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【レゾナント特集 Vol.3】NTTが描く未来は“誰でも参加型コミュニティ”?

2003年03月31日 00時00分更新

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日本電信電話(株)(NTT)が昨年11月に発表した“光”新世代ビジョンに描かれる新しいコミュニケーション環境“レゾナント”を、ここまでは主にユーザー(利用者)側からの視点で紹介してきた。しかし、レゾナント・コミュニケーションの真の意義とは、利用する=情報を得るだけではなく、自らビジネスを興す/参加する/情報を発信することで産業の活性化、新規ビジネスモデルやサービスの創造を目指している点である。その真意をブロードバンド推進室 担当部長で、ブロードバンドを使った新しいビジネスを模索するトライアルグループを統括する米川達也氏に、月刊アスキー編集長 遠藤 諭が直撃した。

米川達也氏
ブロードバンド推進室 担当部長の米川達也氏

レゾナントとは……

NTTの代表取締役社長 和田紀夫氏は2002年11月の記者会見で、5年先の光による本格的なブロードバンド・ユビキタス時代の到来に向けて、NTTグループ全体の取り組みを““光”新世代ビジョン―ブロードバンドでレゾナントコミュニケーションの世界へ”と掲げた。レゾナントとは、「共鳴・共振するような、響くような」といった意味の形容詞で、レゾナントコミュニケーションとは、光による“双方向・高速ブロードバンド”を軸に、誰もがどこからでも必要な情報を取り出せる“ユビキタス”な世界で、予備知識などなしにさまざまな世代・役割の人が参加できる“リテラシーフリー”という3つのキーワードを元に、新たなビジネスモデルの創出、ビジネスシーンへの参加などを目指すというもの。

NTTが掲げる“レゾナント・コミュニケーション”では、上記の3つのキーワード――“双方向・高速ブロードバンド”“ユビキタス”“リテラシーフリー”――を元に、2007年に“年間64兆円規模”という膨大な経済効果を目指している。その根拠について、まずは迫っていこう。

「情報を発信する人の元に、新しい情報が集まる」
――コミュニケーションという真のエンタテインメント

遠藤 諭
月刊アスキー編集長 遠藤 諭(写真左)
[月刊アスキー編集長 遠藤 諭(以下、遠藤)] 2002年末には800万世帯まで普及したとも言われるブロードバンド・インターネットですが、レゾナントでは、“光”による高速接続を掲げています。うがった見かたをすれば、Bフレッツを普及させるのが狙いじゃないか、とも思えるのですが、なぜ光にこだわるのでしょうか?
[ブロードバンド推進室 担当部長 米川 達也氏(以下、米川氏)] これまでのインターネットは、下り回線の速度ばかりが注目されていた。“情報をもらう”文化が形成されてきたのだと思います。今回のビジョンのコンセプトである“レゾナント・コミュニケーション”では、双方向性(自らも情報を発信すること)が重要なポイントだと考えています。その視点に立つと、発信者側の上り回線にも十分な速度が必要となる。だから、光による高速・双方向通信が必要になるわけです。

電話というコミュニケーションに立ち返って考えてみると、電話は、自分がしゃべって、相手がそれに答える、双方向のコミュニケーションだった。最も魅力的なコンテンツは“コミュニケーション相手”で、コミュニケーション自体がエンタテインメントであり、情報共有の場になっていた。それを現在に持ち込むと、エンド to エンド(利用者同士がつながる)が当たり前に実現されて、さらに声だけじゃなく映像もリアルタイムに送り合え、高機能で、誰もが手軽に使えるTV電話のような世界を創りたいと思ったわけです。

そのような環境が実現すると、仕事のスキルやアイデアがあるにもかかわらず、家事に追われてこれまではビジネスに参加できなかった、例えば主婦の方なども、気軽にビジネスを始められる。家事や育児の合間に自宅からでも企業/個人のビジネス活動に参加できる。あるいは中小企業でも、系列の大企業を頼るのではなく自分たちの“オンリーワン”の技術をさまざまな形で売り込んだり、あるいはコラボレーション(協業)していく。そういった“”を作ることが、大きな雇用効果、経済効果に結びつくと考え、NTTはそうした産業を興すための触媒に徹したいと思っています。ビジョンのキーワードである“レゾナント(共鳴・共感)”という言葉には、そんな思いも込められているのです。
遠藤 諭&米川 達也氏
[遠藤] 双方向性や情報交換の重要さは、確かに実感できます。個人的な考えですが、情報を発信した人のところにしか、新しい情報はやってこないと思う。うちのスタッフで、雑誌の編集をやっているのに情報がないやつっているんですが、よく見ていると情報を発信していない。相手が誰であってもコミュニケーションが足りない。愛情と同じで与える人にしか、与えられないものなんですね。

