(社)電子情報技術産業協会(JEITA)が主催する、放送用機器の国際展示会“第38回 2002年国際放送機器展”(略称:Inter BEE 2002、International Broadcast Equipment Exhibition 2002)が20日~22日の日程で、日本コンベンションセンターにおいて開催された。入場無料ということもあり、会場にはプロの放送関係者だけでなく、放送業界に関心のある学生/一般人の入場者も数多く見られた。
会場で特に目立ったのが、デジタルハイビジョン放送向けのHD放送向けカメラなど業務用カメラの新製品、デジタルエフェクト関連製品、高画質MPEG-4(Advanced MPEG-4)技術のデモなどだ。
高解像度&高画質+αな注目製品
――業務用カメラ
水平走査線が525本の標準放送(SD放送)より多い、750pや1125iなどの高解像度/高画質な記録が可能なHD放送対応の業務用カメラは、ソニー(株)/ソニーマーケティング(株)、松下電器産業(株)、キヤノン(株)/キヤノン販売(株)など多くのメーカーのブースに展示され、もはや珍しい存在ではないという印象だ。
2.4GHz帯の無線で映像を伝送する日立国際電気の“ワイヤレスカメラシステム”。動作中はかなりユニットが熱くなる | こちらは受信機 |
そんな中、(株)日立国際電気に出展されていた“ワイヤレスカメラシステム”はひときわ目を引く存在だ。日立国際電気と英LINK社が共同開発したもので、2.4GHz帯の無線通信を使い、撮影した画像を内蔵MPEG-2エンコーダーユニットでデジタル信号に変換して離れた場所の受信機に飛ばすというもの。TELEC(財団法人テレコムエンジニアリングセンター)で技術基準適合証明を取得しており、免許不要で利用できる。カメラ後部、バッテリーユニットの後ろにバッテリーよりも一回り大きな送信機(重量は1.05kg)を装着し、40ms(約1フレーム)という低遅延で、見通し1km程度の距離まで無線で映像を飛ばすことができるという。通信速度は最大32Mbpsで、会場では10~12Mbps程度の高画質/滑らかな映像をワイヤレスで送信できることをデモしていた。2003年の発売予定で、送信機と受信機のセットで1000万円程度になる見込み。
ソニーの無線伝送システム。価格は360万円程度で、2003年春の製品化を予定 |
無線送信のカメラは、ソニーも参考出展している。同様にMPEG-2エンコーダーでA/D変換し、300~500m程度離れた受信機で受けられるというもの。同社のテストでは、ゴルフ場のショートホール程度ならグリーン上で撮影した映像をティーグラウンドで受けることができるという。転送速度は最高10~12Mbps程度で、ユニットの重量は1.7kg程度。2003年春に製品化の予定で、価格は360万円程度になりそう、とのこと。
NECの高感度カメラ『NC-D900W』 |
さすが業務用カメラ、というデモを見せていたのが日本電気(株)の高感度カメラ『NC-D900W』(参考出品)だ。暗幕の内側で、2ルクスというわずかな光に照らされた観覧車のおもちゃは、カメラ右手ののぞき窓から肉眼で見ても輪郭がぼんやりと分かる程度で、色はまったく識別できない。このカメラは+66dBの感度向上により、ごくわずかな光でもしっかりと色を再現できる(カメラ上部のディスプレーに表示される)。従来、暗視カメラと言えば赤外線でのモノクロ映像を想像するが、2003年2月に発売、4月出荷予定というこのカメラが普及すれば、その常識も覆ることだろう。価格は400万円を切る予定とのこと。
エス・ジェー・ピー/独ザハトラーのバランスシステム『Artemis Cine/EFP』。歩くのは少々つらそうだが、止まった位置でカメラを動かすのは片手でひょいと行なって見せた |
最近は、業務用カメラでも小型/軽量化が進んでいるが、それでも予備バッテリーやモニター用の外部ディスプレーを一緒に携帯することを考えると、重くかさばることは変わらない。そんな悩みを解消するのが、“カメラバランスシステム”と呼ばれる体に取り付けたハーネスとバネ付きアームのセットだ。重量は肩と腰のベルトにかかり、腕はカメラアングルの移動のみに専念できるので、カメラ本体とディスプレー、バッテリーなどを合わせて25kg程度あるシステムでも、手早く操ることができる。写真は独ザハトラーの『Artemis Cine/EFP』で、輸入販売元の(有)エス・ジェー・ピーのブースでデモしていたもの。2003年発売予定で、予定価格は520万円程度。430万円程度のモデルも販売予定とのこと。
プレステ2でもMPEG-4再生が可能!?
