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「市場は誰が何といおうとオープンソースに流れています」─日本IBMに聞くLinuxビジネス成功の秘訣

2003年04月26日 00時00分更新

文● 編集部

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なぜIBMはディストリビューションビジネスをしないのか

[編集部] Linux自体を売っていないというお話がありましたが、なぜIBMはディストリビューション事業をしないのでしょうか。
[根塚氏] いくつかの理由があると思います。まず、もともとLinuxというのはLinus Torvalds氏が作って、コミュニティで改良してきているわけです。私達はIBMという法人格で何かやるということよりも、グラスルーツを大事にしたいという考えがあります。

とはいいながら、やはり私達は私達で育ててきた強い部分があるわけです。たとえば、金融のオンラインの仕組みなどは、私達はかなり昔から一所懸命作ってきたわけで、それは大学の研究室で作られたようなシステムとは大分違うわけです。そういう部分については、私達のほうがかなり先を進んでいると思っています。そこで、富士通、日立、NECさんとの4社協業でノウハウを集めて、あくまでも貢献として、Linuxコミュニティに提案をする活動を行なっています。

私達のコミュニティに対する考え方は、いかにLinuxコミュニティに貢献するかということです。そのほうがこれからの成長に役立つのではないかというスタンスで取り組んでいますので、私達としてはLinuxディストリビューションはやらないということですね。

それからもう1つは、Linuxのディストリビューションそのものは、ビジネスモデルとしてチャレンジングだということです。Linuxディストリビュータは全体で何百社とあるわけですが、それほど多くの方が利益を生んでいるとはいえませんから、大変難しいビジネスモデルだと思います。そういった理由もあるかと思います。

Linuxビジネスの“金鉱”はどこにある?

[編集部] ディストリビューションは付加価値を生みにくい、というお話がありましたが、ITの付加価値というのは難しいと思います。つまり、「金鉱を教えてください」ですとか「お金がどこに落ちているのか教えてください」という質問と同じことになりますが、IBMは製品、サービスの付加価値を生み出すために、どういったことを検討されているのでしょうか。
[根塚氏] 「金鉱はどこにあるか」ということですが、まずは「なにをもって金とするか」が問題です。なにが付加価値か、ということについては、お客様の立場からいうと、自分が100円払ったものに対して、120円のリターンがあればいいわけです。

たとえば、生産管理システムを作ったとします。それまでのシステムでは、コストが100とか200とかかかっていたとして、それがたとえば3年間で80とか90になれば、下がっていると分かります。今はそういうわかりやすい数字で物事を説得しない限りは、経理や財務の方が「うん」といってくれません。

私達は、お客様の目から見てわかりやすい価値をお届けする必要があります。コストが下がったり、あるいは製品の品質が上がったり、あるいはクレームに対して48時間かかっていたものが12時間でできるようになったとか、そういうわかりやすいバリューこそが価値だと思います。たとえば、今まで48時間かかっていたものを12時間にしたい、といったお客様のご要望に対して、私達はどういうものをお届けするか、それを並べて数値化するといった努力をするわけです。

そういう成果が仮に金だとしましょう。次に金鉱を探さなければなりません。48時間を12時間にするというニーズは本当に可能なニーズなのか、つまり「お客さん、どうやっても48時間は44時間にしかならないですよ」あるいは「うまくやれば6時間になりますよ」というコンサルティングが、ビジネスとして必要です。金鉱を掘る人が間違えた金鉱を掘り始めたら大変なことになりますよね。ですから、どこに金鉱があるのかを見つけることが非常に重要だと思います。

そういう意味で、昨年7月、私達は米PricewaterhouseCoopersのコンサルティング部門を統合し、ビジネスの言葉で金鉱がどこにあるかを押さえることが可能になりました。そして、金鉱の場所がだいたい分かったとします。ではそれを掘り始めようということで、システムを作る人間が登場するわけです。作る人間が一所懸命金鉱を掘るわけですけれども、システムを作って、つまり金が出てきて、「これだけの金が出ました」といっても、それだけでは駄目ですよね。市場に届けないといけません。システムを作り、きちんと運用して、今度はさらに私達で全部お受けしてアウトソーシングする、お客様は結果だけをエンジョイしてもらうことで、一連の流れが完成するわけです。

最初のコンサルティングから、最後にお客様に価値を届ける運用のアウトソーシングまでの流れが重要です。たとえば、本当は6時間のものでも、トラブルに対して今までは48時間で済んでいたものが、100時間かかるようになるということであれば、そのような問題にも対応しなければなりません。この流れが全部そろわないと、うまく物事は進まないですし、金鉱は見つからないわけです。

そういう意味で、私達は昨年、念願の最上流を統合したことで、全部の流れができました。ですから、現在は最終的にお客様に提案できるしくみができあがっているわけです。ある局面では、それができる会社はあるのでしょうが、全体をまとめて、金鉱を見つけてさらにそれで自分の利益を得るというところまでのしくみを持つことが必要です。仮にそれができないとすれば、ベストパートナーを選んで、きちんとパートナーさんになってもらうというのが多いと思いますね。

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