最近、そういった新しいビジネスチャンスの萌芽を感じることがあります。大手企業のプログラマーで、平日は真面目に仕事をこなして、趣味でフリーソフト/シェアウェアを作っているいる若い人がいますよね。最近2人ほど、そういう人に会ったのですが、一見ソフトハウスのような名前のホームページを作って自作ソフトウェアを公開しているんです。すると、実際にプログラミングの仕事が入ってくる。もちろん、大きなプロジェクトを丸ごとというわけではないんですが、メールのやり取りだけでプログラムを納品して、指定した振込先に入金してもらう。一度も相手と直接会うことなしに仕事ができてしまうそうです。
[米川氏] レゾナントは、単なる金儲けのためのプラットフォーム作りではないんです。ビジネスへの参加や情報発信を通して、自分の能力やスキルを再確認し、自己実現できる場が広がることも重要だと考えています。

レゾナントで社会全体を元気に
――コンピュータおばあちゃん登場

高齢者の社会参加モデル
ブロードバンドによる、高齢者の社会参加のモデル
[米川氏] 私は6年ほど前から、IT(情報技術)から一番遠い存在かもしれない高齢者を対象にした“コンピュータおばあちゃんの会”という、パソコンの使い方などを教えるサロンで活動しています。現在、参加者は200人くらいです。集まってくる人たちは特別にハイテク好きといった人ではなくごく普通の方ばかりなのですが、その教え方というのが変わっている。普通、パソコン教室だと、電源の入れ方とかキーボードの打ち方から入りますが、ここではパソコンの前に座ると、1クリックで自分のしたいことができるように、あらかじめセッティングしてある。昔、ハワイにおじいさんと行ったからハワイの映像が見たい、と言えばそれが1クリックで出てくるようにしてある。すると、パソコンという一見難しそうな障壁に包まれたものが、一瞬にして自分のやりたいことが実現できる道具になるんです。一番おいしいところだけを最初に味わってもらうと、今度は詳しい人が近くにいなくても自分でできるようになりたくて、「これどうやるの?」と自分から聞いてくる。最初はそうした好奇心から入ってくるのですが、次にメールを覚えると、今度はコミュニケーションが楽しくて仕方なくなる。朝パソコンを立ち上げてメールが届いている、“ひと気がある”、それが楽しいんですね。
[遠藤] ボクらは、多すぎるメールにうんざりしていますけど、その中にはやっぱり大切なメッセージが含まれているわけで、それを、ピュアに感じられるわけですからね。
[米川氏] そうしたモチベーション(やる気)が生まれると、パソコンを覚えるのも早い。すると、次は役に立ちたいと思うのです。自分の知識が誰かの助けになるなら伝えたい、コラボレーションしたいと思うようになるのです。高齢者は経験豊富な人生の達人だし、好奇心のカタマリなんです。常に情報を伝えたいと、気持ちは臨界点にありながら出す場所がなかった。例えば、“私の8月15日”というタイトルで情報を集めると、さまざまな人が終戦直後の自分の記憶を鮮明に書き出してくれる。それが重要な教材になって、海外で教科書などに使われているんです。パソコンを使い始めて半年程度のおばあちゃんが、世界平和のメッセージを発信できるようになる。僕はこの過程をつぶさに見ていたのですが、重要なことはおばあちゃんたちがこのようなコミュニケーションや情報発信を通じて自分たちの活動の場を広げ、元気になっていくという点なのです。
[遠藤] そういうおばあちゃんは、きっと心身ともに若々しくて、ほかの人にも活力を与えているんでしょうね。
[米川氏] コンピュータおばあちゃんは個人の話ですが、個人だけでなく、SOHOのような小さなビジネスをやっている人も、個人商店や中小企業、さらに大企業だって、基本的には同じだと思うんです。コミュニケーションを非常に容易にし、楽しくするようなプラットフォームができて、より多くの人や企業がお互いの情報を交換するようになる。そこから新しいビジネスや市場が広がって自らの価値が再認識できる。そして、社会全体が元気になる。そんな“プラス志向の循環”を創り出すことが大切だと思っています。

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