――ソフトウェアの注目製品
意外なことにInter BEEへの出展は今回が初めて、というアップルコンピュータだが、見る人を惹きつけるデモのうまさはさすが |
Inter BEEにブースを構えるのは初という、アップルコンピュータ(株)は、映画制作の現場にも使われたと言うデジタルエフェクトツール『Shake 2.5』のデモに多くの来場者が関心を寄せていた。
Pentium 4-2.80GHz(HT対応機)で20Mbpsの高解像度MPEG-2データがほぼフルフレーム再生できていた |
ほかにも、映像の合成/加工から、フィルムのキズや変色の補正まで、さまざまなメーカーがプロユースのソフトウェアも多数出展していたが、中でも特筆ものは、(株)アイ・ビー・イーのソフトウェアMPEG-2デコーダーだ。DVD-Video規格のMPEG-2ではなく、ビットレート20MbpsのHD放送向けMPEG-2データ(1920×1080ドット)をほぼフルフレーム(27~29fps)で再生するエンジンを、「必要は物は世界中から探してくる。もし無かったら自分たちで作ってしまう」という同社の企業精神で、作り出したものだ。再生環境は、Pentium 4-2.80GHz搭載のHT対応機をインテルから借用し、HT機能を使用してデモを行なっていた。用途はHD MPEG-2エンコード結果の確認や、編集(同社はMPEG-2データの簡易カット/トリミング編集ソフトも作っている)時のリアルタイムディスプレーリングなど。「あと少し調整すれば、同じスペックでフルフレーム表示が可能になるが、要望があればすぐにでも出荷する」(説明員)とのことで、価格は10~20万円程度を見込んでいる。
表情の変化をリアルタイムに読み取って、3D CGの顔に反映させる『FACE STATION2』のデモ |
会場で随一の大きさと派手さを誇るソニーブースの正面では、深夜番組で見たことのある、リアルタイムに表情が変化する3D CGシステムの次期バージョン『FACE STATION2』(開発元:米アイマティック・インターフェーシーズ社、国内販売元:アイマティックジャパン(株))がデモ展示されている。カメラで被験者の表情をしばらく(数秒間)取り込んでおくと、目/鼻/口/耳/頬骨といった各パーツの左右端と中心など特徴的なポイントを自動的にクリップして、CGの顔が対応した表情に変化する。マーカーを顔に付けたり、キャリブレーション(最初の位置指定)といった手間が不要で、カメラのフレーム内に顔を収めておくだけでソフトが自動認識し、さらに撮影中の表情の変化を学習して、個々人の顔の動きやクセを覚え、より自然な表情の表現になるという。実際デモを見たところ、TVで見ていたCGよりも各パーツの動きに矛盾やぎこちなさがなく、気持ち悪いほどリアルだった。瞬きの回数やまぶたの開き具合に不自然さが残るものの、これらはパラメーターで微調整できるとのこと。価格はソフトウェア単体のウェブ直販価格が29万8000円(ほかにSI経由のシステム販売も予定)で、11月中に出荷を開始する予定。
従来は手動で輪郭を指定していたが、新しい『FlashMotion』では自動的に輪郭抽出が行なわれ、ほぼリアルタイムでの処理が可能になったという |
東芝の『FlashMotion』は、コマ送りの映像を元の絵に重ね合わせて、ストロボ効果のような表現ができるというもの。以前は、背景と重ね合わせたいオブジェクトの境目を手動で指定していたのだが、フレーム間の差分情報を検出することでソフトウェア側での自動処理が可能になり、ほぼタイムラグなしに重ね合わせた映像を出力できるという。デモ機のシステムはPentium III-1GHz程度と、動画処理をリアルタイムに行なうには決してハイスペックではないが、カメラが固定されていれば、フレーム間の自動差分抽出技術がかなり正確に効く。ちなみに、従来の手動処理する製品はNHKに納品して、実際にTV放送でも使われていたそうで、今回の技術も近い将来、各局に導入され、スポーツ中継の新しい見方として定着するかもしれない。
プレステ2上で高画質なMPEG-4データが再生できるプレーヤーソフトを沖電気が開発! | 日本ではSTBを家庭に導入するよりも、すでにあるゲーム機を利用したほうが現実的という判断は間違いではなさそう |
2001年に策定された、高画質化に比重を置いたMPEG-4の拡張規格“MPEG-4 ASP(Advanced Simple Profile)”に対応するハード/ソフトウェアも、今回のInter BEEで目立つ存在だ。沖電気工業(株)は、このMPEG-4 ASPをソニーの家庭用ゲーム機『プレイステーション2』で再生するプレーヤソフトを開発、ブースでデモ展示が行なわれていた。ビットレート1.5Mbpsの映像をストリーミング配信し、ブロードバンド接続ユニットを搭載したプレステ2で再生した映像は、MPEG-2の高画質な映像に見慣れた目には、ややブロックノイズが気になるものの、解像感や動きの滑らかさは上々で、すでに一般家庭に広く普及しているゲーム機をストリーミング受信のSTB(セットトップボックス)代わりに利用できるこのソフトは面白い存在だ。パソコン用のMPEG-4 ASP再生ソフトはすでに配布が始まっており、同社のメディアサーバーは(株)ぷららネットワークスなど一部ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)に導入されているという。今後の動向が楽しみだ。
パソコン関連の展示会とは違い、我々が普段なかなか間近で見ることのない放送用機器を体感したり、目の前で見られるとあって、この業界に少しでも興味を持つ人には実に有意義な内容になっている。カメラを十数m上まで一気に持ち上げて制御するクレーンやリモコンなどの機械的なシステムから、手ぶれした映像を背景の共通するポイントを割り出して自動的にフレーム単位でトリミング位置を調整し、揺れがほとんど見られない映像に修正する“スタビライザー”と呼ばれる映像処理技術まで、アナログとデジタルが高度に融合した映像製作の裏側を垣間見られるイベントだ。