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スタンフォード大とユニシス、電子政府のありかたについて提言するフォーラムを開催

2002年05月28日 13時16分更新

文● 編集部 佐々木千之

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スタンフォード大学と日本ユニシス(株)は27日、電子自治体のあり方を考える“第2回e-Japanフォーラム”を開催した。基調講演ではIT先進国であるフィンランドの元国務大臣が同国のIT政策について紹介したほか、IT行政で先行する三重県の北川知事らがパネルディスカッションを行なった。

電子政府を進めるためには行政の構造改革が必要

フォーラムではまず、“フィンランドと欧州のIT政策”(※1)と題して、フィンランド議会議員で1995には国務大臣(内相・財務相)を務めたヨウニ・バックマン(Jouni Backman)氏と、フィンランド財務省公共管理局CIO(最高情報責任者)のオラヴィ・コンガス(Olavi Köngäs)氏が講演した。

※1 フィンランドの国土面積は日本の9割、人口は520万人。5つの州と1つの自治州、452の自治体(市町村など)がある。携帯電話普及率は72.5%。インターネットに接続したコンピューターの保有数は1000人に対して148台で世界1位(2000年8月)。電子政府の推進でも世界でトップクラスという。また、“世界経済フォーラム”の調査による2001年の国・地域別の競争力、潜在成長力ともに1位となっている(日本は地域別競争力15位、潜在成長力21位)。

ウニ・バックマン議員
ウニ・バックマン議員

バックマン氏は「従来の産業社会構造では、情報の流れは官僚機構とヒエラルキーによる1方向、でしかなかったが、情報社会構造においてはまったくことなったものになり、例えば政策を決めるにあたって、その準備段階から情報をオープンにして市民に評価してもらうことになる。これがインターネットの政治への利用方法だ」とし「フィンランドはITを利用して市民に機会を提供するということに専念してきた」という。

バックマン氏は「電子政府を進める上で重要なのは技術ではない。技術はあくまでも手段であって、電子政府に必要なのは“政府が市民に提供する”という政府中心の考え方から、“市民が必要としているものを提供する”という顧客中心の考え方への意識改革が重要だ」としている。また、電子政府はサービスを提供するだけのものではなく、バックオフィスを再編し、サービスの簡素化といった政府のリエンジニアリングも含めたものだと述べた。

顧客中心の考え方へ改めることが必要という
電子政府のための改革には顧客中心の考え方へ改めることが必要という

フィンランドでは現在、新世紀の行政サービスということで2002~2003年の2年間のプログラムを実施中であるという。そのビジョンはセキュアーでユーザーフレンドリーなネットワークサービスの提供であり、これによって行政は“顧客とのトラブルと対顧客費用を削減できる”“意志決定プロセスへ市民参加が可能になる”“企業の競争力をサポートできる”というもの。このプログラムの実施にあたっては“IT技術からプロセスの改革への重点の移行”“インターネットを通じた市民の行政への関わりを密接にすること”“2005年までに全国民を妥当な値段でブロードバンド接続可能にする”といった提案がなされているという。

電子政府のサービス成熟度レベル
電子政府のサービス成熟度レベル

続いてコンガス氏がフィンランド政府の電子政府サービスについて紹介した。中央政府の全部局がネットワークに接続し、職員へのPC普及率は100%、外部との電子メールおよびインターネット接続は90%が利用しているが、こうした行政機関のICT機能(※2)では、外部のサービスプロバイダーを利用する場合が多く、政府職員で情報管理業務を行なっているのは2.6%だという。

※2 ICT(Information and Communication Technology):情報通信技術。IT(Information Technology)も同義の言葉として使われるが、ヨーロッパではITよりもICTという表記でよく使われる。

フィンランド財務省公共管理局CIOのオラヴィ・コンガス氏フィンランド財務省公共管理局CIOのオラヴィ・コンガス氏

行政情報インフラでは、不動産企業自動車登録といったデータベースを全国民がシェアしており、政府、自治体、民間は基本データの更新を行なったり利用したりしているという。例えば住所などの変更では1つのデータに対して更新するだけで、関連するほかのデータも更新されるという。また、住所更新の申請自体も、1度の電話連絡またはウェブフォームを使った通知によって、すべての期間に対して住所変更が行なえるという。

