翌年の新製品の発表会となるCPU業界随一のカンファレンス“Microprocessor Forum”が、今年も米国カリフォルニア州サンノゼのフェアモントホテルで14日(現地時間)に開幕した。IT業界は不振のさなかにあるが、今回発表されるCPUはとにかく景気がいいのが特徴だ。キーノートスピーチではインテルのCrawford氏が10億(ビリオン)トランジスターのCPUを語れば、続くセッションではIBM、AMD、富士通から“SPEC CPUで1000を超える”超強力プロセッサーが次々と登場した。2003年のコンピューターはどうなるのだろうか。
10億のトランジスターは今でも使い道がある
キーノートスピーチは、“Intel Fellow”のジョン・クロフォード(John Crawford)氏。ムーアの法則によれば、1.5~2年でトランジスター数は2倍になるとされ、このペースだと15~20年でトランジスター数は1000倍になることになる。1971年に2300トランジスターで始まったインテルプロセッサーは、1990年には100万を超えた(19年で500倍)。インテルは集積、微細化に伴う困難を新素材の応用などで克服しており、2007年ごろにはビリオントランジスター(10億個のトランジスター)がワンチップに集積されるようになるだろう、と語る。
ビリオントランジスターには今でも有効な使い道がある |
そんなにたくさんのトランジスターを何に使うのか、という当然の問いに対してクロフォード氏は、「仮にItanium2を4つ載せたプロセッサーを考え、そこに12~16MBの共有キャッシュを載せれば、ほぼ10億のトランジスターが必要になる。現状では、別々の4つのプロセッサーを基板上で接続して動かしているが、それをワンチップにできるなら、性能は格段に向上し、コスト削減にもなり、エンタープライズ用途で大きな効果がある。現在でさえ、ビリオントランジスターには有効な使い道がある」と説明した。
Macintoshの逆転なるか? PowerPC 970いよいよ登場
CPU編のトップを飾ったのは、IBMマイクロエレクトロニクスのピーター・サンドーン(Peter Sandon)氏。ついに登場する『POWER4』べースの64bitプロセッサー『PowerPC 970』の詳細が明らかになった。
『POWER4』と『PowerPC 970』 |
2001年末に出荷されたIBMの『POWER4』プロセッサーは、CPUの代表的なベンチマーク“SPEC CPU 2000”において熾烈なトップ争いを続けていたPentium 4、Athlon XP、Alphaを悠然と抜き去る、SPECint 2000で790、SPECfp 2000に至っては1098という超絶的な数値をひっさげてCPU界に彗星のように現われた。ちなみにその時点でトップだったのは、SPECintがAthlon XP-1900+の677、SPECfpはPentium 4-2GHzの704だった。intで100以上の差を、fpでは1.5倍という信じがたい性能を実現して度肝を抜いた(現在ではSPECint2000のトップはPentium 4-2.8GHzの976、SPECfp2000はItanium2-1GHzの1356である)。
ただ、POWER4はCPU内に2つのコアを持ち、1.5MBもの2次キャッシュを搭載する超豪華版構成で、PC用に使うにはコストがかかりすぎる。PowerPC 970は、これをハイエンドデスクトップクラスでも使えるように再設計したものである。
『PowerPC 970』のブロック図 |
POWER4との主な違いは、CPUコアが1つであること、ベクター演算ユニットが4つ追加されたこと(構造は“AltiVec”とそっくりであり、互換性が噂されている)、パイプライン段数が2段延びていること、キャッシュが512KBであること、である。コアやキャッシュが減っているのは、Pentium 4クラスのCPUと価格的に張り合うには仕方あるまい。一方で、POWER4の力の源泉でもある8つの実行ユニットはそのまま残ったうえ、ベクター演算ユニットが追加されたことで、実行ユニットは実に12というゴージャスな仕様にもなっている。クロック周波数は1.4~1.8GHzをターゲットとする。
性能は、SPECint2000で937、SPECfp2000で1051を見込む。intはPentium 4-2.8GHzに及ばないが、fpは150ほど上回っている。また、マルチメディア処理性能の指標となる単精度浮動小数点演算能力では、Pentium 4-2.8GHzの5.6GFLOPSに対し、PPC 970は14.4GFLOPSと大きくリードしている。
ただし、出荷は2003年後半となっており、この時点では次世代Pentium 4の“Prescott”やAMDの64bitプロセッサー“Opteron”に再逆転されているのは確実だ。とはいえ、対PC相手に2倍以上のクロック差に四苦八苦しているMacintoshにとって強力な援軍であることはまちがいない。32bitモードでは現行PowerPCと互換性があるため、採用はしやすい。現時点ではアップルコンピュータはコメントしていないが、十分に期待できると言っていいだろう。
Baniasはクール! Nehemiahはさらに小さく!
