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ThinkPad T40(2373-72J)

ThinkPad T40(2373-72J)

2003年10月20日 03時51分更新

文● 月刊アスキー編集部・中西

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ヒートパイプの工夫で
冷却性能を向上

T40の冷却機構
写真3 T40の冷却機構。上面に2つ並んだヒートパイプは薄型化のために押しつぶされた形になっている。しかし構造に工夫を凝らすことで、従来比約1.5倍の熱輸送量を実現した。
[編集部] 1インチを実現するために、実際にどういった工夫をされたのですか?
[中村氏] 熱設計については、非常に苦労しました。これに関してはインテルさんと共同作業している部分もあります。このくらいの熱設計にしてくださいなどとアドバイスをもらい、また我々のほうもこういう設計にしたいというのを伝えるわけですけれども、いずれも1インチを超えてしまいました。
[木下氏] インテルさんはPentium Mを使ったこのスペックのシステムが、1インチでできるとは思ってなかったんですね。
[中村氏] 私もそう思ったのですけれど(笑)、もうそれは決まっているんです。
[編集部] 具体的にはどうやって解決されたんですか?
[中村氏] 冷却ファンの上にヒートパイプがありますが、小型化のためにそれをつぶしてあります。
[木下氏] ヒートパイプは中に液体が入っていますから、つぶしていけばつぶしていくほど、効率が悪くなるんですよ。
[中村氏] ですがこのヒートパイプは、この薄さで今までのものをはるかに超える熱伝導率があります。ヒートパイプ専門メーカー様とも協力して開発しているんですが、最初は彼らからも「それはできない」という返事が返ってきたんです。ですが、私も同じように「いや、もう決まっているんです」「やんなきゃいけないんです」と(笑)。

 このヒートパイプは、弊社の技術力を投入して作った特殊なヒートパイプです。
[編集部] 何が違うんですか?
[中村氏] 中のウィック(※1)の、熱輸送量を向上させるためのしくみを強化してあります。
 ヒートパイプを薄くすると、蒸気と液体を還流させる通路が狭くなってしまい、スムーズに流れません。そこでウィックの構造に工夫を凝らしていますが、詳細は控えさせてください(笑)……。
※1 ウィック ヒートパイプは、銅製のパイプの内側に網目状の構造が貼り付けられた構造(ウィック)になっている。ヒートパイプ内部に封入された液体は、パイプの片方の端で熱せられて蒸気になり、もう一方へ移動。そこで熱を放出して液体に戻り、ウィックの毛細管現象によってもとの位置に戻る。

[編集部] ヒートパイプの中に入っているのは水なんですか?
[中村氏] 純水です。ヒートパイプの作動原理は単純なんですが、作動液にはいろいろな組み合わせがあります。アルコールだったり、不凍液を使うケースもあります。取り扱う温度、熱輸送量の大きさによって、どういった作動液を使うか、ヒートパイプの材質に何を使うかが決まってくるわけです。PC程度の熱輸送量や温度の範囲ならアルコールを使うケースもありますが、一般的に純水を使います。


CPUを冷やすだけでは
不十分だ!

筐体右側面
写真4 筐体右側面。光ドライブの着脱スロットからHDDまで、アルミ製の強度パーツが覆っている。
[中村氏] これはT30から採用しているのですが、2方向排気に対応しています。ヒートシンクを経由するのとしないのと、2方向から排気しているんです。一見すると、ヒートシンクを通っていないのがムダに空気を排出しているかのように見えますが、そのおかげで全体の空気の流れがスムーズになります。CPUだけでなく、いろいろなコンポーネントを冷やさなければなりません。ヒートシンクまで持ってきた熱を冷やしているだけでは足りないんです。
[編集部] つまり、CPUだけのことを考えていてはいけないということですね?
[中村氏] CPUのことだけを考えるのであれば、空気が全部ヒートシンクの上を通過するようにしたほうがいいですからね。ところが、それでは全体の冷却になりません。熱設計というのは、今非常に難しくなっています。

 また冷却というとCPUの冷却ばかり注目されるんですが、我々が非常に難しく感じているのは、ベースカバーの温度をいかに低くするかということです。筐体底面のベースカバーはお客様のひざの上に直接乗るわけですから、そこの温度が高いと、体に影響がなくとも不快感が高くなります。不快に感じない温度はとても低いんですね。ですからこの1インチの筐体の中で、何十度もの温度差を作らなければならないんです。温度分布を100%コントロールして、人が熱く感じないような温度にするのが大変です。

 「ThinkPadは非常に静か」というご評価も、お客様からいただいています。冷却のことだけを考えればどんどんファンをまわせばいいんですが、静音化とか消費電力も考えなければなりません。こういったことはカタログに載りませんが、ファンを無駄に回さず、なおかつCPUやベースカバーをちゃんと冷やすという設計が必要になって来るんです。その温度設計が、1インチに収めるための1つのポイントです。


筐体左側面
写真5 筐体左側面。「Mg」というシールが貼られているのが、縦方向の強度をかせぐマグネシウムの棒材。

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