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“映像テレビ技術・Digital Production 2002”が開催――話題の自主制作CGアニメ『ほしのこえ』のメイキングも

2002年05月27日 22時38分更新

文● インタビュー・文:月刊アスキー 櫨田智男

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中高生達に『ほしのこえ』を見てほしい

セミナー終了後、新海誠氏と萩原プロデューサーにインタビューする機会を得た。1時間というセミナーの時間枠では語り尽くせない『ほしのこえ』の魅力と制作秘話を語っていただいた。

新海氏と萩原P『ほしのこえ』の大判ポスターを背景に新海氏(右)と萩原氏。「自分が本当に望んでいることが実現できたことが幸せで、それが制作にあたっての支えだった」(新海氏)。「ぜひ、ノボルやミカコと同年代の中学生や高校生達に『ほしのこえ』を見てほしい」(萩原氏)
[ASCII24] 『ほしのこえ』の尺は25分という個人制作としては長編とも言えるものですが、その制作には大変なご苦労があったと思います。それを作り上げるにあたって“支えた思い”というのは何でしょうか?
[新海氏] 会社勤めをしていたころ、プライベートでも作品(『彼女と彼女の猫』など)を作り続けていました。その間、仕事でCGアニメーションを制作する一方で、自分自身が本当に作りたい作品だけに思い切り打ち込んでみたいという思いを持っていました。つまり、仕事の合間に作るのではなくて、自分の力と時間を100%注いで作品を作りたいと考え続けていたわけです。そこで2001年の初夏に会社を辞めて『ほしのこえ』の制作に没頭したわけですが、そのときに思ったことが“自分はずっと、これをやりたかったんだ!”と。自分が本当に望んでいた制作に没頭できる環境が実現できたことが幸せで、それが支えでした。
[新海氏] 生活のすべてを一度でいいから制作だけにしてみたかったので、それが実現できたことが何より幸せでした。それと同時に、自分に何ができるのかという、自分の力を自分で確認したい気持ちもありましたし、周りの人々に自分の作品、そして自分の力を見てほしいとも思っていました。また、個人制作であっても、これだけの作品が作れることを証明する例を作りたかったという思いもありました。
[ASCII24] 『ほしのこえ』の制作にあたって、特に苦労したところは何でしょう?
[新海氏] もともとアニメーターではなかったので、動画を描くことに苦労しました。そのために(実写のDV映像をトレースするなど)“いかに動画を描かない”で済むか、そのための演出と制作手法を考えたわけですが、それでも最終的には動画を描かないわけにはいかないので、そこが苦労したところですね。

このテーマを表現するにはCGアニメーションが最適だった

ほしのこえDVDパッケージ
DVDビデオ『ほしのこえ The voices of a distant star』。本編25分+映像特典55分と、『ほしのこえ』の魅力がたっぷり詰まっている。5月中旬までは品薄だったが、現在は再生産されており十分に出回っている。価格は5800円。近くに扱っているお店がなくても大丈夫! 通販サイト“MZ通販倶楽部”で入手できます。なお、DVDレーベル面にある新海氏のサインは、4月19日~20日に東京/下北沢の短編映画館“トリウッド”で行なわれた上映会で、インタビュアーが個人的にサインしていただいたもので、通常の製品にはありません (C)Makoto Shinkai / CW
[ASCII24] CGアニメーションという表現手法を選択した理由は何でしょうか?
[新海氏] 『ほしのこえ』で表現したかったことはCGアニメーション自体のテクニカルなことではなく、作品に込めたテーマであり、それを少人数制作という枠の中で表現するためにはCGアニメーションが最適だったということです。
[ASCII24] 『ほしのこえ』のプロットは、いつ頃できたものなのでしょう? また、それを作るにあたって影響を受けたものはありますか?
[新海氏] 携帯メールを軸にしたストーリーは、自分が1年半ほど前に携帯電話を買ったときに思いついて、それをSFとして表現しようと考えました。その時期に影響を受けたというものは特にありませんが、過去を含めていえば、大学時代に観たTVアニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を受けていると思います。特にエヴァの中で多用された、静止画をうまく積み重ねる表現手法に影響を受けたように思います。
[ASCII24] 萩原さんが『ほしのこえ』を観て、“ここに惚れた”というところは?
[萩原氏] 作品を観たときに新海さんのすごいセンスを感じました。“ボーイ・ミーツ・ガール”の世界、その中に込められた“出会っていたことに後から気づく”その切なさを、予告編を観たときに強く感じました。そのテーマは観た人が自身の過去を呼び起こすもので、これは必ず良い作品、ヒットする作品になるだろうと直感しましたね。正直言うと、商売に結びつくかということよりも(初期に公開されたのは1分半程度の予告編だけだったので)早く続きを観たいと思い、新海さんに「早く完成させましょう」と焚き付けたわけです(笑)
[新海氏] コミックス・ウェーブさんが「一緒にやっていこう」と言ってくれたことが気持ちの上で大きかったです。それこそ会社を辞めて制作に没頭してもいいんだ、という決心にも繋がったほどですね。
[ASCII24] オリジナル版は新海さんと篠原さんが声をあてていますが、それとは別に声優版を作ることになった経緯は?
[新海氏] プロの声優さんに声をあててほしいと当初から考えていました。初めからDVDビデオ化を念頭に制作していましたので、完成度を高めるという意味で声優版を作ったわけです。
[萩原氏] DVD版にあたって、有名なアイドルにあててもらうという案もあったのですが、最終的には新海さんが気に入った声優さんに声を当ててもらうことになりました。
[新海氏] 作品の出身自体は自主制作ですが、初めからDVDビデオ化して販売するつもりでしたので商業作品としての側面もあったわけです。最終的にはオリジナル版、声優版のどちらかに絞ったほうが作品としては正しいのかもしれませんが、『ほしのこえ』は自主制作と商業作品、両方の側面をもっているわけで、それならオリジナル版、声優版の両方にしようと決めました。
[萩原氏] プロデュースする側として、“作品にはひとつの確固たる軸があるべきで、ユーザーが(オリジナル版か声優版かの)選択肢を持つべきではない”という意見も社内にはありました。ですが、この作品に限っては自主制作ということもあり、オリジナル版、声優版という2つの見せ方があっても良いのではないかと考えました。制作当時の判断では、それがベストだったと思っています。
[ASCII24] それでは『ほしのこえ』のDVDは新海さんにとって、すべてを表現し尽くしたものですか?
[新海氏] 実はミカコの声も、最初は自分で喋っているんです。それをニュアンスも含めて、そっくりコピーするように(ミカコ役の篠原さんに)喋ってもらいました。音楽に関しても、担当してくださった天門さんと何回も打ち合わせをして、非常に理想に近い形にしていただけたと思います。そういう意味で、すべてが自分の思いどおりに制作できましたね。
[ASCII24] 次回作は?
[新海氏] 現在のところ次回作についての詳細は決まっていませんが、今、考えている範囲では自分と音楽担当、そして可能であれば原画を担当してもらえる人、この3人ぐらいの規模で作っていきたいですね。作品の長さも30分程度を考えていて、その長さで語れる内容になると思います。
[ASCII24] 作品のテーマとして次回も中高生にこだわるとのことですが、それはなぜでしょう?
[新海氏] 中高生から大人になるまでの気持ちの流れを考えたとき、果たして自分自身が十分に大人に成りきれているかというと、いろいろなものを消化しきれていないような気がするのです。作品を通して、自分が消化しきれなかったもの、解決しないで置き去りにしてきたものを見つめ直してみたい、そういう思いも作品に込めているのです。

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