続いては、インテルのムーリー・エデン(Mooly Eden)氏。2003年早々に登場が期待されている、モバイル向けCPU“Banias”のプレゼンテーションだ。今回は、BaniasがCPUだけでなくシステム全体で省電力を意識していること、それにより、状況に応じて多段階の速度・電圧調整を行なえる点を強調、プレス向けのデモでは、ヒートシンクなしのBaniasを動作させていた。静止画を表示している状態ではあるが、決してスリープ状態ではないが、CPUコアに触れてもほとんど温度を感じない。バッテリー駆動時間に期待がもてそうだ。
“Banias” |
お次はVIA technologiesのグレン・ヘンリー(Glenn Henry)氏。例年、今のようなハイエンドCPUのスピードは多くの人にとって不要だ、という趣旨のプレゼンテーションを行なう、Microprocessor Forumの名物男だ。VIA C3プロセッサー(Nehemiah)は組み込み用、小型静音マシン用で順調な成功を収めていると強調したうえで、今後のロードマップを提示した。2003年に登場するC5XLコアの製品は、パイプライン段数を4段増やして15段とし、クロック周波数を1.5GHzまで伸ばすとともに、SSEを内蔵、FPユニットの高速化、データキャッシュを4ウェイから16ウェイにする、といった改変を行なう。その結果、同一クロックの現行C3に比べビジネス処理、3Dゲームともに10%以上の性能向上が得られるという。驚異的なのは、これだけの機能強化を図ったにもかかわらず、ダイサイズは現在の56mm2から52mm2へと減っていることだ。低コスト体質は、いっそう他社の手の届かない水準に達している。また、CPUコアにとっての内部命令を直接発行する“AIS”という機能についても初めて言及された。これは現行のC3プロセッサーにも搭載されていて、NDAベースで利用可能になるという。クリティカルな処理を高速化できる可能性がある。なお、デュアルCPUをサポートするという。
グレン・ヘンリー氏 |
Opteron、SPARK 64Vが“SPEC 1000超え”
サーバー用プロセッサーのセクションでは、富士通の井上氏がSPARC64アーキテクチャーの最新製品、SPARC64Vの解説を行なった。アウトオブオーダー実行機能の実装、2MBという大容量キャッシュの搭載などアーキテクチャー面、物理面両面で大きく改善され、SPECint 2000で847、SPECfp 2000ではPOWER4を上回る1205を記録している。
OpteronのSPEC値 |
AMDのプレゼンテーションでは、急遽Hammerの顔であるフレッド・ウェバー(Fred Weber)副社長に変更された。今回力点が置かれたのは、Opteronシステムにおいては各CPUにメモリーが接続され、それらが高速なHyper Transportを経由して受け渡しされるため、参照内容がそのCPU内にある場合も、そうでない場合も、きわめて高いメモリー転送能力を実現できる、という話だ。しかしなんといっても話題をさらったのは、ついにSPECの値が公表されたこと。2GHz動作時で、SPECint2000で1202、SPECfp2000で1170という値は、特にintは最長不到、fpもItanium2に継いで2位に入り、ハイエンドPCレベルのプロセッサーとしては間違いなく最高速だ。また、メモリー性能に余裕があるため、クロックに応じてスピードがリニアに延び、Xeonに比べて性能が頭打ちになりにくい、という点も強調された。
今年はついにx86の新製品がなかった?
今年のフォーラムは、司会のピーター N. グラスコウスキー (Peter N. Glaskowsky)氏が「今年のフォーラムでは、ついにx86アーキテクチャーのCPUがひとつも登場しませんでした」という言葉で始まった。えっ? ということは、IntelもAMDもVIAも、何も出さないというのか。パネルには今年のハイライトが表示される。インテルが“Alpha EV11”(ちなみに現行のAlphaはEV6)、AMDがなぜかPowerPCの新製品を発表し、HPは、インテルと共同製作で設計したEPICアーキテクチャーの次々世代バージョンにサン・マイクロシステムズのSPARCの命令セットを採用したという。
オープニングでは『トワイライトゾーン』のテーマが鳴り響いた |
そこへ、おもむろにTVシリーズ『トワイライトゾーン』のテーマが鳴り響く。これはインテルがAlphaを次期アーキテクチャーとして採用したパラレルワールドの物語だ。インテルがx86に見切りをつけていたら、こんな世界が発生していたのだろうか? それは、今の状況と比べて良かったのか悪かったのか? いろいろなことを考えさせられる、不思議なオープニングが印象的だった。