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台湾で日本のPHSが大ブーム! その人気の理由を探った

2002年09月05日 20時28分更新

文● 編集部 矢島詩子

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日本では、言うまでもなく日常生活に溶け込んでいるiモードやPHS。これらが、日本と同じように、台湾でも広がりを見せている。昨年6月からは台湾の通信事業社、大衆電信がPHS事業を、今年6月からはやはり台湾の通信事業社KGテレコムがiモードコンテンツを配信するサービスを開始した。

中でも大衆電信の提供するPHSは、台湾全土で加入者数が30万人を超える勢いだ。使用されているPHS端末は日本の三洋電機製。現在、同社が台湾PHS市場を独占している形になっている。
台湾にPHS文化が広がるまでの話を、同社の開発担当者に聞いてみた。

三洋電機武藤さん
三洋テレコミュニケーションズ(株)のシステム事業推進部 システム企画部企画課 主任企画員 武藤明範さん。台湾でのPHSサービスのシステム立ち上げから参加した

台湾ではGSM方式の携帯電話が最も普及しており、普及率は100%を超えている。つまり、台湾の人口を上回っており、1人が2台以上を持っている計算になる。日本同様、固定電話の加入者数を上回る勢いだ。この中で、GSM携帯電話を取り扱うキャリアー1社を取り上げても、700万人以上の加入者を抱えていることになる。そんな中、2000年8月、台湾の通信事業社、大衆電信が、日本の三洋電機の関連会社である台湾三洋電機を通じて「台湾内でPHSサービスを始めたい」という話を持ちかけてきた。

台湾PHSサービスの開発に取り組んだのは、三洋テレコミュニケーションズ(株)。もともと、三洋電機内でPHSや次世代携帯電話など、通信機器の開発を行なっていた同社のパーソナル通信事業部が2001年4月に独立した会社である。

同社のシステム事業推進部、武藤明範さんは台湾でのPHSサービス展開の話を聞くも、「すでにGSM方式の携帯電話が普及している地域にPHSを持ち込んだところで、どれだけ受け入れられるのか」と素朴な疑問を抱いた。だが、新事業を展開させたい大衆電信側の熱意を感じたことや、海外への事業展開を検討していたということもあり、共同開発を行なうことを決めたという。

端末の開発、フィールド試験は同年12月から始まった。当初使用した端末は日本ですでに発売されていた、三洋製『J81』と同型のものだ。台湾では『J88』として発売されている。

フィールド試験が行なわれたのは台北市内。日本の場合と同様、ビルの屋上に基地局を設置し、通信実験が行なわれた。プロトコルなどは日本とほぼ同じなので技術的な労苦はあまりなかった。が、台湾ではフロアーごとにオーナーが違っているケースが多い。そのため、均等に日本の場合、ビルに基地局を設置する際はビルのオーナーに許可を取ればいいわけだが、土地の事情が少なからず、実験をやっかいなものにしていたようだ。だが「そもそも、企業側が日本の考え方に注目しているので、お互いの間で大きなすれ違いというのはありませんでした」(武藤さん)。



日本語端末を
中国語対応にカスタマイズ

台湾で日常的に使用されている言語は、台湾語のほか、中国・北京などで主に使われている北京語と同様だ。書き言葉は北京語そのものではあるが、使用されている文字は中国大陸では、漢字を簡略化した簡体字であるのに対し、台湾では繁体字である。

この繁体字フォントをPHSに移植するにあたっては、フォント・表示ソフトウェアの開発を、大衆電信以外に中国の某メーカーと協力して行なった。

PHS画面
 日本語の端末なら、例えば「OK」「戻る」という表示であるところを、台湾では「確定」「返回」と、漢字2文字で表示しなければならない。すべての機能においてのチェックになるので、この作業に一番時間をかけた

フィールド実験、実機評価を始めてから半年後の2001年6月、PHSサービスが正式に開始された。

台湾の若者向け雑誌など各マスコミは、日本のPHSが台湾に上陸したということで台湾の若者向け雑誌など、多くの媒体が大衆電信のPHSを記事にした。

台湾市場においては“メイドインジャパン”を打ち出すことがヒットの条件である、と言っても言い過ぎではない。“哈日(ハーリー)族”と呼ばれる、日本の文化を好む若い人たちの支持が多く、商品の宣伝コピーはもちろん、日本製ではなくても日本語を使った商品名を持つ品物が氾濫している。
PHSのユーザー層は哈日族と見事重なった。加入者は10代後半から20代の学生を中心に増えていった。
武藤さんは「加入者数は、20万人いけばいいほうだろう」と、決して甘い見通しはしなかった。だが、加入者数は順調な伸びを見せ、サービス開始から半年後20万人を超えた。まずは成功と言っていい。



