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NECエレクトロニクス、米トランスメタのリーク電流低減技術“LongRun2 Technologies”のライセンスを取得――公募株式も取得し戦略的協業

2004年03月25日 00時00分更新

文● 編集部 内田泰仁

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NECエレクトロニクス(株)は25日、米トランスメタ社が開発したトランジスターからのリーク電流を低減する技術“LongRun2 Technologies”(以下LongRun2)のライセンス供与を受け、今後長期的なパートナーシップの構築と強化を図るために、トランスメタの公募普通株式を取得したと発表した。

NECエレクトロニクスとトランスメタの提携の枠組み
LongRun2のメリットを挙げたスライド半導体の抱える電力問題の例として挙げた、インテル製CPUの最大消費電力の推移

LongRun2の技術解説を行なうトランスメタの創設者で最高技術責任者のデビッド・ディッツェル氏
LongRun2は、トランジスターのリーク電流(※1)と“しきい値電圧(Vt)”を動的に制御するトランスメタの技術。トランスメタの製品では、次世代“Efficeon”に搭載される。トランジスターはゲートへの入力電圧がVtを越えるとオンになるが、低Vtのトランジスターはオン-オフの切り替え速度が高速にできるがリーク電流が大きく、高Vtのトランジスターはリーク電流は少ないが切り替え速度が遅くなるという。LongRun2では、トランジスターに高い負荷がかかるときはVtを下げて切り替え速度を高速に、休止状態では逆にVtを上げてリーク電流を抑えるというように、Vtを動的に調整することで効率を改善し、ダイナミックにリーク電流を調整・制御可能だという。

※1 回路上から漏れ出す電流。トランスメタの説明によると、半導体の総消費電力は、アクティブ電力(本来半導体を動かすのに必要な電力)+リーク電力であり、リーク電流の増大は消費電力の増加や温度上昇につながる、としている。

NECエレクトロニクスは、並列プロセッサー技術やオンチップ・スイッチ技術(LSI内の非アクティブ回路の電源をオフにする技術)、重要バスのみを高速動作させることで半導体全体の消費電力を抑えるためのマルチ・ゲート酸化膜厚やマルチしきい値電圧といったデバイス技術、ゲート電極材料やHigh/Low-Kといった素材/プロセス技術といった技術の研究、開発に独自に取り組んでいるが、今回のライセンス取得によりこれらの技術を補完し、同社の低消費電力化分野での優位性をさらに高めていくとしている。同社では、90nmプロセスを皮切りに、65nmおよび45nmプロセスの半導体製品にLongRun2を導入し、モバイル分野を中心とする低消費電力化が必要な半導体市場に向けて製品を出荷していくという。



説明会最後に行なわれた提携調印式後、壇上で握手を交わすNECエレクトロニクスおよびトランスメタの出席者。左から、トランスメタのデビッド・ディッツェル氏、NECエレクトロニクスの取締役副社長の橋本浩一氏、トランスメタの社長兼最高経営責任者のマシュー・ペリー氏、NECエレクトロニクスの執行役員兼企画本部長の山口純史氏

発表に合せて都内で開催された記者発表会には、NECエレクトロニクスの取締役副社長の橋本浩一氏、執行役員兼企画本部長の山口純史氏、トランスメタの社長兼最高経営責任者のマシュー・ペリー(Matthew R.Perry)氏、創設者で最高技術責任者のデビッド・ディッツェル(David R.Ditzel)氏が出席し、ライセンス契約の経緯や意義、LongRun2の技術説明、契約の調印式が行なわれた。

トランスメタのマシュー・ペリー氏

最初に登壇したペリー氏は、「低消費電力化は業界全体の課題」として、中でもリーク電流の問題は今後さらに深刻化するという見通しを示した。これを踏まえて、リーク電流を制御可能なLongRun2について、「トランスメタに有用な技術は他社にも有用」であることから、トランスメタが持つ豊富なノウハウと知的財産をライセンス供与していくと述べた。また、トランスメタでは今後、今回のようなライセンス事業の割合が拡大していくだろうと予測している。

NECエレクトロニクスの橋本浩一氏

続いて壇上に立った橋本氏は、技術導入の内容や提携の枠組み、今後のプランなどを説明。氏によると、「NECエレクトロニクスも低電圧の技術をいろいろ持っているが、それだけでは十分ではない」との考えから、トランスメタの技術を調査・評価して技術提携を決めたという。技術導入については、

  • LongRun2に関係するノウハウや特許権のすべてを対象とする
  • LongRun2を同社の90/65/45nmプロセスの半導体製品に適用して生産と販売を行なう
  • LongRun2に関するライセンス料および特許料をトランスメタに支払う

としている。また、「単なる技術を導入して支払うという関係ではない」「(製品開発に)長い期間をかける以上、安定して長期間の関係を築く必要がある」として、株式取得(質疑応答での山口氏の回答によると、正確な数字は未公開だが、取得株数は全株式の2%以下だという)による出資で関係を強化を図ったと述べた。

NECエレクトロニクスの低消費電力化技術と導入分野LongRun2適用製品の展開プラン

橋本氏の解説によると、移動体通信機器、ポータブルAV機器、ノートパソコンを含む情報端末といった携帯性が求められるポータブル機器、デジタル家電、基幹通信機器、周辺機器などのAC電源駆動だが低消費電力が要求される機器に向けた半導体市場が今後さらに成長すると予測され、これらの機器に向けたシステムLSI需要は年20%に及ぶという。そこで同社は、すでに同社が持っている技術とLongRun2とを組み合わせることにより、低消費電力対応を強化し、これらの製品用の半導体製品を展開していくとしている。実際のLongRun2導入製品は、2005年にモバイル、基幹通信、サーバー/ワークステーション向けの90nmプロセス製品をリリース、2005年末から2006年には65nmプロセスにてモバイル、基幹通信、サーバー/ワークステーション、周辺機器、家電、デジタルAV向け製品を投入していく計画であるという。また、65nmプロセス製品では、LongRun2を標準テクノロジーとして同社製品に適用していくことも検討しているという。

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