IBMのWebSphere製品群はアプリケーションサーバのみならず、ミドルウェアに必要な大規模システム向けの基盤から開発者が直接触れるツールまで、他社に比べても非常に幅広いラインナップを誇る。ゆえにわかりづらい面も否めない。
今から80年以上前に出版されたウォルターリップマンの『世論』という名著には、メディアが作り出す情報の独り歩きによる胡散臭さというものが記されている。世論ばかり気にする政府が胡散臭いかどうかはともかく、IT業界にも世論にあたるものがある。市場シェアという数字だ。
J2EEベースアプリケーションサーバの世界では、IBMのWebSphere Application ServerのシェアがBEAのWeb Logic Serverと数字の上では拮抗している。製品を選択するユーザーの側は、製品やサービスの品質、価格、情報、実績といった点から総合的に判断する際の材料として、市場シェアの数字も参考にはなる。その際には、実際にどういった手法で、何を基準に算出された数字であるかを十分吟味する必要がある。
市場ではIBM WebSphere Application ServerとBEA WebLogic Serverの2製品が圧倒し、他社が一歩遅れて追いかける構図となっている。一方の雄であるWebSphereは当初、アプリケーションサーバ製品の名称として使われていたが、最近では統合ミドルウェア製品のブランド名として冠するようになり、既存のいくつかの製品とラインナップが統合され、多種多様な製品群を指し示すよう変わった。今回はそれらの製品をひもといていく。
【図1】WebSphereを中心としたソフトウェアプラットフォーム |
WebSphere製品ラインアップとその目的
数が多いので、まずは全体の概要から説明したい。WebSphereブランドは大きく3つの柱から成り立っている。「ビジネスポータル」、「ビジネスインテグレーション」、「基盤とツール」の3つだ。これら3つの概念を軸として各種製品が存在し、WebSphere以外のソフトウェアブランドである、DB2、Lotus、Rational、Tivoliも含めたソフトウェアプラットフォームを形成している。その中で互いに結合するコアとしてWebSphereが位置付けられる(図1)。
ビジネスポータルは、システムユーザーに対して統合的な入り口、つまりヒューマンインターフェイスを提供するものである。Webブラウザやモバイル機器など各チャネルによるアクセス、言語変換や音声対応、加えてアクセス状況の分析などとなる。
ビジネスインテグレーションは、人間の目に見えないシステムに近い層で接続するシステムインターフェイスといえる。システム同士の接続とメッセージのやり取りを行い、統合し、同期を取ることで分離されたビジネスをまとめることを実現する。
基盤とツールは、可用性と信頼性を要求されるシステムコアと、開発用の各種ツール群ということになる。
各種製品グループを表1にまとめた。さらに、各グループのパッケージとして用途やグレードごとに種別が存在するが、これについては後述する。
システムの構成や規模、目的などによって不要なものもあり、理解しづらい製品群もあるかと思う。そこで、このグループごとに製品の詳細を紹介する。
グループ | 製品 | 用途 |
---|---|---|
ビジネスポータル | WebSphere Portal | ポータルサイト構築 |
WebSphere Everyplace | モバイル対応 | |
WebSphere Commerce | 電子商取引 | |
WebSphere Voice | 多言語対応と音声対応 | |
ビジネスインテグレーション | WebSphere Business Integration | ビジネス統合 |
WebSphere MQ | メッセージ キューイング | |
基盤とツール | WebSphere Application Server | トランザクションエンジン |
WebSphere Studio | 汎用開発基盤と開発ツール | |
WebSphere HostIntegration | ホスト拡張 |
WebSphere Portal
WebSphere Portal製品の目的は、フロントエンドの統合である。ユーザーや目的ごとに分離されていたWebフロントの情報を一元化し、サービスレベルの向上と管理コストの削減を両立させることができる。たとえば、企業の事業部ごとにWebサイトを構築していると、管理コストがかかったり更新が滞ってしまう。こうなると情報の価値が失われ、利用者が価値を見いださなくなり、ますます管理されなくなるという負のスパイラルに落ちてしまう。また、営業マンに必要となる情報収集に時間がかかり、大きなビジネスチャンスを失うこともあるかもしれない。もしくは、顧客が訪れるWebサイトのような場合、いつまでたっても必要な情報に到達できなければ不評のレッテルを貼られ、同様に大きなビジネスチャンスを失ってしまう可能性もある。こういった場合のフレームワークとして最適なのがWebSphere Portalである。
WebSphere Portalの4つのパッケージ |
製品ラインナップは機能と規模に応じて4つのパッケージがある(図2)。
ほかにもポータルサイト構築に必要な要素として、ユーザーごとの利用状況調査や、ユーザーごとにカスタマイズされたWebページが必要となる。これらをサポートする製品として、それぞれWebSphere Site AnalyzerとWebSphere Personalizationがある。
