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米NVIDIA、開発者向け技術セミナー“開発の鉄人”を開催――NVIDIAが作る3D CGデモの“秘密”

2003年09月05日 22時23分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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“開発の鉄人 IRON DEVELOPER――Optimising the Graphics Pipeline”
明治大学で行なわれた“開発の鉄人 IRON DEVELOPER――Optimising the Graphics Pipeline”

米エヌビディア(NVIDIA)社は5日、ゲーム開発者向けの技術セミナー“開発の鉄人 IRON DEVELOPER――Optimising the Graphics Pipeline”を、東京・御茶ノ水の明治大学リバティータワーで開催されている開発者向け会議“CESA デベロッパーズカンファレンス(CEDEC)”の2日目プログラムとして開催した。CEDECは(社)コンピュータエンターテインメント協会が開催するゲーム開発技術情報カンファレンスで、今年が5回目となる。4日と5日の2日間行なわれ、4日にはマイクロソフト(株)主催のDirect X開発者向けセミナー“meltdown”が開催された。



米NVIDIAのKevin Bjorke氏 セミナーの最後に行なわれたプレゼント大会
米NVIDIAのKevin Bjorke(ケビン・ビョーク)氏セミナーの最後には、GeForce FX 5800 Ultra(256MB版)などが当たる豪華なプレゼント大会が行なわれた

開発の鉄人での最初のセッションは、米NVIDIAのKevin Bjorke(ケビン・ビョーク)氏による“NVIDIAデモチームの秘密”で、同社がグラフィックスアクセラレーターチップを発表するたびに公開される3D CGデモの開発技術やノウハウなどを説明した。

DAWNがショートカットな理由!?

DAWNの髪の毛の処理前 DAWNの髪の毛をきれいに処理したあと
DAWNの髪の毛を単に線のレンダリングだけで表現したところ。バリカンで切ったように毛先が尖ったイメージになるアンチエイリアス処理とアルファブレンディングによって、毛先に行くほど細く見せることで、女性らしいやさしさ・柔さかさを表現している

最近のNVIDIAの新製品発表で必ず登場する3D CGの妖精キャラクター“DAWN(ドーン)”は、髪の毛をショートカットにすることで体のオブジェクトに影響(陰影処理の計算など)を減らすように工夫している。また、髪の毛を自然に見せるために線単位でのレンダリングを行ない、毛の太さ(毛先に行くほど細くなる)はアンチエイリアスとアルファ値(透明度を示す数値)で変化するように見せている。頭頂部は肌を黒く塗ることで地肌が露出しないようにしている、などの細かい技法も紹介された。

喜怒哀楽の表現がリアルなDAWNは、オブジェクトごとに小さな動きを設定し、それらを組み合わせて表情の変化を見せる“ブレンドシェイプ”という手法を使っている。DAWNの場合は、50のシェイプを用意し、これらの組み合わせで泣き顔/笑い顔/困った顔などを表現するという。

妖しい雰囲気を持つ“DUSK” DUSKの背後の影の輪郭に注目 影の表現にこだわっている
DAWNの妹? それとも別人格? 夜の蝶のような妖しい雰囲気を持つ“DUSK”DUSKの背後の影の輪郭に注目!! ところで名前の由来は、やっぱりあの映画のタイトルだろうか木漏れ日の中ので反射/透過光をリアルに表現したDAWNとは対照的に、DUSKは影の表現にこだわっている

また、DAWNをベースに開発中の新キャラクター“DUSK”もお披露目された。DUSKはシャドーマップ(オブジェクトの動きに応じてリアルタイムに影の形を生成する)のレンダリングをリアルタイムに行なうデモ。DAWNやDUSKは、皮膚の色だけでなく、環境光(反射光)や皮膚の下を流れる血液の色(ブラッドテクスチャー)、皮膚の薄い部分を通過したり体の細い個所を回りこんで映る光もリアルタイムに計算し、表現することで、皮膚の輝きやリアリティーを出している。

新車同様の状態 中古車同然の状態 そして廃車のように
『The Time Machine』のデモ。ここでは新車同様だが……時間軸のパラメーターを動かすと、さびが浮いて塗装に凹凸が見えるようになり……すっかりボロボロになってしまった。ちなみに、ヘッドライトの表現だけで24のぼかしコマンドと4つのテクスチャーデータを組み合わせている

