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DVDバックアップソフト『DVD X COPY Xpress』開発元CEOインタビュー――ハリウッド映画業界と法廷闘争中も「最終的には“消費者が勝利する”」

2003年12月06日 04時27分更新

文● 編集部 内田泰仁

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日本では(株)アクト・ツーが発売することとなった、米321 Studios社のDVDバックアップユーティリティー『DVD X COPY Xpress(DVD エックス コピー エクスプレス)』は、この種類のソフトとしてはいち早く一般店頭に並んだ製品だ。日本語版ではCSS暗号化が行なわれているタイトルのバックアップはできないが、米国版ではCSSで暗号化された市販ソフトのバックアップも可能となっており、この点にハリウッドの映画業界が強い不快感を表明し、現在法廷で是非を問う裁判が進行中だ。今回は、日本語版発売のプロモーションを兼ねて来日中の、321 StudiosのCEOであるロブ・シマーン(Rob Semaan)氏に、日本での展開やハリウッド映画業界との関係などについてインタビューを行なった。

米321 Studios社CEO、ロブ・シマーン(Rob Semaan)氏
[編集部] まずはじめに、321 Studiosの概要を教えてください。
[ロブ・シマーン氏] 321 Studiosは2001年に設立したソフトハウスで、米国ミズーリ州を拠点としています。2年前にゼロから創業し、現在では従業員は275名を擁しています。リリース中のソフトは、4本のDVDバックアップツールを中心に、現在9タイトルをリリースしてきています。
『DVD X COPY Xpress』 日本語版パッケージ
[編集部] 日本での展開スケジュールは?
[ロブ・シマーン氏] 11月に日本での最初のタイトルとして『DVD X COPY Xpress』をリリースしました。また、12日には第2弾ソフトとして、デジタルカメラで撮影した画像を元にアルバム仕立てのDVD-Videoを簡単に作ることができる『DVD X SHOW』が発売します。2004年明けからも数本のソフトを新たに投入します。

日本市場は非常に大きなマーケットなので、日本で我々のソフトをリリースできたのは非常にエキサイティングなことだと感じています。現在日本全国各地の小売店舗などに展開をしており、売上的にも非常に大きな期待を持っています。
[編集部] DVDバックアップソフトというジャンルを他社に先駆けてリリースしたきっかけは?
[ロブ・シマーン氏] これまでは、VHSやCD、テープなどのコピーをパソコンを使って取るという使い方がされていましたが、現在のトレンドを見ると、DVDのコピーを取るという要求もあるだろうと考え、DVDバックアップツールを投入したのです。 我々のソフトに一貫した理念は“誰にでも簡単に扱える”ものであるということです。『DVD X COPY Xpress』の場合、ユーザーがバックアップを作るときの操作は、ワンボタン、ワンクリックのみとシンプルです。
[編集部] 現在発売中のタイトルは、DVDバックアップソフトのほかはどのようなものですか?
[ロブ・シマーン氏] すべてDVDに関連したもので、デジタルカメラで撮影した写真を元にDVDプレーヤーで再生可能なアルバムを作る『DVD X SHOW』、PowerPointのデータをDVD化する『DVD X POINT』、VHSやDVカムコーダーの映像をDVD-Videoにする『DVD X MAKER』、傷が付いて読み出しが困難になってしまったメディアを復旧して新しいメディアに作り変える『DVD X RESCUE』『CD X RESCUE』です。DVD X COPYシリーズと同様に、誰にでも非常に簡単に使えるソフトだと自負しています。
[編集部] “DVD X COPY”シリーズは、CSSで暗号化されたDVD-Videoタイトルのバックアップが可能な非常に強力なツールですが(※1)、それだけに、ハリウッドの映画業界との関係が難しくなっているようですが。
※1 日本語版はCSS暗号技術を使用している市販のDVDソフトのプロテクト解除機能は搭載していない

[ロブ・シマーン氏] 2001年の3月、我々のソフトに対して、ハリウッドの映画業界が嫌悪感を抱いており、告訴も辞さないという動きだという新聞報道がありました。これを受けて我々は、告訴されるのを待つよりも先手を打とうと決定し、我々のソフトが法律になんら違反するところがない、合法な製品であるということをはっきりと法廷で証明するために行動を起こしました。法廷での戦いはすでに18ヵ月が経過しましたが、現在、ハリウッドの大手映画会社9社を相手に裁判を戦っており、イギリスでも同種の訴訟がおきています。しかしその間にも我々の製品は米国内で人気を博し、現在では米国以外の市場でも徐々に地位を築きつつあります。
[編集部] ハリウッドの映画業界は、御社の製品のどこに対して特に嫌悪感を持っているとお考えですか?
[ロブ・シマーン氏] 最大の理由は我々のソフトに強力な“リッパー”(DVD-Videoから映像を抽出する機能)が搭載されていることです。映画のDVD-Videoには、CSSによるコピープロテクトが施されていますが、我々の“リッパー”はCSSを回避する機能を備えていますから。しかし、DVD X COPYシリーズがアメリカおよびそのほかの国々で高い評価を集めているのは、まさにこの機能のためです。

