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エプソン、40インチの有機ELディスプレー試作機を発表――インクジェット技術を応用、2007年にはTV事業に参入

2004年05月18日 22時22分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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セイコーエプソンが発表した40インチの有機ELディスプレーの試作品
セイコーエプソンが発表した40インチの有機ELディスプレーの試作品

セイコーエプソン(株)は18日、東京・赤坂の赤坂プリンスホテルにプレス関係者を集めて“ディスプレイ戦略説明会”を開催、4枚の低温ポリシリコンTFT基板を張り合わせて設計したという40インチの有機EL(Organic Light Emitting Diode、OLED)ディスプレーの試作機を発表した。同社では有機ELディスプレーを用いたTV製品などを開発しており、2007年に事業化を目指すという。



代表取締役副社長(CTO)の花岡清二氏、OLED技術開発本部長の飯野聖一氏
代表取締役副社長(CTO)の花岡清二氏(左)とOLED技術開発本部長の飯野聖一氏(右)

発表会には代表取締役副社長(CTO)の花岡清二氏、OLED技術開発本部長の飯野聖一氏らが出席し、同社のディスプレー戦略や有機ELディスプレーの開発状況などを説明した。

セイコーエプソンのディスプレー事業の内訳 ディスプレー事業戦略における有機ELディスプレー製品の位置づけ
セイコーエプソンのディスプレー事業の内訳ディスプレー事業戦略における有機ELディスプレー製品の位置づけ

花岡氏はセイコーエプソンのディスプレー戦略について、「有機ELディスプレー事業は、プリンター、プロジェクター事業に続く、“Digital Image Innovation”(画像と映像の融合領域を目指す、という同社のスローガン)の第3の柱として注力している。エプソンでは、携帯電話やPDAなどの小型表示デバイス向け(1~10インチクラス)にTFD(Thin Film Diode)やアモルファスシリコン、低温ポリシリコン基板採用の液晶ディスプレー、40インチ以上の大画面ディスプレーには3LCD(3板液晶ディスプレー)方式のリアプロジェクションTVを開発している。特にリアプロジェクションTVについては、日本でも6月ごろに発表できる予定で現在準備を進めている。一方、今日紹介する有機ELディスプレーはこの中間(10~40インチクラス)に位置するもので、具体的な製品としてはパーソナルTVやパソコン向けディスプレー、リビングルーム向けの大画面TVなどを想定している。エプソンではこのカテゴリーを“エンターテインメントディスプレイ”領域と総称し、2007年をめどに事業化に乗り出したい」と、強い決意を見せた。

有機ELディスプレーの特徴・特性と現在抱えている課題 有機ELディスプレーの具体的な製品化へのアプローチ
有機ELディスプレーの特徴・特性と現在抱えている課題有機ELディスプレーの具体的な製品化へのアプローチ。そのひとつとしてパソコン/HDDレコーダー/TVチューナーを複合した“パーソナルテレビ”を提案
新しい有機ELディスプレー搭載TVの位置づけと登場時期 エプソンが選択した有機ELディスプレー開発技術
ホームエンターテインメントにおける、新しい有機ELディスプレー搭載TVの位置づけと登場時期エプソンが選択した有機ELディスプレー開発技術。最初にインクジェットによる塗布・成膜技術を確立し、それに合わせて材料や駆動基板などを選択したという

次に飯野氏が有機ELの開発状況や、今回試作品を展示した40インチの有機ELディスプレーの開発技術について詳細を説明した。それによると、有機ELディスプレーには、

  • 薄型軽量(薄さ2mm以下)
  • 低消費電力(全面を均一に照らし出すバックライト付き透過型液晶ディスプレーとの比較)
  • 高コントラスト(1:200~300程度、作りこみによって1:500~1000程度も実現可能)
  • 高視野角(左右165度以上)
  • 高速応答(10μ秒以下で、スポーツや花火などの動きの激しい画面でもチラツキや残像感がない)
  • 色再現性が高い

