サン・マイクロシステムズ(株)は12日、都内で記者発表会を開催し、SPARCプロセッサー搭載システム向け新OS『Solaris 9』の出荷を開始したと発表した。『Sun ONE Application Server』、『iPlanet Directry Server』などのミドルウェア製品を統合するなど300以上の新機能を搭載し、パフォーマンスも大きく向上したとしている。
『Solaris 9』システム管理者向けメディア日本版パッケージ |
発表会では、米サン・マイクロシステムズ社Solaris Software Marketing担当副社長のアンディ・イングラム(Andy Ingram)氏が、Solaris 9の強化ポイントを“サービスプラットフォーム”“管理しやすさ”“セキュリティー”“可用性”“性能”の5つに分類して説明した。
サービスプラットフォーム──J2EEアプリケーションサーバーを統合
イングラム氏は「Solaris 9は(単なるOSではなくサービスプラットフォーム」だとして、Solarisとして初めてJ2EEアプリケーションサーバーをバンドルしたこと、ディレクトリサーバーの統合、データ管理機能の強化などを紹介した。
米サン・マイクロシステムズ社Solaris Software Marketing担当副社長のアンディ・イングラム(Andy Ingram)氏 |
サンは3月に米AOLタイム ワーナー社とのバーチャルカンパニー“iPlanet E-コマース・ソリューションズ”が行なっていた電子商取引ソフトウェア製品“iPlanet”の事業を引き継いでいる。Solaris 9にはiPlanet製品『iPlanet Portal Server』『iPlanet Integration Server』『iPlanet Messaging Server』『iPlanet Directry Server』などを同梱する。さらにJ2EE 1.3準拠のアプリケーションサーバー『Sun ONE Application Server 7, Platform Edition』(旧製品名:iPlanet Application Server)を第4四半期以降に統合するとしており、エンタープライズクラスのウェブアプリケーションの開発、提供が可能になる。ウェブサーバーは最適化した『Apache』を統合している。
管理しやすさ──新しいソフト配布ツールなど
Solaris 9には、コンピューターのリソースをアプリケーションに最適に配分する『Solaris 9 Resource Manager』をカーネルに統合した。Resource Managerは、CPUやメモリーなどリソースを抽象化する“Solaris Container”と呼ぶ技術を使ったものだという。大容量/多数のストレージを管理するツール『Solaris Volume Manager』も統合した。
また既存のブート環境を複製し、オリジナルの環境を実行中に、複製した環境に対してシステムのアップグレードが行なえる『Live Upgrade 2.0』を搭載した。再起動時にアップグレードした環境に切り替えられるので、システム停止時間を最小にできるという。ソフトウェア配布機能として『Solaris Flash』も搭載した。Solaris Flashでは、動作検証済みのシステムのスナップショットを作成し、そのスナップショットをほかのシステムにコピーすることで通常のインストール作業を不要にできる。Solaris Flashと第4四半期までにSolaris 9に統合する予定の『Sun Management Center Change Manager』を組み合わせると、ネットワーク上の複数のシステムに対して、スナップショットを一度に自動配信可能になるとしている。
Solaris 9のデスクトップ |
セキュリティー──エンタープライズクラスのファイアーウォール
イングラム氏は「もはやファイアーウォールは(インターネットとの)エッジに1つあれば十分という時代ではない」という。
Solaris 9ではセキュリティー機能として、『Solaris Secure Shell』『Kerberos V5サーバ』『IPSec & IKE』『SunScreen 3.2ファイアウォール』などを統合した。SunScreenファイアウォールは、システムレベルのアクセス制御やステルスモードでの境界セキュリティー機能など、エンタープライズクラスの機能を備えているとしている。このほか、“バッファーオーバーフロー攻撃”を制限する機能も備えているという。
可用性──適正な構成をチェックするサービスを提供
Solaris 9は『RAS Profile』という構成チェック機能を搭載している。RAS Profileは、ユーザーのシステム構成を、オンラインで『RAS Knowledge Database』と照合し、可用性を高めるための改善方法を提示するというもの。イングラム氏は米国のある自動車メーカーの例を照会した。そのメーカーでは、60台以上のサーバーを使った大規模システムの可用性において問題が起きていたが、RAS Profileによるチェックをかけたところ4000以上の問題点が見つかり、それを改善したところ、その後は問題が発生しなくなったという。