WebSphere Everyplace
WebSphere Everyplace製品は、「いつでもどこでも何ででもWebサービス」を実現するためのプラットフォームである。
朝夕駅のホームで携帯電話と向き合う老若男女も、世界一のモバイル大国に住んでいることに気がついていないかもしれない。それほど生活に浸透してしまったiモード、Jスカイ、EZwebといった携帯電話に加え、Palm OSにWindows CE(Pocket PC)、公衆無線LANでのPCをもサポートする。これらの端末からの社内システムへの自由なアクセスをサポートしたり、限定した顧客向けサービスを提供したり、不特定多数へ同一コンテンツから多種多様なチャネル経由でのWebサービスが瞬時に可能になる、そんなシステムを実現する製品である。製品は表2のような構成になっている。
WebSphere Transcording Publisher(以下、WTP)はコンテンツの自動変換を行う。HTMLからcHTML、HDML、MMLを生成し、各携帯電話への個別対応を行わなくても済む。
WebSphere Everyplace製品名 | 用途 |
---|---|
WebSphere Transcording Publisher | HTML変換 |
WebSphere Everyplace Access | 携帯でのセキュアアクセス |
WebSphere Everyplace Connection Manager | 無線LANでのセッション管理 |
WebSphere Everyplace Server | 統合パッケージ |
WebSphere Everyplace Accessは、Lotus NotesやMicrosoft Exchangeを社内システムで使用している営業マンが、セキュアな状態を保ったままメールやスケジュールなどにアクセスすることができ、逆に携帯電話へフィルタリングしたメールを転送することもできる。
WebSphere Everyplace Connection Managerは、ホットスポットと呼ばれる無線LANのアクセスポイント間を移動した際に接続が切断されるようなセッションを維持する仕組みを、セキュアな状態で提供する。
WebSphere Everyplace Serverは、WTPを統合したコンテンツ変換機能、データ同期機能、非同期メッセージングサポート、ユーザー管理とデバイス管理の一元化、負荷分散機能にセキュリティ認証機能を備えた統合パッケージとなっている。
WebSphere Commerce
WebSphere Commerceは電子商取引システムを短期間で構築するためのソリューションパッケージとなっている。オークションやショッピングなどのサイトを、一般消費者向けや企業向けに構築するために必要なアプリケーションが収録されている。製品はProfessional Editionと、上位グレードのBusiness Editionとがあり、追加パッケージとしてデジタルコンテンツ配布に対応したWebSphere Commerce for Digital Mediaがラインナップされる(図3)。これらのラインナップの機能を表3にまとめた。
Professional EditionがB2C向け、Business EditionがB2B向けとなり、どちらの製品にもWebSphere Application ServerとDB2 UDBが同梱される。
ラインナップ | 機能 |
---|---|
WebSphere Commerce Professional Edition |
コマースワークフロー、スポット広告、e-メールクーポン機能、顧客ごとのフィルタリングルールベース機能、ポータル連携、携帯対応、多国語対応、多通貨対応、税金対応、ライブヘルプチャット機能、その他サンプル |
WebSphere Commerce Business Edition |
Professional Editionのすべての機能に加え、顧客ごとの契約に基づいたプライスカタログ提示、組織ごとのユーザー階層管理、見積依頼機能、電子会議機能、詳細なアクセスコントロール |
WebSphere Commerce for Digital Media |
音楽・動画イメージの管理、配布・販売管理、属性に基づく検索機能、電子透かし技術に基づく著作権管理 |
WebSphere Voice
WebSphere Voiceはその名の通り、音声対応をサポートする。既存の公衆電話回線を使った音声応答や案内を多言語対応で行うための音声認識エンジンと音声合成エンジンを備える。情報はXML形式で格納し、多言語翻訳エンジンを通り Webサービスと連携する。したがって、音声応答システムを独立して維持するのではなく、Webシステムの1つのプラグインのような形態で構築することができる。
製品としては音声認識と音声合成を行うWebSphere Voice Serverと、多言語翻訳を行うWebSphere Translation Serverがある。これらの相関関係を図4に示す。
サービス対象が自国語のみであればWebSphere Voice Serverだけでよい。あるいは、Webサイトを多言語対応する目的でWebSphere Translation Serverだけを導入することも可能だ。