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【直撃! 話題の企業】P2Pストリーミングを実現 アンクル

2002年09月10日 18時16分更新

文● 編集部 佐々木俊尚

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斉藤隆之
斉藤隆之 (株)アンクル代表取締役。1988年からリクルート・スーパーコンピューター研究所、ソニー、ディジタル・ビジョン・ラボラトリーズで並列計算、ネットワーキング、分散コンピューティングの研究開発に従事。2000年から情報数理研究所でアドホックネットワークコンピューティングのミドルウェアとアプリケーションの開発に着手し、2001年にアンクルを設立。

P2Pを利用した番組配信テクノロジー“シェアキャスト”を、コンテンツ制作会社のビットメディアとともに共同開発した通信技術研究のアンクル。シェアキャストは、インターネット上にあるユーザー同士をアドホックに接続し、ストリーミングを中継していく。ユーザー自身にも配信の役割を持たせることから、高性能で高価な配信サーバーを用意する必要がなく、手軽なストリーミングを実現する技術として注目されている。アンクルの斉藤隆之社長に、現状の課題や今後のビジネス展開について聞いた。

[ASCII24] 今年2月にシェアキャストを発表したわけですが、現在はどのような状況になっているのでしょうか。
[斉藤社長] シェアキャスト普及のため、とにかくコンテンツを増やし、ユーザーを獲得しようと努力しているところです。テストチャンネルという名称で24時間配信しているコンテンツと、さまざまなイベントでのライブ配信実験をあわせて進めています。たとえばこの夏には、荒川の花火大会や日蝕の中継なども行ないました。
[ASCII24] シェアキャストのメリットは?
[斉藤社長] まず第一に、帯域の利点があります。通常コンテンツを配信する場合、配信先が多人数になればなるほど、出口の帯域をきちんと用意しなければならない。たとえば100kbpsのストリーミングを1万人に配信しようとすると、最低でも1Gbpsの帯域が必要になる。しかしよく考えてみれば、受け手の側は帯域が余っている。8MbpsのADSLとか100MbpsのFTTHでも、100kbpsのストリーミングならその100分の1とか1000分の1しか使われていない。シェアキャストを使うと、そうしたユーザーの余った帯域幅をフルに活用できるようになるわけです。
[ASCII24] 想定しているのは100kbps程度のストリーミングなのでしょうか。
[斉藤社長] そうですね。だいたい100kbpsから200kbps程度。200kbpsあれば、テレビのクオリティーには全然足らないが、インターネット放送としては十分な帯域が確保できると思います。シェアキャストがターゲットにしているのは、高速で高画質なストリーミングではなく、どちらかといえば「ちょっと流してみたいときに流せる」といった手軽な番組配信モデルです。たとえば個人やグループ、企業などがちょっと流してみたいと思った番組があるとして、それが急にブレイクして急きょ1000人ぐらいに配信しなければならなくなったとする。いきなり1000人に配信しようと考えても、すぐには配信サーバーは用意できません。おカネもかなりかかる。これがシェアキャストだったら、安価かつ簡単に配信することができるわけです。
シェアキャストの画面
シェアキャストの画面。左側にトポロジーが表示される
[ASCII24] 将来的には、個人放送向けの展開も考えられますね。
[斉藤社長] シェアキャストのプロジェクトの最初の発端は、個人放送局の実現だったんです。
内輪話になりますが、アンクルではもともと、“ANCL”という名前のミドルウェアを開発していました。これは分散コンピューティングの技術を使った製品で、たとえば閉ざされた空間でパソコンやPDA同士が無線LANでアドホックにつながり、あるアプリケーションを協調動作させるというものです。ただこの製品ではビジネス展開が見えにくく、どうすべきか考えていたところに旧知だったビットメディアの高野雅晴社長からP2Pストリーミングのアイデアをもらいました。高野社長はコンテンツを安価に配信するプラットホームを探していて、「ANCLのアドホック性をストリーミングに応用できないか?」という話に。わたしも前々からANCLをインターネットワイドな場所で実現できないかと考えていたところだったので、共同開発が始まりました。開発予算の問題は情報処理振興事業協会のテーマとして採択されたことで解決しました。
最初に考えたのは、ストリーミング配信はブロードバンド時代になって技術的には十分実用的なものになったけれど、まだまだ高価。それを個人で使えるようにしたいと思った。大は事業者から、小はグループや個人まで、スケーラブルにコストを抑えてストリーミングできる技術を使えるようになれば、コンテンツもそれにつれて増えていくでしょうし、インターネットの発展に寄与できるのではないかとも考えました。とはいってもまだ現状では個人向けに提供する段階まで至っておらず、当面は事業者にアプローチしていく予定です。
[ASCII24] 将来的には個人にも販売するということですか。
[斉藤社長] 個人向けにアンクルが直接販売、サポートするのは難しい。できうることなら将来、大手ISPにシェアキャストのパッケージを導入してもらい、ISP会員に対してシェアキャストサービスを提供していただくといった形ができればと思っています。
[ASCII24] シェアキャストの現状の技術的課題はなんでしょうか。
[斉藤社長] 中継のところで、少しずつ遅延が発生するんです。1ホップの遅延が10秒近くあるので、7~8ホップだと1分近く遅延する。コンテンツの内容によっては、遅延が問題になるケースもあり得ます。たとえば競馬中継なんかは遅延したらまずいでしょう? またシェアキャストではつながっているユーザー同士でチャットできる機能を開発中なのですが、時差があると話がかみあわなくなってしまいますね。
[ASCII24] 参加しているユーザーのパソコンがダウンした場合はどうなるんでしょう?
[斉藤社長] 仕組みはこうなっています。最初に仲介サーバーが1度だけ上流のノードを紹介してくれるので、ノードはその接続した上流ノード(親)からさらに上流のノード(祖先)の情報を教えてもらいます。もし上流ノードがダウンすると、事前に学習していた祖先のノードに対してつなぎ替えを行なうわけです。もしその祖先ノードもダウンしていて接続できなかった場合、ふたたび仲介サーバーから別の上流ノードを紹介してもらうことになります。ノードのダウンから再接続して復帰にかかる時間は、だいたい10~30秒程度。この時間を短くするのも今後の技術的課題のひとつです。

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