福岡県博多市の福岡ドームで開催されていた“ロボカップ2002福岡・釜山”が23日、閉幕した。今回“ロボカップサッカー”では“サッカーリーグ”と“レスキューリーグ”、“ジュニアリーグ”の3つが実施されたが、その下にさらに複数の競技があり、その数は10を超える。ここでは主な競技に絞ってその結果をレポートする。
ロボカップサッカー“ヒューマノイドリーグ”
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ヒューマノイドリーグのPK戦の様子。ロボットのサイズごとに対戦がある |
今回から新設された2足歩行ロボットによるヒューマノイドリーグはメディア的にも観客的にも最も注目を浴びた競技だったが、実際はサッカーにはほど遠かった。もちろん主催者側も参加者側もその事実(現状の技術)を理解しており、実際の競技はウォーキングやペナルティーキック、自由演技などの各部門で争われた。電源を内蔵し、ロボット自身が判断して行動する完全自律型での参加が基本だが、今回は第1回ということもあってリモコン操縦型や電源を外部から供給するタイプでの参加も認められており、その場合は得点にハンディが付くことになる。
| 最優秀ヒューマノイドに輝いた岐阜の『NAGARA』。官民協力のもと開発されたもの。今後は生活空間内でのコミュニケーション能力の向上が図られるという |
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各競技でまんべんなく優秀な成績を収めたのは岐阜県工業会の『NAGARA』。県が直々にイニシアチブを取り、県技術センターと県下の企業の集合体が2年の歳月をかけて開発したヒューマノイドだ。身長80cm、全身で28自由度を持つNAGARAは、完全自律で電源も内蔵、カメラでの色や物体識別も可能で、ウォーキング、PKともにほぼノントラブルで動作した完成度の高い機体。今後は研究用プラットフォームとしての販売も予定されているという。
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ヒューマノイドリーグの最優秀ロボットには“ルイヴィトンカップ”が授与された。W杯同様、今後持ち回りで保持される |
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ニュージーランド・オークランド大学の『Tao-Pie-Pie』。シンプルで小型ながら確実な動作をこなすヒューマノイド |
| 大阪大学の『SENCHANS』は富士通(株)製プラットフォームに改良を施したもの。キーパー時に横方向への動きを加えている |
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ロボカップサッカー“小型機リーグ”
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小型機リーグの決勝戦。ライバル同士の対決は今回もコーネル大学が勝利した |
直径15cmのロボット5台で戦う小型機リーグは、頭上のグローバルカメラがとらえた映像をサーバーで解析、敵味方のロボットとボール、ゴール、フィールドを識別して自軍ロボットに指示を与える競技だ。トップレベルのチームは、ロボットの移動速度は秒速数メートルにもおよび、文字どおり目にもとまらぬ速さでフォーメーションを繰り出す(人間のリモコン操作ではもはや対抗できないレベル)。ワンツーパスやサイド攻撃などのチーム連携も実現されており、非常に見ごたえのある競技となっている。
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小型機リーグで優勝したコーネル大学のロボット。3つの車輪で全方位移動、正面下のローラーでボールをキープする。斜めのショックアブソーバがトラップ機構だ |
中でも米国コーネル大学はここ数年トップに君臨しており、世界中から目標にされているチームだ。高速移動を可能にする全方位移動機構に加え、ロボット前面のローターを回転させてボールを保持するドリブル機構やトラップ機構も装備しているのが特徴。予選では10-0という試合を何度も続けるなど、今大会で最有力と目されていた。これに対抗するのが独のベルリン自由大学。ドリブル機構はないものの、敏捷な動きと的確なチームプレイでここ数年コーネル大と準決勝や決勝戦で対戦を続けてきたライバルだ。そして今回もこの両雄が決勝で対戦、コーネル大が快勝し、連覇を果たした。両者の闘いは現レギュレーションでは究極と言ってもいいレベルにまで技術が高まっており、実行委員会側は今後新たなチャレンジを考えているほどだ。
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コーネル大学はエキジビションで11対11のチーム対戦を企画していたが準備が間に合わず中止に。技術的には十分実現できるという |
