EC研究会は21日、東京都千代田区の三菱総合研究所で、講演会“第27回 デジタルコンテンツ産業研究会フォーラム(デジ研フォーラム)”を開催した。デジ研とは、電子商取引の健全な発展を目的に発足したNPO“EC研究会”の分科会の1つで。発足は1999年11月。月に1回、デジタルコンテンツ産業の事例を紹介する講演会“デジ研フォーラム”を開催している(2月、8月を除く)。
(株)サイバーブレイン取締役の沈炎氏 |
会の冒頭では、(株)サイバーブレイン取締役の沈炎氏が、“中国の市場調査 ネットで代行”と題して、中国の広告市場とインターネット市場、および中国インターネット広告市場の現況を紹介するとともに、同社が行なっているインターネット・データベース・マーケティング(i-DBM)について紹介した。
中国のインターネット広告市場 |
同氏は「中国の広告市場は、2001年に112億ドル(約1兆2544億円)で前年比16%増となり、日本を除く太平洋諸国の中でトップになった。また、アメリカ、日本、ドイツに次ぐ、世界第4位の広告市場となり、注目される市場としてこれから進出していくものと思う。主な広告媒体は、TVコマーシャル、新聞やラジオ、屋外広告およびインターネットとなっている。インターネットの広告市場は急増しており、2001年は9000万ドル(約109億8000億円)にまで拡大した。中国全体の広告市場からして見れば1%にも満たないが、2003年には5億4000万ドル(約658億8000万円)となり、日本のインターネット広告市場と並ぶのではないかと予想されている」
「またインターネットの普及に伴って、ローコストかつハイスピードなマーケティングリサーチが行なえるようになった。弊社は中国国内で、インターネットとデータベースを融合した“インターネット・データベース・マーケティング(i-DBM)”という独自の手法を用い、ターゲットを絞り込んだ効果的なリサーチを迅速に行なえるサービス“121(ワントゥーワン)サーベイ”を、日本企業向けに提供している」
インターネットによるマーケットリサーチのビジネスモデル |
「i-DBMは、“4A行動”と名付けられた“Attention”“Approach”“Action”“Analysis”という4つの段階で構成されている。Attention(注目・検索)では、クライアント企業の要望により、データベースからマーケットのリサーチ対象を絞り込み、Approach(告知・宣伝)で、必要なアンケートや広告を作成して、ターゲットに対してメールを送信する。そしてAction(行動・反応)では、リサーチ対象となったユーザーが、受け取ったメール広告やアンケートを閲覧し、これに回答する。回答とユーザー情報は、リアルタイムにデータベースに格納される。最後にAnalysis(分析・調査)で、クライアントがデータベースに集まった回答をもとに、集計や分析結果のレポートの閲覧やダウンロードを行なう。調査開始から回収までの期間は、日本語への翻訳なども含めて5日から7日。1週間以内でマーケットリサーチが可能なのは我々のほかにない。またクライアントは、すべてインターネットで完結したリサーチを行なえる」
マーケットリサーチの作業フローと特徴 |
「アンケートに回答するのは、中国の会員制データベース“China.Chance2mail”の会員で、現在約36万人が登録している。アンケートに回答するとポイントが貰え、ポイントに応じてデジタルカメラや化粧品などの景品と交換できる。不正を行なえないようにするため、中国で18歳になると発行される身分証明書のIDを登録することを義務づけている。景品交換の際などは、身分証明書のコピーが必要で、これをIDナンバーと照合して異なっていた場合は除名する。こうして、信用できる会員だけを残すような体制をとっている」
中国のインターネット人口 |
「中国ではインターネットの普及は遅れているが、利用人口は2001年末に約3370万人に達した。利用者は都市部に集中していて、20代の若者が中心。男女比率は8:2ぐらい。パソコンを保有していなくても、インターネットカフェなどを利用してアンケートに参加しているユーザーも多い。しかしこのようにユーザー層が偏っているために、i-DBMによるインターネットリサーチは、例えば中高年の女性などを対象としたアンケートには不向きなものになってしまっている」
「インターネットだけでなく、携帯電話のユーザーも急速に伸び、現在では約1億4000万人を声世界で第1位となっている。日本のiモードのように多機能ではないが、短いメッセージの送受信などが流行っており、これを利用したリサーチビジネスも生まれている。今後第3世代携帯電話が登場することもあり、政府主導のもとに中国のIT市場はますます発展していくだろう」と述べた。
“ニッチ狙いで成功”――紫式部、川野真氏
紫式部代表取締役の川野真氏 |
次に、古書のネット通販などを行なっている(有)紫式部代表取締役の川野真氏が、“ニッチ狙いで成功”と題した講演を行なった。同氏は「2年ほど前まで、(株)リコーで普通にサラリーマンをやっていた。新米の経営者として苦しんだことなどを話したい」として、同氏が始めた古書販売モールや、ニッチな市場をターゲットにしたビジネス、ランニングビジネスとバリューチェーンの重要性、およびサラリーマンの起業などについて語った。
古書・古書店データベースサイト“紫式部” |
同氏は「全国の古書店とその目録をデータベース化して公開している。ユーザーは検索エンジンで目的の古書の検索を行なって購入できる。加盟店は現在約160店舗。点数は約200万点。また、古書店がインターネットを通じてユーザーと取引を行なうためのASP“千手観音”も提供している」
