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中国渾身のOS『紅旗Linux』を斬る!

2002年06月17日 04時53分更新

文● 山谷剛史(フリーライター)

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本記事でインストールした製品は『紅旗Linux Desktop 2.4』であり、現在の最新パッケージ『紅旗Linux Desktop 3.0』ではありませんので、ご注意ください。
インストール終了
Windows風の画像

中国が気合いを入れて作ったOSがあり、それはLinuxらしい……。そのような噂を聞き、中国へ行った際に謎のLinuxを探してみた。その名も『紅旗Linux』。英語名は『Redflag Linux』。Linuxのマスコットのペンギンが文字通り赤い旗を振っているあたり、いかにも中国的だ。

筆者はこれを、上海は除家匯の巨大な電脳ビルの中にあるソフトショップで見つけた。除家匯は地下鉄でアクセス可能(除家匯駅というのがある)な行きやすい場所で、電脳ビルとは地下道で繋がっているほどの気合の入りっぷり。「太平洋電脳広場」と「美羅城」という2つの巨大な電脳ビルがあり、中国で必要とされているPC関連製品をだいたい揃えることができる。この電脳ビル内の店は、ほとんどが自作パーツを扱っている店やメーカー製本体の代理店ばかりで、実はソフトショップを見つけるのは一苦労した。価格はデスクトップ版で68元。日本円でいえば大体1000円。セットアップCDとソースCDに3カ月のサポートと初心者にやさしいマニュアルがついてこの値段。中国人は月収が12万円以上だとお金持ちという基準があるらしいが、Linuxのパッケージで1000円なら日本であれば格安だし、中国人にとっても、手を出しにくくはないだろう。メーカーの紅旗ソフトウェアによると、サーバ版パッケージなど、より高価な製品もあるそうだが、店頭では見つけることができなかった。余談だが秋葉原はPC製品が世界一安い街のひとつだが、言い換えれば除家匯は秋葉原よりもそれが高いわけである。かつ、前述の通り中国人の所得は日本人よりずっと低く、一般的に物価も安い。たとえば私の上海での食事は毎食150円、2つ星のホテルが一泊1000円弱だ。そんなわけで、彼らにとってパソコンは高価な品である。それでも現在、除家匯の2つの電脳ビルは盛況でかなりの人込みだった。家族連れからカップル、友人同士で自作パソコンの値定め、品定めをしている姿がどこでも見受けられた。ショップブランドPCのOSのおよそ半分(低価格PCについては大半)がLinuxであるところをみると、Linuxは大健闘している。

中国のPCを扱うWeb通販ショップのソフトウェアのコーナーでは『紅旗Linux』のほか、さまざまなディストリビューションを扱っていて、価格はどれも似たり寄ったり。しかし店頭や通販のページを見る限りは国産でなく、舶来の『Red Hat Linux』中国版が一番シェアが高いようだ。通販ページの購入者の感想書きこみ欄には「高い、安くしてくれ」との書き込みや、Windowsとの互換性を問う書きこみがあり非常に辛口。中国のソフト産業で、儲けるのは難しい、か?

さて、持ちかえって早速箱を開封。まず気になったのがマニュアルが初心者向けとして徹底されていること。インストールの方法やUNIX基本コマンド、KDEの操作方法やKDEでのフリーソフトのゲーム、KOfficeやNetscapeの操作方法が書いてある。ところどころに「……はWindowsでいうところの……である」と記述してあるあたり、Windowsを非常に意識したマニュアルのようだ。構成ファイルの中にはPNGファイルでWindowsのロゴを模したようなファイルもある。

Windows風の画像
『紅旗Linux Sever V2.0』と書かれたWindows風のPNG画像が含まれている

まずはマシンにインストール。使用したPCはi810チップセットの極めて平凡で無難な仕様のもの。インストーラを起動すると、まず「簡体字」「繁体字」「英語」を選び、次に「典型的」「最大」「最小」セットアップを選び、最後にディスクパーティションやLILOの設定をすると、CD-ROMからファイルのコピーが始まり数十分から数時間待たされる。今回の検証では「簡体字」の「典型」セットアップを選択した。インストールが終了するとペンギンが「完成」とかかれた城壁の上で赤旗を振って祝ってくれる。さすが中国製!

言語選択画面。
言語選択画面。簡体/繁体中文、英語から選択する。
新規インストールかアップグレードインストールかを選択する画面
新規インストールかアップグレードインストールかを選択する。
インストールするパッケージの選択画面
インストールするパッケージの選択画面。「典型的」、「最小」、「最大」、「カスタム」から選択する。
インストール進行状況の表示
パッケージのインストール中。

X Windowを起動すると、中国語化済みのKDEの画面が現れる。壁紙もしっかり中国仕様だ。特にオリジナルソフトがあるわけではなかったが、ゲームやVideoCDプレイヤー、MP3プレイヤー、オフィスソフト(KOffice)、Webブラウザ(Netscape)、英漢辞典など、初心者が扱う場合でもとりあえずは一通りのことができるアプリケーションが用意されている。ちなみにGNOMEはあまり中国語化されていない。オリジナル壁紙やアイコンもないためオリジナリティも見えず、マニュアルにも少ししか記述されていないため、手抜きにみえた。これでは英語がわからない中国人にはたまったものじゃない。それとも中国ではKDEが基本なのだろうか。

GNOMEのデスクトップ
『紅旗Linux』のGNOMEデスクトップ環境。アイコン、メニューなどもあまり中国語化がなされていない。

箱の背面にこのソフトの売りが書いてある。「インターネット、イントラネットのサポート」「最新カーネル 2.4.2の採用」は当たり前。「1台のPCでWindowsの多くのバージョンとの共存をサポート」、これはよくよく調べると、Windowsパーティションのディスクアクセス可ということを言っているが、パッケージからではLILOのことなのかWindowsエミュレータのことなのか、あるいはSambaのことなのか誤解を生じやすい表現だ。実際誤解したユーザがWindowsとの互換性について苦情を投げかけている。

結局のところ、『紅旗Linux』は『Red Hat Linux』の流れを汲んでいるのか模倣したのか、あるいは意識しているのか、『Red Hat Linux』と比べると壁紙とアイコン以外に目新しさというのがまったく見えなかった。また、サブノートPCへのインストールを試みたが、PCMCIAをサポートするインストーラがみつからず、CD-ROMを内蔵していないノートPCには鬼門である。もっとも除家匯の電脳ビル内でノートPCなんて数えるほどしか売っていなかったので、当人たちには問題ではないのだろうが。しかし個人的には中華ペンギンの絵で一本取られたのでよし、としている。

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