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提供するのは『ザウルス』というアプリケーション - 『SL-A300』発売直前インタビュー

2002年08月04日 22時32分更新

文● 阿蘇直樹

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「30代を中心としたビジネスマン」のツール

『SL-A300』がターゲットとするユーザー層は、「30代を中心としたビジネスマン」なのだという。

「最終的には、徐々に広げていって、PCを利用している層全体に広げていきたいと考えていますが、製品設計の際に想定したのはそういったユーザー層です」。

胸ポケットにすっぽりと収まるサイズ、120gという重量、価格などといった要素だけでなく、通信機能を内蔵させない(ジャケットで対応)、カラー液晶を搭載するなど、ターゲットにあわせた機能の取捨選択が厳しく行なわれたようだ。一方で、『SL-A300』には「先々を見据えてさまざまな仕掛けを用意している」とも言う。

「たとえば、『SL-A300』のPCとの接続にはネットワークを利用しています。これは必ずしも有線で接続しなくともよいということを提案しているわけです」。

PDA製品の場合、同じ機能を搭載した製品であっても、それをユーザーがどのように利用するかによって評価が変わってしまう。ユーザーにとっては、使ってみなければ便利さがわからないツールであるといえる。これはベンダーにとっても同じことで、ザウルスも「お客様に使って頂くまで良さを理解してもらえない」製品なのだという。

「ザウルスは日本庭園のようなものです。以前、私の家で庭師さんに日本庭園を造ってもらったことがあります。できあがった庭は立派なもので、庭師さんにそういったんです。そうしたら、庭師さんが『今はこの庭の価値が一番低い状態です。これから色々と手入れして面倒を見ていくうちに、どんどんあなたの庭として価値が上がるのです』とおっしゃった。ザウルスも同じで、価値を加えてゆくのはユーザー様自身なんです」。

具体的な活用シーンについては、ユーザーからのフィードバックだけでなく、ユーザーのニーズを先取りできるようなシーンを想定しているそうだ。

藤原氏によると、情報の価値は、これから行なわれることにあるのではなく、すでに行なわれたことにあるのだという。たとえば、去年の今何をしていたのか、先週どこで何をしていたのかといった情報が、現在の問題を解決することがある。PC上で表示されている情報を容易に取り込む、それをカレンダーと関連づけて利用するといったアプリケーションは、そのような情報の利用を想定したものであるといえよう。

「ザウルスシリーズの開発にあたっては、生活をよりアクティブに、クリエイティブにすることを支援できるように考えています。ですから、ターゲットとするユーザーにとっての情報リソースが何かということに非常にこだわっています」。

これまでの製品では、モデムを搭載することで、出先でもネットワークを経由して情報を入手できるということを意識していたといえる。『SL-A300』では、情報のリソースはオフィスにあるPCだ。ユーザーは自分に必要な情報や行動を格納したデータベースとして、情報を管理、活用するために『SL-A300』を持つというのがもっとも自然な形になるのだろう。

ザウルスの今後

『SL-A300』に関する技術情報は、「ザウルス宝箱Pro」を通じて行なわれる。現在のところ、ハードウェアのシステムブロック図やメモリマップの概要といったハードウェアに関するものから、Linuxに関する資料、開発環境に関する資料などが用意されている。また、技術者向けのカンファレンスなどを継続的に行なう予定だそうだ。開発者向けのサポートは、この2つが中心になる。

「基本的には、我々は『ザウルス』というアプリケーションを提供しています。ですから、エンドユーザーにはLinuxが搭載されているということを意識させないような製品にしたいと考えています。しかし、いいアプリケーションを提供するうえで、Linuxを採用したということが今後重要な意味を持つことになるかも知れません」。

一方、ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダー、通信キャリアなどの企業とアライアンスを強化し、「コミュニティを築いて行く」予定だという。

「ユーザーが『ザウルス』というツールを活用できるように、インフラや環境を提供してゆきたいと考えています。我々の事業としても、付加価値を高めていくつもりです」。

また、ザウルスシリーズの今後のラインナップについては、Linux搭載モデルに一本化される見通しだという。

「開発リソースを一本化して行くことになると思います。ただし、『ザウルスOS』搭載モデルが今後登場するかしないかは、現段階では申しあげられません」。

現在、ザウルスシリーズの開発は、PCなどを開発する情報システム事業部ではなく、携帯電話などを開発している通信システム事業部が担当している。このことは、今後のザウルスシリーズの製品ラインナップにも大きな影響を与えるようだ。具体的な製品の話はなかったが、事業部が変わったことで新しい展開があることを期待できそうだ。

「ネットワーク環境などのインフラが変わるとともに生活スタイルも変わると考えていて、そのような環境の変化に対応して最適なアプリケーションを出してゆくつもりです。いずれにせよ、オープンなLinuxを持ち込んだことで、今後の製品展開にもさまざまな可能性が開けたと考えています」。


今回のインタビューから見えてくるのは、Linuxを搭載したデバイスとしての『SL-A300』ではなく、あくまでもPDAとしての『ザウルス』の姿だ。このことは、Linuxがほかの組み込みOSと比較しても、十分デザインウィンを勝ち取れるだけの魅力を持つようになったということなのかもしれない。一方で、『ザウルス』からLinuxが見えてこないことは、Linuxが世界的なオープンソースのコミュニティで開発されているということをも見えにくくしてしまうように感じられた。いずれにせよ、ザウルス『SL-A300』は、日本のLinux界の今後を占ううえで重要な試金石となるといえよう。

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