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【Wireless Japan 2002 Vol.3】「バリューチェーン構築競争が始まっている」──NTTドコモの夏野氏

2002年07月19日 01時22分更新

文● 編集部 佐々木千之

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東京ビッグサイトで開催中の“Wireless Japan 2002”において17日、(株)NTTドコモiモード企画部長の夏野剛氏は“iモードストラテジー─成長し続ける世界最大のケータイプラットフォーム─”と題した講演を行なった。

NTTドコモiモードストラテジー部長の夏野剛氏
NTTドコモiモードストラテジー部長の夏野剛氏「(この講演の)裏はKDDIの社長さんだそうですが、それより面白いのをやろうと思います。いや絶対面白いです」
“3G Mobile Newsletter”の調査による、世界のキャリアー別モバイルインターネットユーザー数グラフ
“3G Mobile Newsletter”の調査による、世界のキャリアー別モバイルインターネットユーザー数グラフ

夏野氏は「まず、この現実をおわかりいただきたい」として、ヨーロッパの携帯業界紙『3G Mobile Newsletter』の調査による、携帯電話を使ったインターネットユーザー数のグラフを見せ「日本政府のインターネット動向資料によると、日本のインターネットユーザーが3千数百万とか4千数百万人とされているが、アクティブユーザー数を出しているNTTドコモとKDDI、それにアクティブユーザー数ではない対応端末数であるが、J-フォンの数字を足しただけで5000万人くらいになる。この3年半で大きなパラダイムシフトがインターネット業界に起こった。つまり日本が世界において群を抜いてワイヤレスインターネットで成功したということだけでなく、インターネットユーザー数そのものがモバイルを中心に急増したということ。この3年半というのは日本経済が「だめだ、だめだ」と言われた時期。この3年半に日本のインターネット環境は格段に進歩して次の次元に入ったと思う」と切り出した。

504iは10年前のパソコン程度の能力を身につけたという
504iは10年前のパソコン程度の能力を身につけたという。「発売からまだ2ヵ月経っていないが504iや120万契約以上、251iも60万契約ときわめて順調」(夏野氏)

次にiモードの隆盛の理由に触れ「現在のiモードユーザー数は3370万人。まだ伸びている。これはドコモが単独でがんばっているということではなく、コンテンツプロバイダーからのいいコンテンツがあり、それがユーザーに広く受け入れられ、ユーザーが増え、ユーザーが増えることがまたいいコンテンツに繋がるという“ポジティブフィードバック”を形成しているから。またHTMLというデファクトスタンダードを使ったことで、自然に一般のサイトコンテンツが増える。これもポジティブフィードバック」とポジティブフィードバックを繰り返す流れを作り出したことがポイントだとした。

iモードをめぐる“ポジティブフィードバック”の構造
iモードをめぐる“ポジティブフィードバック”の構造

ポジティブフィードバックを引き起こすための戦略では「503iと504iのユーザー数の合計は1453万人に達した。これは日本人の9人に1人くらいがJavaを使っているという計算になる。Javaもiモードもまったく同じ戦略をとってきた。ポジティブフィードバックを引き起こす基本戦略は、技術では徹底的にデファクトスタンダードを使うこと。コンテンツプロバイダーにできるだけ優しい技術を使うということ」と、技術的優位性ではなく、標準技術であることが重要なのだと述べた。

iモードの契約者数グラフ
iモードの契約者数グラフ

夏野氏は「5月にドコモの契約の純増シェアが初めて落ちたなどとも報道されたが、携帯電話全体についてはもちろんiモードについても、純増分が少なくなっている中でのシェアはもうあまり重要でない。重要なのはいかに使ってもらうかだ」と述べ、機種別の平均パケット使用量のグラフを示した。

ユーザー1人あたりのパケット利用量のグラフ
ユーザー1人あたりのパケット利用量のグラフ。水色が全iモードユーザー、黄色がJava非対応端末(2xxiシリーズ)ユーザー、緑が503iユーザーのグラフ。503iユーザーは2xxiユーザーの約2倍のパケットを利用していることが分かる