このほか、出生証明書や結婚許可証を請求する代わりに、住民データベースへ直接アクセスしたり、住民に用紙への記入を要請せずに、データベースのデータをもとにした国勢調査を行なったりしているという。税金の申告に関しても、税務当局が雇用主や保険会社、銀行社会保険などのデータに基づいて徴税提案を作成し、納税者は異議がなければ何もしなくてよいというシステム(※3)になっているという。

※3 この徴税システムはスウェーデンで開発されたもので、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークの各国が利用しているという。

続いて電子政府と市民との関わりに続いて、企業との関わりについても紹介した。それによると、政府と企業(G2B)のトランザクションサービスは市民向けのサービスよりも発達しているのだという。企業は多くのトランザクションを行なっており、G2Bによって企業は、管理コスト削減し、政府に支払う手数料や税負担を軽減することができる。また企業は政府に対して電子調達、電子インボイス、電子支払いなどによって財やサービスを提供できるとしている。

国別に見た、企業GDP・総GDPに占める企業の管理コストグラフ
国別に見た、企業GDP・総GDPに占める企業の管理コストグラフ

コンガス氏は、企業のGDP・総GDPに占める企業の管理コストの割合グラフを示し、フィンランドの管理コスト割合は他国と比較して非常に低く抑えられており、これが国際競争力の向上に影響しているのだと述べた。とくに中小企業やベンチャー企業にとってメリットが大きいという。

コンガス氏は最後に、フィンランド政府がこれまでのICT施策において学んだ教訓として、“効率的で透明性のある行政は競争力を生み出す1つの要因となる”、“ICTは重要だが、行政中心ではない顧客中心の見方、規制の簡素化、時代に即した手続き、行政における管理スキル改善という差ポーが必要”などを挙げた。また技術への取り組みに関しては“政府は市場について行くべきであって、技術を促進しようとしたり、証明されていない技術に依拠するべきでない”と結論づけた。

フィンランド政府が開設している、国民向けのポータルサイト“suomi.fi”
フィンランド政府が開設している、国民向けのポータルサイト“suomi.fi”。ここから政府・公共機関のサービスウェブサイトすべてにアクセスできるという

三重県北川知事もBPRが必要と強調

基調講演の後で行なわれたパネルディスカッションに出席した三重県の北川正恭知事は、日本における電子政府・電子地方自治への取り組みとして三重県の例を挙げ、今年度内にすべての市町村にCATV網を利用したブロードバンドネットワークの整備が終了し、それを利用した行政情報ネットワークやビジネスプラットフォームの整備を進めていると説明した。

三重県知事の北川正恭氏
三重県知事の北川正恭氏

北川知事もバックマン氏と同様に、行政にITを導入するにあたっては現行の制度や仕事の仕組みをそのままにしたのでは改善効果は小さく、業務のやり方を見直すBPR(Business Process Reengineering)に取り組むことで、劇的な改善効果が得られると述べた。この点について三重県では今年度から次長・課長を廃して組織のフラット化を図り、旧来の縦割り行政から脱却した、行政システム改革を進めていると報告した。

ITを利用したよりよい業務プロセスのためのビジネス・プロセス・リエンジニアリングが必要という
ITを利用したよりよい業務プロセスのためのビジネス・プロセス・リエンジニアリングが必要という

会場には官公庁・自治体の電子政府・電子自治体推進担当者ら数百人のほか、国会議員も姿を見せた。“2005年に世界最先端のIT国家になる”というe-Japan戦略を掲げる我が国であるが、下地となる個人認証サービスの法制化などが遅れており、フィンランドをはじめとするヨーロッパ各国や、アジアではシンガポール、香港など急速に電子政府への取り組みを進めている国々に追いついていないのが実情。ブロードバンドネットワークの普及などの技術的側面だけでない、IT時代に対応した政府・自治体の早急な構造改革が求められている。

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