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ついにLinuxに踏み込んだSunの思惑

2002年08月25日 22時51分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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LX50投入の意味

 さて、SunがLX50投入に踏み切った背景には、どのような事情があるのだろう。ここでは、憶測を交えつつも個人的な分析を試みてみたい。

 まず、Intel CPUの採用についてだが、実はSunがIntel CPUを採用するのはLX50が初めてというわけではない。元々別会社であったCobalt製品を別としても、SPARCstation投入直前の時期に、Sun 386iという製品をリリースしたことがある。

かつて、UNIXワークステーションではMotorola製CPUを利用する例が多く、初期のSunもMotorola CPUのマシンをリリースしていた。最初の製品であるSun 1からSun 3までのモデルがMotorola CPUを利用している。この時代のワークステーションメーカーの多くは自社製の独自CPUを持たず、他社製のCPUを購入していたのである。Sunもその例に漏れなかった。しかも、そもそものSun 1の設計では、既存の高性能で安価なコンポーネントを組み合わせ、オープンなスタンダードに乗っ取ってコストパフォーマンスの高いシステムに組み上げる、という発想で作成されている。ハードウェアコンポーネントもそうだし、OSも当時の独自OS全盛の時代にUNIXを採用したのもその発想の表われだ。

つまり、Sunの出自としては、現在の多くのPCメーカーがやっているのと同様の「既存コンポーネントを買い集め、組み立てる」というスタイルで始まったメーカーなのだ。この時代にIntelではなくMotorolaのCPUを採用していたのは、当時のIntel CPUのセグメントアーキテクチャや、それに起因するメモリ空間の狭さ/アクセスの煩雑さ、などが嫌われたせいだと思われるが、決して現在のようにIntelとライバル関係にあると目されてはいなかった。製品として成功するかどうかは別として、Intel CPUを採用したマシンを作ることには特段の抵抗はなかっただろう。もちろん、他のシリーズとのバイナリコンパチビリティが失われるという問題はあるので、CPUアーキテクチャを多数使い分けるのは賢明とは言えないのは確かだが。

 その後、Sunはパフォーマンス面での飛躍を狙ってRISCアーキテクチャの独自実装に踏み切り、SPARCチップを完成させ、自社製品に全面的に採用していく。当時の状況ではIntel CPUに比べて明らかに性能が高かったSPARCチップはIntelに脅威を与え、結果としてIntel CPUの内部がRISC化されていくことに繋がった。しかも、この過程で従来の「CPUを利用する顧客企業」から「CPU事業で競合するライバル企業」に位置づけが変わってしまったため、SunとIntelは緊張した関係となった。この状況を前提とすればIntel CPU採用サーバを投入することは劇的な大転換に見えなくはないが、Sunの企業文化としては、「安くて優れたコンポーネントが外部にあるなら、買って使えばよい」という発想自体はごく普通のことだとも言えるのである。

 Linuxに関しても、同じようなことが言えなくもない。最初のSunOSは、Bill Joyらが拡張したBSD版UNIXをベースに開発されたものだ。UNIXは、もともとAT&Tのベル研究所で開発されたものだが、AT&Tがコンピュータ事業への進出を禁じられていたこともあり、安価にライセンスが公開されており、自由に利用できた。もちろん、現在のオープンソースに基づいたLinuxと同様に無償で誰でもソースコードを入手できる状況ではなかったが、それでも独自OS全盛で、他者にライセンス供給するのもまれな時代にあっては、現在のオープンソースと同等のインパクトを持った利用しやすいOSであったのは間違いないだろう。もともとこうした出自のUNIXをOSとして採用した経緯がある以上、現時点でLinuxを採用することも、まぁあり得るといえばあり得る話である。

 とはいえ、当然ながらSunにとっても創業当時と現在ではまるで状況が違っている。現在のSunはこれまで販売したシステムが「継承すべき過去の資産」として積み上がっている。現在のSunを支えているのもこの過去の蓄積であり、市場で稼働中の多数のシステムや、豊富な品揃えとなったサードパーティ製ソフトウェア、システム管理者や開発者といった人的資源が、競合他社に対するSunのアドバンテージとして競争上有利に作用している。これらすべてを捨て去って、ゼロから新たに競争を始める、という決断はいくら何でもいまさらできることではないだろう。実は、かつてMotorolaベースからSPARCにCPUを切り換えた際にはこの大きなギャップを乗り越えたわけだが、今たとえばIntelベースに切り換えたら、Sunという企業そのものの存続に関わる大ダメージになることは間違いないだろう。全く新しいアーキテクチャのCPUに切り換えるとしても、性能が現状のUltraSPARCベースのシステムの数十倍に向上し、かつコストは同等か安くなる、というくらいの大幅な飛躍でもない限り受け入れられそうにない。しかし、こんな新アーキテクチャが簡単に出現するとは想定しにくいので、部分的にIntel CPUを使うことはあっても、主力システムのCPUがSPARC以外のものになる可能性は現時点では想定できない。