日本語の立て看板
台湾の電脳街で見つけた看板のひとつ。「美顔の様に完全保護」とあるこれは、PDAの保護シートの宣伝コピーである。微妙に日本語がおかしいがそこはご愛嬌。台湾ではこの手の日本語コピーがそこかしこで見うけられる

大衆電信は、GSM方式の携帯電話との違い、そして日本でも広まっている電話サービスである、としてアピールした。
GSM方式との大きな違いは、まずメールサービスやコンテンツサービスの有無だ。GSM方式ではショートメッセージとして文字を送信できたが、英文のみ。それがPHSなら全角で、それも中国語を使って45文字まで送信できる。

コンテンツサービスは日本と同様、ニュースや天気予報など実用的なコンテンツを中心にスタートし、日本のコンテンツ会社も台湾向けのメニューを開発し、提供している。

端末の価格は1万台湾ドル(約3万4000円)。(※1) いっぽうのGSM携帯電話は5590から9500台湾ドル(約1万9000円から3万2000円)で販売されていることを考えるとやや高めの設定ではある。それでも売れたのは、GSM方式携帯電話と比べての通話料金の安さやスペックの高さが十分、興味関心を引くことができたのだろう。

さらに今年1月、6万5536色のカラー液晶ディスプレーを採用したPHS『J95』を発売した。価格は1万8000台湾ドル。日本で発売されているAirH"対応端末の『RZ-J700』と同型で、外付けのデジタルカメラ『Treva』を取り付けると撮影が可能に、別売りのリモコンを取り付けるとMP3プレーヤーになる。カラー表示のコンテンツもスタートした。
こちらは高級機に相当することもあり、J95のユーザーはまだ少数派だが、着実に売れ行きを伸ばしている。

※1 1台湾ドル=日本円で約3.4円として計算



J95 『J95』キーボード部分
『J95』の本体。外見は『RZ-J700』と同じ。これにオプションでリモコンをつければMP3プレイヤーになるのは日本版でも同じ 『J95』キーボード部分

お詫びと訂正:記事の掲載時、本文中ほどの『J95』の本体写真にあります説明部分に、「外見は『RZ-J90』と同じ」とありましたが、正しくは『RZ-J700』でした。関係者のみなさま、読者のみなさまにお詫び申し上げ、ここに訂正いたします。(2002年9月6日)

発売をはじめてからの、ユーザーの要望で最も多いのはメールサービスに関する希望だという。
「送受信できる文字数を増やしてほしい」「GSM携帯電話との互換性を持たせてほしい」といったことが中心だ。武藤さんらが想像していたよりははるかに多数の要望が舞い込んで来ているという。思えば、日本でも携帯電話やPHSのユーザー数が伸びた大きなきっかけは、メールサービスが始まったことではなかったか。

今年の年末までにかけて、PHSのサービスエリアは拡大が進む予定だ。台湾の玄関口である中正国際空港周辺、台中、台南へとエリアが広がり、これでほぼ全土に行き渡ることになる。エリアを拡張することで、加入者数は60万人を超えるのではと予想されている。また、大衆電信はDDIポケット(株)と協定を組み、台湾から日本への海外ローミングサービスを開始した。『J95』を使い、事前登録をするだけで、台湾のユーザーは日本国内での通話とデータ通信が可能となった。

また、台湾では携帯電話やPHSをデータ通信用として利用する土壌が発達していない。当然、日本で発売されている“AirH"カード”やNTTドコモの“P-in”のようなデータ通信用コンパクトフラッシュカードやPCカードも登場していない。
『J88』、『J95』には通信用のインターフェースが装備されているので、これに通信用USBケーブルを接続すれば64kでのデータ通信が可能だ。武藤さんはデータ通信用途としての市場も含めた拡大を狙いたいと話している。

「iモードの参入、大歓迎です」

いっぽう、台湾の別の通信事業社、KGテレコムが日本のiモードサービスを台湾で展開すると発表、6月から端末の販売と各種コンテンツサービスが開始された。新たな競争相手の登場である。だが武藤さんは「iモードの参入、大歓迎です」と言う。
「PHSとiモードコンテンツとの互換性はありませんが、PHSは主にコンテンツビジネスだと思っています。コンテンツ提供会社の側で、iモードとPHS、両方に対応するものをどんどん作っていただければコンテンツが賑わいますから」と余裕だ。

PHSサービスは日本では思うような躍進を遂げることはできなかった。しかし武藤さんは「設備投資のためのコストが比較的安く済むということ、都市ごとの通話手段としては(携帯電話よりも)こちらが優れている面もありますので、まだまだ市場はあると考えています」という。

三洋テレコミュニケーションズは、PHSサービスを台湾だけでなく、中国、タイのバンコクでも始めている。日本では通話用というよりはむしろ、データ通信用として好まれているが、思いがけずアジアの国々で、日本のケータイ文化を広める役割を果たしているようだ。

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