我々のソフト開発の基本的な信念として、合法的にDVD-Videoを購入したユーザーが、“個人使用のために”バックアップを取るという行為の自由があってもいいと考えています。しかしハリウッドの映画会社は、どのような理由であれ、一切のバックアップ行為はしてはならないという法解釈の元に行動を取っています。

我々は(バックアップを作成するという行為に対して)“FAIR USE”(直訳すると“規則を守った使用”)という信念を掲げています。一方、ハリウッドは“NO USE”(使用しない)だとしています。Napsterのようなソフトでは“FREE USE”(“自由な使用”)という考え方のもと、何百万人というユーザー同士で、自由に、かつ無償で共有しようとしており、これはハリウッドの考え方とはまったくの両極端です。我々の考え方はその中道を行くもので、合法的な形で製品を買ったのであれば、妥当な限りにおいて、合法的な範囲でバックアップを作成する権利があるべきだ、と考えています。
[編集部] “DVD X COPY”シリーズの使い方としては、どのようなものを考えているのですか?
[ロブ・シマーン氏] 中心となるのは、各個人が購入したDVD-Videoのバックアップです。DVD-Videoのメディアは傷が付きやすく、また傷に強いものではありません。我々が調査したところでは、ユーザーの40%はメディアに傷をつけてしまい使えなくなったという経験があるそうです。また、映画などのDVD-Videoは、ディズニーがよくやる手ですが、出荷本数を“限定数万本”というように少量に絞り、予定枚数が終了すると廃盤になってしまって入手できなくなってしまうということが頻繁に起きます。DVDメディアは傷などで使えなくなってしまう可能性がありますから、あらかじめバックアップを取っておいてそちらを普段は利用するようにすれば、オリジナルは安全に保管しておくことが可能だというわけです。
[編集部] 御社が提案する使い方である、各個人が購入したタイトルのバックアップという使い方以外に、いわゆる非合法的な用途、たとえばコピーしたタイトルの海賊版不正販売、ネットワークを経由したデジタルデータの不正な配布といった用途に用いられてしまう可能性も考えられます。御社自体の取り組みとして、こういった非合法な用途に対する対策はどのようなことを行なっているのでしょうか?
[ロブ・シマーン氏] たしかに、我々のソフトはユーザーのモラル次第では非合法な利用方法もできてしまいますが、我々はそのような非合法な利用を勧めるためにこのソフトを作ったわけではもちろんありません。そこで我々は不正な利用を防止するためにいくつもの取り組みを行なっています。まず第1にはユーザーのモラル面の啓蒙活動。パッケージやソフト中で、あるいはウェブサイトなどで、著作権についての認知や著作権を犯す行為に対する警告文を掲載するなどしていますし、DVD-Videoのバックアップを行なう際に、元となるメディアをドライブに入れた時点で“このメディアはレンタルのものですか?”ということをユーザーに質問し、レンタルであると答えた場合にはソフト自体をシャットダウンし、コピーを行なえないようにしています。もちろん、ここで嘘をついて“レンタルではない”と言ってしまえばそれまでなのですが、啓蒙の手段としては重要なものであり、偽ってバックアップを取ろうとするのは、そのユーザー自身が“著作権を侵害する”という行為について責任を負わなければなりません。

第2には、バックアップメディアを作るときに、その先頭部分に“このメディアはDVD X COPYで作成したコピーで、個人使用に限り利用することができる”という文言が必ず挿入されるようになっています。この映像はユーザー側の操作で挿入しないようにすることはできませんので、使用するユーザーは必ず“このメディアはコピーである”ということを認識することになります。

第3には、オリジナルのDVD-Videoからコピーを作ることはできますが、コピーメディアからさらにコピーを取ることができないようにしたり、コピー作業中にHDD内に作られる中間データは、作業完了後に自動的に消去されるようになっており、デジタルコピーの無制限な作成やファイルデータの抽出に制限を設けています。そして4つ目の施策としては、ソフトのアクティベーション情報と連動した“電子透かし”をコピーメディアに埋め込む処理を行なっています。電子透かしにはユーザーの情報や作成時のコンピューターのIPアドレスなどが含まれているので、仮にDVD X COPYで作成した海賊版が押収された場合、この“電子透かし”を解析してユーザー情報のデータベースと照らし合わせれば、どこの誰が作成したものかを追跡することが可能となり、捜査の役に立つはずです。