GeForce FX 5800の発表時に公開された、新車のトラックがどんどん錆びて古臭い中古車や廃車同然の状態に変化するCGデモ『The Time Machine』は、単に表面のテクスチャーを変化させるだけではなく、酸化によってあわ立つ(錆びで塗装が膨れ上がる)様子も計算して演出している。あわ立ちは、1ヵ所で単独に起こるのではなく、隣接する錆びの影響を受けて形状が変わる。これを60のピクセルシェーダーコマンドと11のテクスチャーデータを組み合わせることで表現している。

被写界深度の例 カメラにぶつかる宇宙人
“被写界深度”の効果を見せるデモ。手前の戦車にピントが合っているため、奥のUFOや人形はぼやけて見える被写界深度の効果を使うと、奥から手前にすばやく動く表現も可能になる。これは宇宙人がカメラで撮られていることに気付いて、カメラを机から落とそうとしているところ

GeForce FXの特徴的な機能のひとつである“被写界深度”の表現は、単にテクスチャーをぼかすのではなく、ジッターノイズを加えることで見た目に自然な“ボケ味”を表現できる。また、ポリゴン単位で深度(奥行き情報)を計算すると、無関係なオブジェクトの一部が意図せずフォーカスされてしまうことがある。これは、オブジェクト単位で、ぼかすべきか焦点を合わせるべきかを判断する“ハイブリッドレイヤDOF(Depth of Field)”コマンドを利用すれば解決できる、と実践的なアドバイスもなされた。

『Yeah! the movie』のOrgeも、DAWNと並んでおなじみのキャラクターだ。これは約4000ポリゴンのベースモデルを約1万7000ポリゴンに細分化した例
『Yeah! the movie』のOrge

NVIDIAの作品ではないが、ドイツSpellcraft Studioの3D CGムービー『Yeah! the movie』も、NVIDIAの製品発表会でよく見かけるデモだ。これは3DStudio MAXで3Dモデルを作成し、character studioでアニメーションをつけたもの。興味深いのが、ポリゴン数の少ないシンプルな3Dモデル(約4000ポリゴン)をベースにして動きの情報などを記録しておき、レンダリングする際にCPU/GPUのパフォーマンスに応じてポリゴンを分割して形状をリアルに表現する“サブディビジョンサーフェス”機能を使っているところだという。

一番のメリットは、3Dモデルの動きの情報を、単純なポリゴンを使った圧縮情報で管理できることと、再生環境(マシンパワー)に応じて同じデータから最適な3Dアニメーション表現が引き出せるスケーラビリティーの高さにある。ただし、複数の頂点情報からポリゴンを分割する計算は現在の3D API(Direct XやOpenGL)でサポートしていないため、GPUでは処理できず、CPUでの計算が必要になる欠点がある。将来、これらの3D APIが拡張されれば、ポリゴン分割もGPUで行なえるかもしれない、と展望を述べた。

怒る炎の大男『Valcun(バルカン)』。炎の揺らめきは実にリアルに見えるが、実際には小さなビデオテクスチャーの組み合わせで表現している
怒る炎の大男『Valcun』

最後に、現在作成中の最新3D CGデモ『Valcun(バルカン)』が公開された。これは、炎をまとった悪魔のような風貌の大男が、燃えさかる鉄の塊を鉄槌で叩き加工していると、光を放つ小さな虫が周囲と飛び回り、大男は鉄槌で追い掛け回す、というもの。注目すべきは炎のリアルな表現で、NVIDIAではいくつかある炎の表現方法の中から、計算処理や事前のデータ作成などのコストが少なくて済む“小さなビデオテクスチャーの重ね合わせ”による手法を選択したという。NVIDIAではこの小さなビデオテクスチャーを“妖精”と呼び、大男の背中に用意された噴出口から数百の妖精が飛び出していく。妖精は小さなフレーム(pbuffer)でレンダリング処理したものを重ね合わせて表現するため、ソート処理とアルファブレンディング(透過)処理をリアルタイムに演算している。また、時間ごとに炎の大きさは変化し、光が熱で揺らぐ影響を考慮して適度なぼかしを加えることでリアルさを表現しているとのこと。

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