富士通(株)は、Linuxを次世代情報システムの基盤OSとして位置づけ、2006年までに大規模基幹系システムをLinuxで構築することを目指すと発表した。
富士通はこれまで、同社Linux Centerを中心に、IAサーバ『PRIMERGY』やミドルウェア『Interstage』、『Systemwalker』などのLinux対応推進やISVとの連携、LKSTやLKCDの開発、クラスタやGridシステムの構築やサポートといったLinux関連事業を行なっている。今回新たに発表されたのは、
- Linux対応ミドルウェアの提供開始時期
- 米Red Hatとの協業
- サポート体制の強化
- Linux製品のロードマップ
といったことだ。
記者発表会では、まず富士通(株)代表取締役副社長の杉田忠靖氏が、エンタープライズLinuxへの取り組みの背景と戦略、ロードマップなどを紹介した。
![]() | 富士通(株)代表取締役副社長 杉田忠靖氏。「基幹システム領域でのLinuxでNo.1を目指す」という。 |
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杉田氏は、現代の情報システムに求められる要素として、
- 24時間365日の無停止連続運転に対応する、システム全体の高い信頼性
- 大規模な負荷変動に対応できる拡張性、負荷分散への対応
- 業務、データベース統合による、企業間、業務間連携の高速化
- 新しい業務の開発を短期化し、既存業務との連携を可能にするシステム全体の連続的な拡張性
といったものを挙げ、システム全体を連続的に拡張できるOSとしてLinuxが最適であり、今後の情報システムの基盤としてLinuxシステムに取り組むとした。
富士通はLinuxソリューションを通じて、メインフレームやUNIX向け開発ノウハウなどの基幹システム技術の適用や、各種ISVとの提携によるアプリケーションの提供、ワンストップサポートの強化を行ない、次世代の情報システム向け基幹OSとしてLinuxを戦略的に位置づけてゆくという。Linuxカーネルに対する取り組みとしては、日立やNEC、IBMと共同で開発しているエンタープライズ向け機能拡張『LKST』、『LKCD』の開発や、コミュニティへの提案、自社のメインフレーム技術やUNIX技術の適用などが挙げられた。
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既存のエンタープライズ技術を適用し、Linuxをベースにした基幹システムを展開するという。 |
第1段階として、富士通の業務システム向けミドルウェア製品や、通信キャリア向けソリューションパッケージをLinuxに対応させて提供する。Linux対応が発表されたのは以下の9製品となる。
- 業務システム向けミドルウェア製品群(10月より順次提供開始)
- Webアプリケーションサーバ、開発環境『Interstage』エンタープライズ版
- 運用管理ソフトウェア『Systemwalker』エンタープライズ版
- データベース、フロントエンドアプリケーション『Symfoware』
- クラスタソフトウェア『PRIMECLUSTER』
- データ転送、連携ソフトウェア『Linkexpress』
- VoIP向け高可用ミドルウェア『GeoServer HA』
- COBOL開発、運用環境『NetCOBOL』
- 通信キャリア/プロバイダ向けソリューションパッケージ(2003年3月より順次提供開始)
- VoIP交換機機能を実現するパッケージ『GeoServe SCS』
- 簡易メッセージングサービスパッケージ『GeoServer IMS』
また、安定したソリューションを提供するために、米Red Hatと協業し、『Red Hat Linux Advanced Server』のエンタープライズ向け機能の開発を共同で行なうという。次期バージョンの『Red Hat Linux Advanced Server』にはこの成果が反映され、『LKST』『LKCD』の機能が搭載されるほか、IPv6への対応も進められるそうだ。富士通では次期『Red Hat Linux Advanced Server』と、IAサーバ『PRIMERGY』を組み合わせた『Linux サービスバンドルモデル』を12月より発売するとしている。
富士通は今後、製品開発に1000人規模、システムエンジニアを1万人規模動員し、「サービス、サポートも含めて、基幹システム領域でのLinuxでNo.1を目指す」(杉田氏)としており、将来はハードウェアで1000億円、ソフトウェアで2500億円程度の売り上げを見込んでいる。
また、富士通(株)ソフトウェア事業本部Linux統括部長の北岡正治氏は、具体的なLinuxシステムの導入事例として、富士通(株)系のISP『@nifty』などを挙げた。
![]() | 富士通(株)ソフトウェア事業本部Linux統括部長 北岡正治氏 |
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@niftyでは、現在Webサーバ、Webホスティングサーバ、ftpサーバなど、全体の3割程度にLinuxサーバが導入されているといい、今後すべてのサーバをLinuxに置き換える予定だという。そのほか、2003年より稼働予定のLinuxを採用した銀行の営業店システムや、通信キャリア向けシステム構成例などが紹介された。
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@niftyは、リファレンスユーザーとして、現在Webサーバ、Webホスティング用の「ホームページサーバ」、ftpサーバなどにLinuxを採用している。今後はすべてのシステムをLinuxベースのものに置換するという。 |
今後のロードマップについては、来年から再来年にかけて業務基幹系ミドルウェアのLinux対応促進やサポート体制の強化を行ない、2005年にはPostgreSQLなどのオープンソースミドルウェアの活用強化に取り組むという。3年後の2006年には、「先行するエンタープライズLinuxの事例が登場するようになる」(北岡氏)といい、Linuxによる大規模基幹系システム構築が本格化するようだ。
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富士通のエンタープライズLinuxロードマップ。カーネル 2.5でエンタープライズ向け機能が追加されていることなどもあり、2006年には先駆的な事例が登場し、基幹システムのLinux採用が促進されると考えられている。 |