そして、我々はこれらの取り組みをすべて、誰かに命じられてやっているわけではなく、自発的に実施してきています。

そもそも、このソフトを使ってバックアップを作成するには、2時間の映画などの場合は、だいたい1時間程度の時間がかかります。つまり、このソフトを使って大量の海賊版を作るのには膨大な時間が必要になりますから、そういった不正行為を行なうユーザーにはこのソフトは向いていないでしょう。なので、海賊版作成ツールとして、そういった不正な目的に使用する人はまだ出てきていません。1000人が一斉に作業をするような方法だったら、大量に作ることも可能かもしれませんが(笑)。


日本での販売を担当する(株)アクト・ツーの代表取締役、加藤幹也氏(左)とシマーン氏(右)。加藤氏は321 Studiosを「若く情熱がある有望な企業」と評している
[編集部] いざというときに備えてバックアップを作っておくという考え方に難色を示しているハリウッドの映画業界は、たとえば買ったDVD-Videoに傷をつけてしまったりした場合には、消費者はどうするべきだと考えているのでしょう? また、アメリカではそういうときの対策が何か用意されていたりするのですか?
[ロブ・シマーン氏] 「もう1枚買ってくれ」ということです(苦笑)。返金や交換といった制度は何もありませんからね。もし、そういった仕組みやサービスができたとしたら、大きなマーケットになる可能性もありますが、(ハリウッドは)そういう市場の可能性がある、そういうニーズがあるということを認知しようとはしていません。

いつでもすぐに買いなおせるものはともかくとして、廃盤になってしまったタイトルの再購入となるとかなり困難になってしまいます。オークションサイトの“eBay”などでは、元の値段の数倍から数十倍になってしまうものもあるようです。
[編集部] であれば、バックアップする権利を認めてくれてもいいようにも思うのですが。
[ロブ・シマーン氏] ハリウッドの考え方では、DVDは決して損なわれないメディアだと解釈されているようです。DVDは非常にハイクオリティーなメディアで、デジタルの高画質で画質劣化はなく、メディアは頑丈で壊れないものであり、傷などの損傷といったことが市場でおきることはないし、もし壊れやすいものであればこんなに普及するなんてことはありえない、だからバックアップの必要はそもそもない、のだそうですが……これはまったく馬鹿げた話です。
[編集部] 日本語版では、非常に強力な機能である“リッパー”を削除する形でのリリースとなっていますが、フル機能で発売できなかったことに関するご感想は?
[ロブ・シマーン氏] 日米の法体系、法解釈の違いの大きさを感じました。アメリカの法体系だと、上下院で決定された法律の実際の運用は、州、判事、そして陪審員の判断により、ある程度の“幅”が生じます。しかし、日本では、非常に明確に細かく法文化されて厳格に運用されているので、運用の“幅”というものがありません。アメリカには“DMCA”(the Digital Millennium Copyright Act、デジタルミレニアム著作権法)という法律が施行されており、日本など諸外国にもこの法律を広めようとしています。日本の法律は、このDMCAを非常に厳しい解釈の仕方で受け入れており、“リッパー”を含む状態では、販売側である我々も法を犯していると訴えられる可能性があると判断しました。
[編集部] しかし、インターネットで配布されているような外部のリッパーと組み合わせることで、強力なバックアップ機能を実現することも可能なようですが。
[ロブ・シマーン氏] 他社のソフトと同様に、我々のソフトも外部のリッパーと組み合わせて使うことが可能です。中には非常に強力で優秀なリッパーもありますので、日本語版では、ユーザー自身でそういったものも組み合わせて使い方を広げてほしいですね。
[編集部] 最後になりますが、ハリウッドとの決着の見通しはどうなりそうでしょうか?
[ロブ・シマーン氏] まだ時間は必要だとは思いますが、いずれ何らかの決着は見ると思います。我々としては、最終的には“消費者が勝つ”と信じています。過去に法廷で論争になったNapsterも、法律で市場から強制的に排除するのではなく、正しい運用とコントロールを企業側が行なうことができていれば、莫大な利益を生んだことでしょう。しかし、法の力で排除してしまったがため、同種のソフトがアンダーグラウンドにまぎれることになってしまい、よりコントロールが困難になり、利益も上がらない形になってしまっています。我々はすべてが合法的なものであると証明しつつ、消費者の利益になるようなソフトを提供することで成功していきたいと考えています。
[編集部] 本日はどうもありがとうございました。


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