このほか重要なパッチの通知と配信、自動インストール、パッチ管理機能を提供する『Solaris Patch Manager』を搭載、最新のクラスター環境である『Sun Cluster 3.0』もサポートするという。
性能──SPARC IIIの性能を最大限引き出す
Solarisは前バージョン『Solaris 8』から、『UltraSPARC III』プロセッサーへの対応を進めているが、Solaris 9ではさらにUltraSPARC IIIへの最適化を進めたほか、ファイルシステムやスレッドのライブラリーなど基本アーキテクチャーを強化し、既存アプリケーションをリコンパイルすることなくそのままで、より高い性能を引き出せるという。Solaris 8と比較して、例えばアプリケーションサーバー性能で34%、NFSの性能が55%、Java VM性能が200%などと、大幅な性能向上を達成したとしている。
Solaris 8からSolaris 9にかけての性能向上の例 |
大幅な機能追加、性能向上、しかし互換性は維持
イングラム氏は最後にアプリケーションの互換性についても触れ、「これだけの新機能追加やパフォーマンスアップを図ってきたが、これまでどおりバージョン間のアプリケーション互換性は維持している。これはサンだけが保証している」と強調した。
Solarisではバージョン間でアプリケーション互換性を保証しているが、あるアプリケーションがSolaris新バージョンで問題が生じないかどうかを調べるツール『SolCAT(Solaris Compatibility Assurance Toolkit)』も用意している。さらにSolaris 9ではLinux対応のAPIやコマンド、ツールなどもサポートする。
Solaris 9の他社のOSとの比較 |
なお、Solaris 9ではデスクトップインターフェースとして『GNOME 2.0』を搭載する予定だったが、GNOME 2.0の完成が遅れているために今回のリリースには含まれていない。ただし、第4四半期以降のリリースではGNOME 2.0をサポートするとしている。
Solaris 9は従来同様にソフトウェアとライセンスは個別に提供する。ソフトウェアはCD-ROM/DVD-ROMを含んだ有償メディアキットか、あるいはサンのウェブサーバーからの無償ダウンロードで入手できる。ライセンスはサンの販売代理店を通じて販売し、インストールするハードウェアの最大CPU数に応じた価格となる。ただし、CPUが1つのハードウェアについてはライセンス料は無料。今後出荷するハードウェアについては、最大搭載CPU分のSolaris 9ライセンスが含まれるとしている。
有償のメディアキットには2種類があり、システムソフトウェアすべてと、印刷したマニュアルおよび『Oracle 9i(試用版)』『StarOffice 6.0』『StarSuite 6.0』『Sun ONE Developer Studio for Java Community Edition』などのボーナスソフトウェアがセットになった『Solaris 9 システム管理者向けメディア日本版』(3万円)と、ボーナスソフトウェアなしで、印刷したマニュアルのうちリリースノートやライセンス情報などのみが付属する『Solaris 9 マルチリンガルスリムキット』(7500円)となっている。
なお、サンではSolaris 8までSPARC版と同時にIntel版をリリースしていたが、Solaris 9については用意していない。この点についてイングラム氏は「(社内では)すでにIntelアーキテクチャーのコンピューター上で動作しているし、Intel版を提供したい気持ちもあるが、サポートするための人的リソースが不足している」ことを理由に挙げた。いったんはIntel版をリリースしないとアナウンスしたサンだが「ユーザーからは強いリクエストもあるので、Intel版リリースを再検討している。しかし結論はまだ出ていない」(イングラム氏)としており、Intel版の可能性は残されているようだ。
サン・マイクロシステムズ取締役で製品事業本部本部長の細井洋一氏 |
サン・マイクロシステムズ取締役で製品事業本部本部長の細井洋一氏は「車に例えればエンジンがハードウェアでシャーシがソフトウェア(Solaris)。チップのクロックだけ上げてもソフトも上げなければ付いていけない。サンはベースのシャーシとエンジンのバランスが取れており、相乗効果を発揮することが特徴だ。CPUとOSを両方手がけるメーカーはどんどん少なくなっているが、サンはバランスの良いシステムのためにこの2つは絶対にあきらめない」という。なお、米ヒューレット・パッカード社と米コンパックコンピュータ社の合併の影響で、Alphaプロセッサー技術者がサンに流れてきていることも明らかにし「SPARCはこれからもっともっと速くなると感じている」と述べた。