴があいているだけとは違う。発熱対策なり、デザインなりをまとめてから動き出したから、このカタチになった」と、きちんとしたストーリーがあった上で創り出されたものだと強調する。

その結果、できあがった筐体は、通気性の非常に良いものとなった。CPUの熱はヒートパイプで上側に、グラフィックチップやマザーボードのチップセットなどの熱は下側にと、熱を完全に分離できた。高負荷をかけてCPUが発熱しても、筐体下側の温度上昇にはあまり影響がなく、逆にグラフィックチップなどが熱を発することによってCPUの放熱性が悪化することもないのだ。

上下2段構造について小林氏は、「上側を持っても大丈夫」と剛性にも自信を見せる。部品が実装された状態で15kg程度の重さになるため、上下の結合を強固にし、力のかかる上側部分の淵は、ひずまないよう剛性を高くするなどの対策をとっている。下側の筐体を開けて増設などを行なう場合の開閉レバーもデザイン的にうまく収めることができたという。

さらに、もうひとつの効果もあった。VAIOの光学ドライブを担当するITカンパニーの大西孝典氏は「実は私は賛成ではなかったのですが、結果的には熱処理が楽な筐体になりました。下の筐体内が高温になるような動作状態でも、筐体上部に入ったドライブの温度上昇はごくわずかなんです」と評価する。

光学ドライブは意外に熱に弱い。ドライブ自体が発熱するということもあるが、それよりも中に入れるメディアが熱から影響を受ける。特にDVDは高精度が求められ、今回は新開発の2層記録が可能なDVD±RWドライブを搭載する。メディアが高熱によって変形するようなことがあれば、高品質な書き込み性能が維持できない。

大西氏は「いつもなら、試作段階では、こんなに熱いとメディアが反ってしまう――とハラハラしているんですが、今回そういう心配とは無縁になりました」と筐体の性能に満足げだ。



正面 正面(2)
正面から見たtype R。非常にすっきりとした、モダンな高層ビルを連想させるデザインとカラーだFDDやメモリーカードスロットの扉は、下にスライドさせる方式。xDピクチャーカードやSDカードにも対応する
背面 エアインテーク
背面から見たtype R。排熱用の穴は非常に多い。側面中央のエアインテークから吸った空気はすべて背面に流れる側面。エアインテークから空気を取り込み、CPUはじめ各部を冷却する
エアインテーク(2) トレー
手をかざすと向こう側が見える光学ドライブのトレーもブラックで統一されている
ワンタッチで開く下段サイドパネル 筐体上段(内側)
筐体下段のサイドパネルはワンタッチで開く。増設は非常にやりやすいマシンと言えよう筐体上段のパネルをとると、12cmファンが顔を見せる。下枠が強化されていることがわかる
筐体を持ち上げる 下側の内部
筐体上段の下枠が強化されたことにより、このように筐体をちょっと持ち上げてもびくともしない筐体下段のパネルを開けたところ。電源も、ドライバーを使わずに外すことが可能。その奥にはCPUがある
HDDを取りだす 光学ドライブ
HDDは、ブラケットを外せば簡単に着脱可能。写真のVGC-RA50には装着されていないが、本体側のHDDブラケット上部には8cmファンが装着できるようになっている光学ドライブは上段にあるため、CPUやHDDの発熱から完全に分離されている。メディアのためにも非常に優れた筐体となった

後編へ続く



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