「新刊を扱う書店は、全国で約2万5000店舗ぐらいあるが、流通構造ががちがちに固まっているので、粗利が2割ぐらいしかなく、地方に新刊などが行き渡らない。ここ7~8年で、地方の書店が次々に店を閉めている。一方、古書店は全国に7000店舗ほどある。市場は800億円ほどで、大企業が参入しづらい特殊で小さな市場を形成している。この業界に対する漠然とした不信感と怒りが、起業のきっかけになった」
「入ったボランティア団体で古書店の人間から相談を受け、データベースを作ったのが最初。古書業界は古い業界で、情報を公開しないため非常に苦労させられた。たとえば神田や神保町の専門書店は、地方で古書を安く仕入れてきて、博物館や公共図書館を相手に商売をしている。地方の古書店も、買い手が付かない古書は、神保町などに卸すしかない。私は、この地方の書店を取り込んだ。老舗や専門書店は入れる必要がないと思っていたが、2000年から老舗からの申し込みが増えた」
インターネット古書市場の売り上げの推移 |
「開始当初は、毎月の売り上げが約5000円だった。当時の目録の点数が3000点しかなかったし、ユーザーも少なかった。それが1998年の後半から反応が大きくなった。売り上げとしてはまだ数千万円のレベルだけれども、2001年まで4期連続で黒字を計上し、単年度黒字化は果たした。累積で見れば赤字なのだが、それも今年度には黒字に浮上する」
「高収益のきっかけとして、ランニングビジネスの重要性を挙げたい。リコーやキヤノン(株)の高収益の源泉はプリンターなどの消耗品。何もしなくてもメーカーに金が入る構造になっている。紫式部も、古書を売って利益を出しているわけではなく、ASPなどインターネットの技術を売っている。ただ、損益分岐点に達するまでには悪戦苦闘があった。確実に利益を生むためには、ニッチだが確実な顧客をつかめば良い。たとえばインターネット利用者が全世界に約6億人いるとして、そのうちの3000人に月3000円ずつお金を使わせれば、年間1億円の収益となる。インターネットによって、たとえサラリーマンであったとしてもこういうビジネスがやれる時代になってきた」
「もし起業するのであれば、大企業がやらない、やれないようなニッチな市場を狙うこと。そして、まず実行すること。その過程でいろいろなものが見えてくる。商工会議所では、週に1回資金調達や税務、会計やチラシの作り方といった、販路開拓のためのセミナーや交流会を毎週開催しているので、加盟しておくと良い。ここの情報インフラは相当なもので、法人だけでなく個人でも加盟できる。また、安易に借金しないことも重要。もし必要なら、国民金融公庫から無担保で1000万円まで借りられる。ある程度の実績は必要だが、商工会議所の中で審査して通してくれる。利率は1.8%で、半年間は返済しなくて良い。信用があれば少人数私簿債でも金を集められる。オフィスが必要なら、レンタルオフィスやバーチャルオフィスを活用すると良い」
「起業は、後戻りができないので突っ走るしかない。私自身も同様。もし独立する方がいるのであれば、連携していきたい」と語った。
“100円ソフトって儲かるの?”――フィクス、若生英雅氏
(株)フィクス代表取締役の若生英雅氏 |
最後に(株)フィクス代表取締役の若生英雅氏が、“100円ソフトって儲かるの?”と題して講演を行なった。同氏は「100円ソフトは、名前の通り価格が100円のパッケージソフトだが、実際のところ我々の本業ではない。フィクスでは主に、パソコンのオンサイトサポートや、関連製品のテクニカルサポート、ウェブコンテンツや博物館のコンテンツの製作・運営管理などを行なっている。100円ソフトは、作る側よりも使う側の論理で、良いのではないかと考えて始めた」
100円ソフトの役割分担と構成図 |
「コンセプトは、100円でどれだけ楽しめるか。そしていつでも手軽に買えるということ。世の中の8割の人たちは、用事がなければ電気屋には行かない。パソコンのソフトも買わない人がほとんど。その、電気屋に行かない人たちを主なターゲットにして、飽きられない、役に立つソフトを出していきたい。まず最初に、ゲームを4タイトル発売した」
「開発元は、オンラインウェアを作っているエンジニアやプログラマーなど。お金は儲からなくてもいいから、何か作りたいという人は沢山いる。しかし、電気屋に行かない、パソコン雑誌も読まない大半のインターネットユーザーは、“Vector”や“窓の杜”といったオンラインウェアのポータルサイトの存在を知らない。ダウンロードしたとしても使う人は少ない。しかし100円だと、とりあえず買ってから考えるだろうと見込んでいる。作者にはロイヤリティーを支払うし、何より本人たちにとっては、ソフトが物理的なパッケージになって店に並ぶのが何よりの喜び。本人さえ良ければ、作者の名前も出す」
レースゲーム『AceSpeeder Remix!』 |
「100円ソフトは単品で売って、我々にも小売店にも儲けが出るようになっている。年間500万枚から1000万枚の売り上げを見込んでいるので、薄利でも十分儲かる。今後のソフトの展開としては、ビジネス向け、家庭向け、素材集、ツール、ゲーム、ブックマークなどを考えている。毎月3タイトルから4タイトルを出したい。また、ある程度市場が確立できたら、インストーラーや広告などを入れることも視野に入れている」
「5月に4タイトルを発売して、電気屋に行かない層がターゲットなのだが、現状では電気屋にばかり置かれている。1日に15枚から20枚を売り上げている。コンビニや100円ショップとの交渉も進んでいる」と述べた。また同氏は、100円ソフトのコピー対策について「100円のソフトをCD-Rメディアにコピーする手間があったら、100円を出して買うだろう。とよく冗談で言っている」と語った。
会の終了後、デジ研代表幹事の土屋憲太郎氏に、同フォーラムで取り上げる事例の選択基準について尋ねたところ「BtoBとBtoCを別々のものにせず、消費者の生活を豊かにしていくような興味深い事例を紹介している」という答えが返ってきた。第28回デジ研フォーラムは、7月19日に三菱総合研究所で開催される。