 一方、ソフトウェアに関しても、Linuxを部分的に採り入れるメリットは確かにあるだろうが、主要製品のOSとしてLinuxを採用しても、Sunにはほとんどメリットはないと考えられる。というのも、Solarisはこれまで長期間掛けて熟成を重ね、エンタープライズ分野では確固たる実績を残しているOSである。しかも、『starfire(Sun Enterprise 10000)』や『starcat(Sun Fire 15K)』に見られるような高可用性と拡張性を実現し、この分野ではまだまだLinuxの追従を許していない。少なくともハイエンド分野においては、Linuxはまだ選択肢にもなり得ていないと言うべきだろう。

 では、なぜSunはLX50で32bit Intel CPUを採用し、かつOSとしてLinuxも揃えたのだろうか。ポイントは、“エッジコンピューティング”というキーワードである。先に見たように、LX50は1UサイズのPCサーバとしてはハイエンドに近い仕様のマシンであるが、Sunのラインナップ全体としてみればボトムエンドに近い存在であり、しかもSunの構想の中では“H”と略称される水平方向のスケーラビリティを確保するためのモデルだ。Sunのシステムアーキテクチャの説明で繰り返し示される「Big Web-Tone Switch」と呼ばれるシステムアーキテクチャの中では、ユーザーからのリクエストを直接受け付ける、ユーザーとシステムのちょうど境界に位置するのがエッジシステムだ。代表例はWebサーバであり、相互の関連性の薄い大量のリクエストを効率よく処理し、背後のアプリケーションサーバ、さらにその奥のデータベースに接続するための入り口を構成する。この部分では、実のところ用途はごく限定的であり、たいていの場合はWebサーバが動けばそれで十分だ。ただし、最近は単に静的なHTMLページを配布するだけのWebサーバよりも、ユーザーの要求に応じて対話的な処理を行なう「Webアプリケーション」の実行環境であることも求められる。

 本格的なロジック実行はアプリケーションサーバが担うとしても、アプリケーションサーバとWebサーバを繋ぐためには、現状ではWebサーバ側でサーバサイドで走るスクリプトなどが必要になる。WindowsのIIS環境では、ここにはASP(Active Server Pages)が利用され、JavaではJSP(Java Server Pages)が使われる。今どきのエッジシステムとしては最低限このどちらかの環境がサポートされていないと、システム構築の手間やコストが増えてしまうことになるが、LX50はTomCatとSun ONE ASPをプリインストールすることでJSP/ASPどちらでも利用できるようにしている。Webアプリケーション開発環境があれば、あとはWebサーバがどのようなバイナリコードで書かれていようが、OSが何であろうが、システムの根幹には影響がない。もちろん、システムの運用管理に関してはOSやハードウェアの違いは担当者の習熟度に関連して影響なしとは言えないのだが、現在ではLinuxに習熟した担当者を見つけるのはSolarisのシステム管理者を見つけるより容易だろうから、実用上の問題にはならないだろう。

 というわけで、エッジシステムに関してはSPARC/Solaris環境でもIntel/Linux環境でも大差ないということになれば、安価に実現できるIntel/Linux環境の方がコスト面でのユーザーメリットを期待できることになる。LX50の場合、コスト面ではLinux搭載モデルもSolaris搭載モデルも全く同額であるため、少なくともIntel/Solaris環境とIntel/Linux環境ではコスト面での差異はないことになるし、1CPU構成のみしかサポートされていないが、Sun Fire V120なら同じ1UサイズでUltraSPARC IIi-550MHz、512MBメモリ、36GB SCSI HDDという構成で42万4000円なので、SPARC/Solarisでもそう極端な価格差はないと言えそうなのだが、まぁそれは置いておこう。

 ともあれ、SunがIntel/Linuxマシンをラインナップすることに関しては、少なくともエッジシステムに限定するのであれば既存製品にダメージを与えることはなく、かつ多少コストパフォーマンスが向上するという利点はある、という理解ができそうだ。

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