何が変わるか、問題点は何か
写真A 「RADEON 9700 PRO」レビュー(from 月刊アスキー)。写真をクリックすると当該記事に移動します。 |
SiSの「Xabre」(セイバー)に続き、ATIの「RADEON 9700」、Nvidiaの「GeForce4 MX440」と、AGP 3.0対応を謳うビデオカードが続々登場してきた。一方、カードを差される側のマザーボード/チップセットにおいても、VIAの「KT400」と「P4X400」、SiSの「SiS648」が対応し、搭載マザーボードが販売されている。
AGP 3.0の最大の機能強化は、2.1GB/秒というデータ転送速度を実現したことだ。AGPスロットの隣に並ぶPCIバスが133MB/秒であることを考えると、とてつもない進化と言える。初代AGPが2Xモード利用時で533MB/秒、AGP 2.0では4Xモードが追加されて1GB/秒に、さらにAGP 3.0では8Xモードが利用可能になったため2GB/秒になった(表)。
規格名/ 制定年月 | 信号電圧 | サポート倍率 | AGPクロック/バス幅/ ストローブ/最大転送速度 | 初のチップセット |
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AGP 1.0 '96年8月 | 3.3V | 1X、2X | 66MHz/32bit(4B) 133MHz(66MHz DDR)/533MB/秒 | Intel 440LX |
AGP 2.0 '98年5月 | 1.5V | 1X、2X、4X | 66MHz/32bit(4B) 266MHz(133MHz DDR)/1GB/秒 | VIA ApolloPro133A |
AGP 3.0 2002年9月 | 0.8V | 4X、8X | 66MHz/32bit(4B) 533MHz(266MHz DDR)/2.1GB/秒 | VIA KT400 |
さて、転送速度が高速化されること自身は歓迎すべきことだが、互換性のほうで少しばかり込み入ったストーリーがある。
電気的に互換性のない 1.0/2.0/3.0
初代AGPは、0/1を示す信号のレベルを3.3Vの電位差で表現していた。しかし、高速な0/1の切り替えのためには電位差が少ないほうが望ましいため、AGP 2.0ではこれを1.5Vに縮小している。当然、両者には互換性はなくなる。3.3Vで動くAGP 1.0のビデオカードは、AGP 2.0では電圧不足で動作しない。それはまだいいが、1.5V動作のAGPカードを3.3VのAGP 1.0のスロットに差したら、過電圧で壊れてしまう。
写真1 AGP 1.0のみに対応する3.3VタイプAGPカード。切り欠きはコネクタに近い。 | 写真2 AGP 1.0/2.0両対応のカードは2カ所の切り欠きを持つ。 |
AGP規格は最初から将来の電圧アップを見越して、スロット中に「キー」という、溝をふさいだ部分を設けていた。AGP 1.0では、RGBコネクタがある側から見て近い側にキーがあり、AGP 1.0対応のカードは、このふさがった部分に引っかからないように、対応する部分に切り込みが入っている。
AGP 2.0では、電圧の違うカードとスロットが組み合わさらないように、コネクタと遠い側にキーを設けた。AGP 2.0対応のカードはこちら側が切ってある(が、近い側は切ってない)。これにより、AGP 2.0対応のカードはAGP 1.0のスロットにひっかかって差せないし、AGP 1.0のカードもAGP 2.0のスロットには差さらない。差したら壊れたとか、動かなかった、という事故を防ごうというわけである。
しかし、AGPのバージョンを確かめないとマザーもビデオカードも買えない、というのでは不便なので、AGP 2.0登場時は「両対応」のマザーボードとビデオカードが多かった(ユニバーサルという)。ただ、AGP 1.0のみ対応のビデオカードが市場からほぼ消えたからか、マザーボード(というか、チップセット)側はAGP 1.0のサポートをやめつつある。
さて、ややこしいのはこれからだ。AGP 3.0ではさらに電圧を下げている。しかし、これ以上キーを設けるスペースがなく、といって別方向に新規にピンを増設すれば、従来のAGPコネクタと互換性がなくなってコストが高くなる、ということからか、形状はAGP 2.0と同じものを使うことになった。
したがって、AGP 2.0対応のビデオカードは、AGP 3.0のみにしか対応しないマザーボードにも装着できるし、AGP 3.0のみで動くビデオカードがAGP 2.0のマザーに差せる。前者は電圧が足りなくて動かないし、後者は過電圧の危険がある。カードが燃えては困るので、AGP 3.0にしか対応しないビデオカードは、1.5Vの電圧がかかることも想定し、それでも壊れないように設計しろ、という苦しい仕様になっている。
いずれにしても、AGP 3.0時代には、マザーボードやビデオカードによっては「差したけど動かない」という事態が発生しうる。
もっとも、現時点ではAGP 3.0(=AGP 8X対応)のカードはほとんどないからか、KT400もSiS648も、AGP 2.0仕様のビデオカードが差さった場合にはAGP 2.0モードで動くようになっている(チップセット側がAGP 2.0もサポートしている)し、ビデオカード側もAGP 2.0対応モードを持っているようだ。
個人が必要とする日はまだ少し先か
AGP 8Xモードによって、ビデオエンジンはより高速にメインメモリからテクスチャデータを持ってくることができるようになるが、現在、ハイエンドビデオカードは64MBとか128MBといった大容量メモリを搭載することで速度向上を図っており、AGP 8Xの効果については多くは期待できないのが現実だ。むしろAGP 8Xは、3Dテクスチャの転送ではなく、ビデオデータの転送を考えているのではないかと思われる。
例えばハイビジョン映像の編集を行うとしよう。1920×1080ドットのハイビジョン画像を、参照用と表示用に2つ再生させるとすると、これだけで750MB/秒のデータ量になり、AGP 4Xの理論限界に近い帯域を要求する。なるほどAGP 8Xの能力が必要と言えそうだ。こういった用途を想定していることを裏付けるように、AGP 8Xではワークステーション向けのオプションとして「アイソクロナス転送」の仕組みを用意している。アイソクロナス転送は、あるタスクに対して一定時間内に一定量のデータ転送能力を保証するものだ。例えば音声や動画再生のようにリアルタイム性を要求される作業で、他に重い・大量のデータ転送が行われている場合でも再生を途切れさせたくない場合に用いられる。
このような用途でしかAGP 8Xの機能が意味を持たないとすると、IntelがAGP 8Xの搭載をとりあえずGraniteBay(E7205チップセット)以上で考えているのもうなずけよう。ただ、その性能が本当に必要か、という意味では、現在のCPUのクロックにも同じことが言える。性能として十分でも、競合他社に負ければシェアは低下する。IntelはAGP 4Xのとき、VIAが1999年10月にApollo Pro 133Aで搭載してきたのに、2000年6月のi815まで対応しなかったことで、傷を深くしたことがある。Intelの態度が注目される。