などの特徴がある。その一方で、現在の課題として

  • パネルの大型化/高精細化
  • 屋外での視認性の向上
  • 長寿命化
  • 低消費電力化(反射型液晶ディスプレーとの比較)

があり、特にTVにおいては大型化と寿命が最優先課題だと話した。

エプソンでは、これらの課題を克服するべく

  1. エプソンが培ってきたインクジェットプリンターヘッド(材料に熱を加えずに吐出が可能なピエゾ素子利用の“マイクロピエゾヘッド技術”)による塗布・成膜技術で、有機EL材料を発光に必要な画素にだけ吐出する“オンデマンドプリンティング”を実現
  2. インクジェットプリンターヘッドで吐出しやすい高分子材料を採用し、材料メーカーと歩調を合わせて長寿命/高コントラストを実現する材料を検討(材料メーカーとの協力、需要があれば低分子材料にも将来は対応可能)
  3. 駆動方式として、高精細化技術が進んでいる低温ポリシリコンTFT基板を採用(ただし、パッシブ方式やα-TFT方式など既存の駆動方式にも対応可能)
  4. ヘッドを複数並行して動作させることで、小型(10インチ以下)/中型(10~40インチ)/大型(40インチ以上)のいずれにも対応可能(従来の蒸着方式では大型基板への対応が難しい)

などの技術開発を進め、今回40インチの試作機を完成させたという。特に寿命については、現在のテスト基板で1000~2000時間を達成し、最新の材料を使うことで5000~1万時間が実現できる見込みになっている。2007年の商品化に向けての当面の目標は、プラズマディスプレーと同等の5万時間を達成したい、と現状を説明した。

エプソン独自のインクジェットプリンターヘッドによるメリット CGムービーを使って有機EL材料の塗布・成膜の過程を示した
エプソン独自のインクジェットプリンターヘッド(ピエゾ素子採用の“マイクロピエゾヘッド技術”)によって、大面積へのパターニング、高精細パターニング、材料の有効利用などのメリットが得られるというCGムービーを使って有機EL材料の塗布・成膜の過程を示した

展示された40インチの有機ELディスプレーは、20インチの低温ポリシリコンTFT基板を4枚並べて、一度に有機EL材料を塗布する技術をアピールするためのもので、デモンストレーションで表示された映像は確かにきれいだが、明るい場面などでは基板同士の境に隙間が見える場合もあった。その点について同社では、「製品としての完成度は今後上げていく。今回は40インチの有機ELパネルを開発する要素技術が揃った点を広く知らせたい」と語った。解像度は1280×768ドット/26万色以上表示、1インチあたりのピクセル数は38(ppi)。

2.1インチの有機ELディスプレーを内蔵し、携帯TVへの応用を示したサンプル機 12.5インチの有機ELディスプレーを使った平面TVのサンプル機
会場には過去の展示会などで参考出展した有機ELディスプレーの製品応用化の実例も出展された。写真は2.1インチの有機ELディスプレーを内蔵し、携帯TVへの応用を示したサンプル機こちらは12.5インチの有機ELディスプレーを使った平面TVのサンプル機。今年4月の“EDEX2004”で参考出展された

発表会後の記者から、「2007年に立ち上げるというTV事業はほかの家電メーカーと競合するのか?」という質問に対して、花岡氏は「エプソンはパソコン側から事業を立ち上げているので、AV機器としてのTVではなくデジタル(IT)機器として、エプソンらしい(ユニークな)製品を投入していきたいと考えている。既存のAV機器や家電メーカーと競合するつもりはない」と答えた。また、3月に発表している三洋電機(株)との液晶ディスプレーでの協業に関連して、有機ELディスプレーの分野でも協業するのか、という問いには、「三洋電機は、コダック(株)と協力して低分子タイプの材料を使った有機ELディスプレーを開発している。今のところ、直接協業することは考えていない」と回答した。

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