「Javaが使える503iユーザーのパケット使用量の平均は、iモード全体ユーザーのパケット使用量の平均よりも遥かに多い。Java非対応端末のそれと比べると約2倍にもなる。新しい技術を投入するだけでは意味がなく、ユーザーに使っていただくことが重要。iモードの戦略の中でも、きちんと使ってもらえるものを載せ、使われないものはなるべく載せないようにしている」という。

キャリアー各社が推す機能が異なることについて「昔はなるべくなんでも載せる競争だったが、最近は、どの機能をどう選択するかという競争になっている。ドコモはJavaが、他社はカメラやGPSがユーザーに使われると考えているわけで、各社が考えていることが違うというのは、消費者にとってはいいことだ」と述べた。

夏野氏はまた、なぜ海外ではモバイルコンテンツビジネスが成功しなかったのかを日本と比較しながら分析した。夏野氏によると4年前のiモード登場以前の状況で見ると、アメリカにはリッチなコンテンツがあり、日本にはパケットネットワークがあったという違いはあるものの、マーケティング、ビジネスモデル、ネットワークを支えるシステムも特有のものではなく、日本も欧米も大差なかったという。

iモードにおけるバリューチェーンの構造
iモードにおけるバリューチェーンの構造

欧米ではコンテンツ、マーケティング、ゲートウェイサーバー、ネットワーク、電話機といったレイヤーのそれぞれでメーカーや事業者間の競争がある。ところが、iモードのようなサービスでは、例えば着メロ1つとっても、ダウンロードした着メロデータをパソコン側に移せないようにゲートウェイサーバーと電話機の間で連携したり、コンテンツプロバイダーがデータを作りやすいようにMIDIベースのフォーマットにしたりと、レイヤー間での密接に連携することが不可欠なのだという。

「海外のサービス、例えばGPRSでは携帯でインターネット接続しているのか、携帯を通じてパソコンが接続しているのかネットワーク側で判別する仕組みがなかったりした。これでは着メロを提供したくてもパソコンにコピーされるので提供できない」として、レイヤーが分かれすぎていてサービスの一貫性がないという。結果として「欧米では(レイヤー間が連携した)バリューチェーンという考え方が不足しているために、技術はあってもいつまで経ってもiモードのようなサービスが出てこない」と結論づけた。

さらにドイツや台湾でサービスを開始した海外版iモードについても触れた。数字は明らかにしなかったが、夏野氏によれば「評判はいい。ドイツでは人口も日本より少ないし、iモード端末も1機種しかない割には頑張っている。カラー端末を出していても、iモードのようなコンテンツが提供できるところはほかにないので、競争力はあると考えている。6月20日から開始した台湾は、最初からコンテンツがそろっていることもあり日本よりいい立ち上がりを見せている」としている。

インターネットではバリューチェーン構築競争が起きているという
インターネットではバリューチェーン構築競争が起きているという

夏野氏は最後に、AOLやマイクロソフト、サン・マイクロシステムズなどは、端末からネットワーク、インターネットゲートウェイ、コンテンツプラットフォームエリア、コンテンツにまたがる「バリューチェーンの構築競争を行なっている」とし、「バリューチェーンを構築できないものはあまり大きな陣地を作れない。付加価値を付けづらく厳しい競争条件になってしまう」と述べた。さらにこの競争はインターネットのバーチャル世界だけのものではなく現実のバリューチェーンもあるという。NTTドコモとしてはバーチャルだけでなく「リアルビジネスをやっている業者にも最適なプラットフォームを構築すること。これが今後のiモードの基本戦略だ」と締めくくった。

夏野氏はインターネットだけの特殊なバリューチェーン構築競争をやっているのではなく、リアルビジネスも含んだ形での競争なのだと述べた
夏野氏はインターネットだけの特殊なバリューチェーン構築競争をやっているのではなく、リアルビジネスも含んだ形での競争なのだと述べた

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