eHomeを担う
新Windowsデバイス
写真1 Smart Display(コードネーム:Mira)は、リモートデスクトップで離れた場所にあるホストPCに接続するリモートデスクトップクライアントだ。富士通の製品は携帯性を重視したワイヤレスタイプだが、他社製品では普段はPC用のディスプレイとして使用し、必要に応じて取り外して持ち運べる据え置きタイプの端末のプロトタイプも存在している。 |
NECのスマートディスプレイ製品「SD10」レビュー。こちらは単体でも販売されている。画像をクリックすると当該記事に移動します。 |
未来をほんの少し早く感じ取れる周辺機器。「Windows Powered Smart Display」は、まさにそんな種類のデバイスだ。
これまで「Mira」のコードネームで紹介されてきたSmart Displayは、PCを中核にして家電を含むあらゆるデジタル機器間の情報管理や共有を行う、Microsoftの「eHome構想」の一翼を担う製品だ。Smart Display端末は、無線LANとタッチパネルを装備した液晶タブレット型のデバイスで、OSには「Windows CE for Smart Displays」(Windows CE.NETベース)を採用する。リモートデスクトップの機能を利用して離れた場所にあるWindowsマシンを無線でコントロールでき、居間のソファや台所などに持ち出して、インターネットの情報を参照したり、デジタルカメラで撮影した画像やWord/Excel文書、MP3やWindows Mediaファイルなどのマルチメディアコンテンツを参照することが可能だ。
ペン操作が可能なWindows端末と言うと、2002年11月に発表された「Windows XP Tablet PC Edition」を搭載したノートPCを思い起こすかも知れない。しかし、両者のコンセプトの違いは明確だ。Tablet PCはWindows XP搭載のノートPCに「手書き入力の快適さ」を取り込んだ製品であり、単体でPCの機能を持つ。一方のSmart Displayは離れた場所からネットワーク越しでPCを操作し、その結果を表示するシンクライアント的な位置づけの製品である。PCで行える処理のほとんどが実行可能だが、実際の処理はアプリケーションやデータが置かれたホームサーバが実行するため、デバイスに要求されるスペックも比較的シンプルで済む。Smart Displayという名前が示すように、実際に操作したイメージはデスクトップPCのモニタだけを取り外して持ち運ぶ感覚に近い。
富士通のSmart Display
国内でSmart Displayの先陣を切ったのは富士通である。同社の液晶一体型デスクトップ「FMV-DESKPOWER L」シリーズには、Smart Displayを標準で同梱したモデル「L20C/S(FMVL20CS)」が用意されている。ただし、新春モデルの時点ではあくまでもPCの付加価値を高める周辺機器という位置づけで、単体販売も行われない。
富士通のSmart DisplayはCPUにXscale(PXA250)-400MHzを搭載。液晶サイズは10.4インチで解像度は800×600ドット。メモリは64MBのSDRAMと32MBのフラッシュという構成。ビデオチップにはATIのW4200(ビデオメモリ8MB)を採用している。タッチパネルは抵抗膜方式のため付属のスタイラスではなく、指で触れても操作できる。
本体は縦横が290(W)×222(D)mmと本誌とほぼ同じサイズ。側面には3つのUSBポートとヘッドホンジャック、SDカードスロットを備えているが、23.5mmという厚さは若干かさばる印象だ。1.1kgという重量も片手で長時間持ち続けるにはやや重いだろう。ペン以外の操作系として、液晶の右側にメニュー操作用の「十字キー+決定」の5つのボタン、ソフトキーボード/手書き認識枠を表示させるための「インプット・パネル」ボタン、ホーム画面に戻るための「ダッシュボード」ボタンなどが用意されている。
実際の使用に関しては、接続先PCのアカウント情報をSmart Displayに登録する作業が必要だが、これには付属ユーティリティを使いPC上で設定する方法とSmart Display側からマシン名/ユーザー名/パスワードなどを設定する方法の2種類がある。ログインするPCはWindows XP Professionalと無線LANを搭載したPCであれば特に機種を問わない。登録したアカウントはトップ画面に一覧表示され、アイコンをクリックすることでリモート接続できるようになる。
PCを経由したメール確認やWebブラウズ、Word/Excelファイルの閲覧などはどれも問題なくできた。ただし、映像に関してはWMAやRealPlayerなどのコンテンツを見ることができるが、DVD-VideoやTV再生などは基本的にできない。また、動画などの描画にはタイムラグがあり、多少コマ落ちする場面も見られた。バッテリの持ちに関しては、フルに通信をし続けた状態で3時間程度は使えそうな印象だ。なお、トップ画面には2種類のローカルアプリを呼び出すためのアイコンが用意されており、その内容はメーカーごとに異なるようだ。富士通の場合は、リモコンとアクセサリ類(Media Player、ソリティアなど)が用意されていた。
Miraの落ち着く先はどこへ……
以上がSmart Displayの概要だが、現時点で実現されている内容は、残念ながら従来のリモートデスクトップの枠をそれほど大きくは出ていない。小型の端末での遠隔操作という観点に立ったなら、表示領域や色数に制限があるものの、より軽量で価格もこなれたWindows CE端末でも可能だった。SVGAクラスの解像度を持つというメリットがあるもののの、やはり長時間の使用には大きすぎ、あまり広くない日本の家庭事情では移動して使う用途も多くはないだろう。
また、Smart Displayのアプローチとは異なるが、PC上に蓄えられたコンテンツを楽しむという観点では、ソニーの「ルームリンク」やソーテックの「Play@TV」のように無線または有線でPCと接続し、離れた場所にある大画面のTVに出力する機器のほうが、国内での需要は高いような気がする。
PCでできることが何でもできることがSmart Displayのメリットだが、それが生きるのは国内においては家庭より小規模なオフィス(例えば離れた場所での会議中にデスクトップのデータを引き出すなど)ではないだろうか(逆にTabletPCは高機能なノートを望むコンシューマにも引きのあるものであり、このあたりMSの狙いとの逆転現象があるかもしれない)。とはいえ、見慣れたPCの環境を持ち運べる感覚に、従来のPCにはない自由さがあるのも確かだ。デバイス自体の進化、コンテンツをより効率よく届けるUIやサーバソフトなど課題は多いが、Smart DisplayにはPCが家庭に融合する次なる段階を予感させる何かがある。
FMV-DESKPOWER L L20C/S(Smart Display)の主なスペック | |
製品名 | FMV-DESKPOWER L L20C/S |
---|---|
CPU | PXA250-400MHz |
メモリ(最大) | 64MB(SDRAM)/32MB(フラッシュ) |
グラフィックス | ATI W4200(ビデオメモリ8MB) |
ディスプレイ | 10.4インチTFT/800×600ドット |
HDD | ―― |
通信 | IEEE802.11b無線LAN |
I/O | USB 1.1×3(Aコネクタ×2、Bコネクタ×1)、SDカード、ステレオヘッドホン |
サイズ(W×D×H) | 290(W)×222(D)×23.5(H)mm |
重量 | 1.1kg |
OS | Windows CE for Smart Displays |