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【東京国際ブックフェア2004 Vol.3】米Voyager創立者のボブ・スタイン氏やグラフィックデザイナーの杉浦康平氏が講演――電子書籍関連技術の講演に注目

2004年04月27日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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東京国際ブックフェア全体としては、基調講演を長野県知事の田中康夫氏が務めたり、出展社からの作家として、タレントの早見優さんが講演を行なったりと、華やかな部分もあったが、そのほかの講演は、出版関連の話題を中心に著作権や出版流通に関するセミナーが中心となった。中でも電子出版をテーマにソニー(株)やシャープ(株)といった出版関係者ではなく電子書籍の技術関連からの講演に注目が集まった。

●米Voyager創立者のボブ・スタイン氏やグラフィックデザイナーの杉浦康平氏が講演

同様にT-Timeブースにおいても、連日、電子出版に関連した講演が行なわれた。

初日の22日には、(株)パブリッシングリンク社長の筑摩書房専務取締役の松田哲夫氏(TBS系列『王様のブランチ』で書評コーナーを担当している“哲ちゃん”としても知られる)が“印刷に恋して”と題して講演を行なった。翌23日には米Voyager創立者で現在、Night Kitchenの代表を務めるボブ・スタイン(Bob Stein)氏が米国の電子出版事情について語るとともに、同社が開発した電子出版ツール『TK2』を披露した。スタイン氏の考える電子出版は大変、壮大なものであり、ビジネスから離れ、文化を創造するような話となった。

ボブ・スタイン氏
電子出版20年の経歴を持つ、ボブ・スタイン氏
TK2
ボブ・スタイン氏が開発している電子出版開発ツール『TK2』

また、23日には日本におけるブックデザインの第一人者、グラフィックデザイナーの杉浦康平氏が“本の時空を見る”と題して大変、興味深い講演を行なった。杉浦氏はこれまで話題になった数々のブックデザインを手がけてきたが、それらを例にとり、本にこめられた時間と空間を示し、ブックデザインを通じて出版の原点を見つめる講演を行なった。

杉浦康平氏
松岡正剛氏とともに作った『遊』(工作舎)を手にして語る杉浦康平氏。表紙にある“遊”の文字はどれもどこか間違っており、正しいのは1つしかないという仕掛けになっている。しかし、これを見てすべての人は“遊”という文字を認識する

大変、残念な事に、後半になって展示会場という種々雑多な出展社、来場者が参集する場所柄、かなりの騒音で杉浦氏の声がかき消され、講演は中途で頓挫してしまった。それでも杉浦氏は集まった聴衆の拍手に応え、壇上から降りて、数々の作品を事例として紹介した。中でも松岡正剛氏とともに創った『遊』では“つか”に納める文にアジア中のさまざまな言語をちりばめたものや、『エピステーメー』((株)朝日出版社)における“小口”を右から見た時と左から見たときでは異なる細密画など、つかや小口といった本が秘める空間を駆使したブックデザインの可能性を示唆した。これらの事例は、あらためていま見ても新鮮な驚きがあり、杉浦氏の発想の柔軟さ、煌めきに驚くばかりだった。杉浦氏はこれからの電子出版において、こうした過去のブックデザインから得る事ができる創造性の高さを指し示した。

噂の真相 『エピステーメー』
杉浦氏が「好きなようにやらせてもらった」という雑誌『噂の真相』(噂の真相)。話題を呼んだ休刊までの6号ぶんの表紙でカウントダウンを行なった。最後の休刊号は、編集長の写真ととも棺桶に収められ、写真家・荒木惟好氏により写真に納められた全体をアルミ箔で覆った『エピステーメー』。まるで鏡のようだ。本文ページは黒地で、文字、図版ともに白抜きで表示された
経本の体裁をとった曼陀羅の本
経本の体裁をとった曼陀羅の本。開いていくと曼陀羅を全体を掲載したページを開いた状態で、同時にその一部分の釈迦を拡大したページを開くことができる。左端の顔はそのとなり、さらにそのとなりのページの左上、右端のページの上段中央にある。杉浦氏は「こうした発想は西洋の製本にはない東洋独自のものだ」と語った

そのほか、アニメーション作家の片山雅博氏、東京大学教授の浜野保樹氏、“青空文庫”を主宰する富田倫生氏らが講演を行なった。

●講演の間には技術セッションも

講演の合間には、『T-Time Σ』や『T-bridge』、『azur』といった同ブースで紹介されていた(株)ボイジャーが開発を進める技術を紹介するセッションが行なわれた。

T-Bridgeを使って出力したデータを元に印刷・製本した印刷本
T-Bridgeを使って出力したデータを元に印刷・製本した印刷本(右が(株)筑摩書房、左が(株)講談社製)

『azur』(aozora unique reader)は青空文庫とボイジャーが共同開発した青空文庫に最適化したビューワーだ。azurは3700をこえる青空文庫収蔵作品を縦書き表示するウェブブラウザーとして機能するツールで、画像化されたJIS 外字やルビタグに対応するなど、組版ルールに則った表示を可能としている。azur試用版は、ボイジャーのウェブサイトからダウンロード可能で、同じく同サイトでライセンス販売(価格は2100円)を受けることができる。Windows XP/2000、Mac OS X 10.2以降で動作する。

『これ一枚蔵書3000(CD-ROM版)』ボイジャーブースでは、青空文庫収録作品と『azur体験版』(30日間試用)をおさめた『これ一枚蔵書3000(CD-ROM版)』を500円で販売していた
青空文庫メインページ Mac OS X版azurでフルスクリーン表示
Windows XP版azurでアクセスした青空文庫メインページMac OS X版azurでフルスクリーン表示した。作品は宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』

『T-Time Σ』では、ボイジャーが開発を進めているT-TimeコンテンツをΣBook向けファイルに変換するツールを紹介した。T-TimeをΣBookに変換するエディター『T-break Σ』と実際にΣBookでの表示状態を確認するための『TTS View』、マニュアルPDFやサンプル、基本的なサポートを含んだ『ΣPac』という形でボイジャーから販売する予定だ。価格は5万円程度を検討しているという。なお、実際にΣBookに変換しても、そのままでは有料、無料に関係なくΣBookで表示できないので、ライセンス契約して著作権保護情報を付与してもらう必要がある。ただし、この部分を東芝が提供することになるかはまだ未定とのことだ。

『Σpac』の画面
『Σpac』の画面。中央が変換後にΣBookでの表示状態を確認する『TTS Viewer』
“SD-Book”
すでにドイツのIT関連見本市“CeBIT”で公開されていた東芝のΣBook対応機の最新試作機“SD-Book”。日本国内では初公開となった。これまでの試作機と比較して、明らかに薄く仕上がっている。また、従来は1枚の液晶を使っていたが、本機では2枚使われており、ノドの部分が若干幅広になっている。ページを操作するボタンがこれまでのボタンではなくスクロールキーのような形状になった

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