米国の非営利団体Global Grid Forum(以下GGF)や独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が主催する、グリッドコンピューティング(※1)の国際標準化会議“Global Grid Forum 7”(以下GGF 7)が、4日から7日までの日程で開幕した。会場は新宿の京王プラザホテル。初日の4日には、会場で記者説明会が開催され、GGFの会長であるチャーリー・キャトレット(Charlie Catlett)氏や、産総研グリッド研究センターのセンター長であり、グリッド協議会会長でもある関口智嗣氏らが登場、GGF 7の目的や日本で開催することの意義などを紹介した。
※1 グリッドコンピューティング 物理的に分散している複数台のコンピューターをネットワーク経由で仮想的に統合し、ユーザーが必要なときに必要なだけのストレージやCPUパワーなどを提供する技術。記者説明会で最初に登壇したキャトレット氏はまず、「GGF 7は、アジアパシフィック地域で初のフォーラム開催となる」と切り出し、GGFの活動について説明した。
GGF会長のチャーリー・キャトレット氏 |
キャトレット氏によると、GGFが目指しているのは、開発者コミュニティーやユーザーコミュニティーの分散コンピューティングに関するニーズをまとめること、それに基づいた分散コンピューティングの標準技術を策定することだという。この2つの目的を達成するために、GGFには約20のワーキンググループと約20の調査グループが設けられている。ワーキンググループは、標準的な仕様を策定すること、策定した仕様の技術的な位置づけを見ること、アーキテクチャーやフレームワークについて決定すること、という3つの目的を持つ。調査グループは、標準仕様の開発や策定、またユーザーニーズに応えるアプリケーションの要件を調査することを目的としている。GGF 7では、期間中のワークショップを通じて調査の方向性やアプリケーションの要件について協議する予定だという。
GGFのミッションについてまとめられている。図の中心にある青い部分がワークショップを表わし、赤い三角が調査グループ、緑の部分はユーザーや開発者コミュニティを表わす |
記者団との質疑応答のなかで、今回のGGF 7の大きなテーマについて聞かれると、「GGFはグリッドコンピューティングのインフォメーションユーティリティとしての方向性を決定し、実現する活動を行なうのが一番の目的。今回は特に、“OGSA(Open Grid Services Architecture)”による標準化が大きなテーマになる」と答えた。また、日本で開催した理由については、「アジアパシフィック地域での開催は今回が初めてだが、日本のコミュニティは欧米諸国に次ぐ貢献をしていることを評価し、(GGF 7を)日本で開催することにした」と、コミュニティーの貢献を高く評価した。
「国際的なグリッド標準策定に貢献するいい機会だ」─産総研グリッド研究センター長の関口氏
引き続き、産総研グリッド研究センターのセンター長兼グリッド協議会会長である関口智嗣氏が、GGF 7を日本で開催することの意義について説明した。
独立行政法人産業技術総合研究所グリッド研究センター長兼グリッド協議会会長の関口智嗣氏 |
関口氏はまず、文部科学省の“超高速コンピュータ網形成プロジェクト”や、経済産業省の“ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクト”が来年度から開始されることなど、国内でもグリッドコンピューティングに対する関心が高まっていることを指摘。「このようなグリッドへの関心の高まりを受け、グリッド技術や我々がGGFに対して行なってきた努力を改めて認知してもらうこと、また、技術的、組織的なリーダーシップを認知してもらうこと、さらに、国際的な標準に対して我々が貢献する機会を得た、といったところが大きな意義だ」と説明した。
既存データベースに統一インターフェースを提供する“データ・グリッド”─日本IBMの取り組み
日本アイ・ビー・エム(株)理事 グリッド・ビジネス事業部長である高野孝之氏は、同社の商用グリッド事業について説明。高野氏はまず、商用グリッドのフォーカスエリアについて、製薬事業者の薬品探索などに用いる“研究開発グリッド”や、ビジネス計画策定のための“高速解析グリッド”、構造解析や流体解析などを行なう“製品設計グリッド”、既存の情報資源へのアクセス手段を統合して提供する“情報アクセスグリッド”、ワークロード管理などを行なう“事業最適化グリッド”という5つがあることを紹介した。
日本アイ・ビー・エム(株)理事 グリッド・ビジネス事業部長の高野孝之氏 |
特に、情報アクセスグリッドの具体的な取り組みとして、OracleやSybase、Adabasなどの各種データベースに共通のインターフェースを持たせるためのラッパーを提供し、ユーザーからは単一のDB2データベースとして利用可能にする“データ・グリッド”技術を紹介。また、(株)ビーコンITと協業し、データウェアハウス構築用のデータ抽出/変換ソフト『Waha!Transformer』とデータ・グリッド技術を組み合わせたソリューションを提供することを発表した。
“データ・グリッド”のイメージ。既存の各種データベースにラッパーをかぶせ、単一のインターフェースを提供する。これにより、ソフトウェア開発者は各種データベースとの接続インターフェースを個別に開発する必要がなくなる |
産総研グリッド研究センターに10Gbitスイッチを提供─フォーステン ネットワークス
最後に登壇した、フォーステン ネットワークス(株)代表取締役の田中克和氏は、同社のグリッドコンピューティングへの取り組みを紹介した。
フォーステン ネットワークス(株)代表取締役の田中克和氏 |
フォーステン ネットワークス(株)は、ルータやスイッチなど、グリッドに関連するネットワーク機器を開発、製造している、米フォーステン ネットワークス(Force10 Networks)社の日本法人。米国でNCSA(The National Center for Supercomputing Applications)やSDSC(The San Diego Supercomputer Center)などによって構築されている“TeraGrid”で、同社の10Gbitスイッチ“Force10 E1200s”が採用されている。田中氏は上記の実績に加えて、日本でも産総研グリッド研究センターに“Force10 Eシリーズ”が導入されることを発表した。
“TeraGrid”のネットワーク構成。グリッドサイト内部と外部の接続に利用されている |
なお、“GGF 7”全体への参加申し込みは2月26日にすでに締め切られており、最終的な登録参加者数は780人以上であると発表された。