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「市場は誰が何といおうとオープンソースに流れています」─日本IBMに聞くLinuxビジネス成功の秘訣

2003年04月26日 00時00分更新

文● 編集部

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横並びはもはや許されない

[編集部] 現在は多くの企業がネットワークでつながって、ワールドワイドで仕事をされているわけです。ですが、国による違いが当然あり、アメリカでの使われ方、日本での使われ方の違いといったように、商慣習によって使い方やソフトウェアが違うと思います。Linuxの場合でもそういうことはあるのでしょうか。
[根塚氏] やはりありますよね。たとえば、アメリカでごく普通に使われるメールのソフトがありますが、売れているパッケージが必ずしも日本にないことがあります。ほかにも、海外でも使えるERPソフトが日本にはなかったり、電子系、電気系のCADの世界で、アメリカではLinuxに対応していても日本ではまだですとか、そういうところがあります。

それにはいろいろな理由があるのでしょうが、一番大きい違いは市場だと思います。日本の市場は、いろいろな統計データが示していますように、欧米と比べてだけでなく、アジアパシフィックの中でも、Linuxの浸透度は低いです。中国よりも低いんですね。アメリカなどはIT先進国ですから、コストが劇的に下がるということを見れば、Linuxが入ってくることはとても自然なことなんですね。特に中国ですが、これから全部新しく作るケースが多いわけです。たとえばインターネットバンキングにしても、今から作るわけですから、IA系サーバで作ってすぐ動かそう、ということが、ある意味で簡単にできるわけです。

ところが日本のお客様の場合ですと、システムのトラブルに対して非常に慎重ですよね。新しくていいことが分かっていても、十分に検証されて“枯れた”技術を使いたいと思っていらっしゃるお客様が多いわけです。結果として、Linuxが日本の市場ではまだまだ浸透していないわけです。そのため、海外ではすでにLinuxに対応しているベンダーさんが、まだ日本市場は立ち上がっていないね、と判断してなかなか日本に入ってこないですとか、日本の環境にあわせたしくみを提供しないということがあると思います。

しかし、厳しい経済環境の下では、いかに自分のところのコストを下げて、生産性をあげて売り上げと利益を伸ばすかという話になりますよね。すると現在の日本市場も変わらざるを得ないのかも知れないと思います。事実、ここに来て急速にLinuxの採用も始まってきています。“横並び意識”は変わりつつありますし、変わらざるを得ないところに来ています。そういう意味では、Linuxがちょうどいい道具立てではないかと思います。

私がいろいろなお客様のところにお伺いしてお話する時に、新しい技術─といっても、もうLinuxは新しいとはいえないでしょうが、お客様にとって何がいいかというお話をすると、「なるほどね」とみなさんおっしゃいます。次に私がご提案するのは、Linuxを最初から難しいところに使おうとすると、やはり心配だというお話になりますので、簡単なところからLinuxに置き換えてみて、いろいろな問題点が見つかるでしょうから、そこで次のステップを始めましょう、というものです。

たとえば、ビジネスインテリジェンス、あるいはデータマイニングといった、ビジネスに使われていて、さらに1つの企業の中だけで閉じているようなシステムを、パイロット的にまずLinuxでやりましょう、そこでいいか悪いかを判断して、ご自分で検討されたらいかがですか、とご提案します。

市場は数字ではかれるものではない

[編集部] Linuxを推進する、と判断するにあたって、何らかのツールを使って、市場の成長性や規模を読む必要がありますが、市場を読むことについてはどのようにされているのでしょうか。
[根塚氏] 市場がどうなっているかということは、もちろん重要な話です。私達も会社の中で、日本の市場や外国の市場について定期的に情報を回しています。そうはいっても、それはあくまで数字の予測でしかありません。日々現場で対応していると、何が問題か、お客様がどちらを向こうとしているかが見えてきます。これは日々の勘だと思うのです。そのアンテナが失われてしまって数字だけで市場を見ると、とんでもないことになりますよね。

そういう意味で、現場で日々お客様に対応する努力が一番重要です。そこで“アンテナ”を高く、“感度”を高くして、市場で何が起こっているのかを理解することが非常に重要ではないかと思います。月並みな言い方ではありますけども、数字だけでは物事は決められない、市場調査だけで物事は絶対決められないと思いますよね。

お客様と接するためのチャンネルですが、1つは“お客様満足度調査”ということをやっています。コンピュータ部門の責任者の方、それからシステムを使ってくださる、販売部門や生産部門の責任者といった方との対話を行ないまして、お客様は「今期はこれをやりたい」と、IBMは「それではこんなことをお手伝いしたいと思います」といったことを、しかるべきタイミングでお話をさせて頂きます。

たとえばあるタイミングごとに、「これがやりたい」とお客様がおっしゃっていたことについて、お互いにどこまで行ったか、私達はここができたということを、チェックポイントをとりながら進めていきます。そういった過程で、お客様も要求が変わってきます。時代の流れや、「当初はこう思っていたがそれがこう変わった」といったサイクルを回すことで、私達はお客様のニーズの変化を取り入れて、対応してきたわけです。

それから、これは社内の話になるのですが、“お客様満足度委員会”という会を社内に作りまして、社内のいろいろな部門の責任者を集めて、「今お客様のところで何が問題になっているのか」を直接うかがう会合をすでに100回以上行なっています。これにはたとえば、私達のパートナー様にも入って頂きます。社内のストレートな議論を外部の方にも聞いて頂いて、パートナー様からその場でコメントを頂戴するというしくみを通じて、外部の方の生の意見を頂くようにしています。

ですから、アンケートももちろんありますけれども、やはり日々の営業活動の中で、お客様の声を聞く努力をしていくわけです。市場を読むマジックがあるわけではないと思います。

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