日本勢は愛知県立大学が新たな機体を持ち込んで活躍が期待されていたが、残念ながら早くに敗退した。
ロボカップサッカー“中型機リーグ”
中型リーグは50cm大のロボットが戦う迫力ある競技。今回からフィールドを囲む壁が取り払われる新しいチャレンジが採用されている。この競技は伝統的に日本勢が好成績を挙げているが、今回はさらにホームでの開催ということもあり、参加チーム中半分が日本勢という条件も手伝って、上位3チームがすべて日本勢となった。決勝戦は慶應大学と金沢工科大学というロボカップでは新興勢力となる両校の対戦。慶應大学は予選を全勝で突破、金沢工大は強豪の大阪大学をPK戦の末に破っての決勝となった。慶應大学はロボカップ参加3年目ながら昨年すでに世界大会で3位を獲得するなど急速に力を付けたチーム。メカ的にはシンプルながら認識&制御ソフトウェアに独自の工夫を施し、協調動作を高めている。金沢工大は今年から全方位移動可能な足回りに変更、ボールをキープする際に回り込む必要がないメリットを活かしたスピーディな展開が特徴だ。
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中型機リーグの決勝は反則やトラブルが非常に少ないレベルの高い対戦に。唯一金沢工大のキーパーの不調が明暗を分けた |
そんな双方の持ち味を活かした好ゲームとなった決勝戦は、前半をリードした金沢工大が、サイドが変わった後半にキーパーが不調に陥り、慶應に逆転を許してしまい、惜敗した。サイドが変わったことで認識すべき色(ゴールが色分けされている)が変わり、制御ミスが発生したらしい。
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フィリップスは大量の人的物的リソースを投入、ドイツ大会では優勝したものの、今回は辛くも予選リーグを突破しただけに終わった |
このリーグにはオランダからフィリップス社が、日本から村田機械(株)と、メーカーがチームを結成して参加したが、そこはロボカップ、初年度から好成績を収めることはできなかった。
ロボカップレスキュー“ロボットリーグ”
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災害現場を模したステージにレスキューロボットが入り込みダミーを捜索中。右側にダミーが見える |
日本では初開催となるこの競技は、実際の災害現場を模したフィールドに被災者役となる人形(声を出し心臓音がするダミー)を配置、探査ロボットを投入し遠隔操作することでダミーを数多く探すものだ。フィールドとオペレーションルームは隔離されており、オペレーターはロボットからのセンサー情報だけをもとにロボットを操作し、ダミー発見をレフェリーに伝える。ややゲーム的要素もある競技だが、昨年のシアトル大会に参加したロボットがニューヨークの倒壊現場に実際に参加した実績もある。
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レスキューロボットを操作中。モニタ画面を通してのみ状況を把握できる。レギュレーション上は各種センサーの搭載も可能だ |
今回参加したロボットは8台。そのほとんどがカメラを搭載したキャタピラー駆動のロボットだった。映像を無線で飛ばす以外はラジコン戦車程度のシンプルなメカとも言えるが、実際に限られた視野内で操縦しダミーを探すのは非常に難しい様子だった。そんな中、優勝したのはイランのジャワンロボティクスクラブ。イランはこの分野に非常に力を入れており、折しも決勝戦当日の早朝には同国で強い地震があったばかりだった。
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シミュレーションリーグではプレゼンテーション部門として3Dでの表示を競う競技も行なわれた。このリーグでは中国勢が急速に頭角を表してきている |
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AIBOリーグは米国のカーネギーメロン大学が優勝した |
| “ロボカップジュニアリーグ”では、各国から小中高生が参加。市販キットやLEGO MINDSTORMで製作したロボットでサッカーやダンス競技を競った |
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このほかの結果については公式ホームページを参照願いたい。
今回は、全体の傾向として新興勢力の台頭が目立った。特に小型機リーグではシンガポール勢が、シミュレーションリーグでは中国勢がめきめきと力を付けており、両リーグの日本勢は後塵を拝しつつある。それだけ参加規模が広がってきた証拠でもあるわけだが。
来年の世界大会はイタリアで開催される。