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“映像テレビ技術・Digital Production 2002”が開催――話題の自主制作CGアニメ『ほしのこえ』のメイキングも

2002年05月27日 22時38分更新

文● インタビュー・文:月刊アスキー 櫨田智男

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会場内のセミナールームでは“デジタルアニメコレクション”と題し、劇場用アニメーション作品の中で使用された3DCGアニメーションの制作スタッフによる制作実例などの有料セミナーが開催された。中でも人気を集めたのが、話題のフルデジタルアニメーション短編『ほしのこえ』を自主制作した新海誠氏のセミナーで、定員50人に対し、立ち見も多数出るほどの大盛況振りだった。

『ほしのこえ』は、映像作家の新海氏が1人で脚本と映像を制作したCGアニメーション短編作品で、4月に(株)コミックス・ウェーブよりDVDビデオとして発売された。このDVDは、新海氏のホームページやコミックス・ウェーブのホームページでの宣伝が主だったにも関わらず、現在までに1万7000枚以上を売り上げ、さらに追加生産中だという。

作品のテーマは、携帯メールをモチーフとした、地上と宇宙に遠く離れたノボルとミカコの超遠距離恋愛。地上でミカコからのメールを待つノボルと、彼との携帯メールを心の支えに宇宙で人型兵器“トレーサー”を操縦しながら未知の敵“タルシアン”と戦うミカコ。それを縦糸に、2人の思春期から大人へと成長していく気持ちの推移を横糸に織り上げた傑作。5月9日付けの記事も参照していただきたい。

メイキングセミナー
ご覧のように定員50人のセミナールームは立ち見が出るほどの超満員。ASCII24以外にも新聞社や雑誌などの取材が入っており、『ほしのこえ』人気爆発という感じ。ファンとしては嬉しい!
セミナーで解説する新海氏と萩原P
『ほしのこえ』の制作手法について詳細に解説する新海氏(左)。コミックス・ウェーブの萩原プロデューサー(右)は、「新海さんが自分の思いどおりに制作できることを最も重視してバックアップした」と語った

このセミナーで新海氏は、『ほしのこえ』の中のシーンをいくつか抜き出して上映し、それらの制作手法を解説した。

作品全体において共通している手法としては、メカは(株)ディ・ストームの『LightWave 3D』による3DCG。人物は動画用紙に描いた下絵をスキャナーで取り込み、それをアドビシステムズ(株)の『Adobe Photoshop』で彩色した2DCG。さらに空や雲、そして宇宙から見た惑星などの背景は、タブレットを使ってPhotoshopで描いたものだという。それらの素材を同じくアドビシステムズの『Adobe After Effects』で動かしている。作中で学校の階段をミカコが駆け下りるシーンがあるが、これは実際に駆け下りる様子をDVカメラで撮影し、その映像を1コマずつレタッチして動画にしたもの。

すべてを3Dで制作するのではなく、あえてこのような制作手法を採った理由について、新海氏は「第一には省力化のため。ほかのCGアニメーションではキャラクターの筋肉の動きを3DCGで表現するなど新たな手法にチャレンジしているが、『ほしのこえ』ではそのようなテクニカルな部分よりも、目的のテーマやドラマを見せることに注力した。そして、すべてを1人で作るために、できるだけ少ない手間で済む方法を編み出した」と述べ、視聴者に受け取ってほしいものは、あくまでテーマであり、CGのテクニカルな部分ではないと説明した。

また、「出来上がった映像が新鮮なものに見えているとしたら、1人で作ることにより従来のアニメーションの制作システムとは異なった映像の作り方になっていることも影響しているのでは」と語り、その新鮮さが大ヒットした理由のひとつだろうと述べた。

1人でCGアニメーションを制作した苦労は並大抵のものではないことは容易に想像できる。『ほしのこえ』のカット数は340カットにもおよぶ膨大なものだが、その作業にあたって新海氏は、「決して作業量的に果ての見えないものではなかった。また、1人で作品を作り上げることで、今後のステップへ繋がるとの思いもあった」とし、それらを支えに制作に没頭したという。

また、少人数で制作する意味については「1人で制作するメリット、デメリットが見えてくるし、少人数の制作システムで何が必要かも見えてくる。今後も個人ベースでの制作を行なっていきたいが、それに必要なものを『ほしのこえ』を通して考えていきたい」と、次回作も少人数で制作していく予定であることを明らかにした。それについてコミックス・ウェーブの萩原氏は「今後の個人制作や、少人数をベースとしたアニメーション制作のワークフローがどういったものになるかを考える機会でもある」と述べ、今後も新海氏の制作をバックアップする予定であると語った。

セミナーは予定の1時間を少しオーバーして終了。質疑応答の中で新海氏は今後の制作予定について「基本的には『ほしのこえ』と同様の制作手法によるアニメーションになるだろう。テーマとして中学生や高校生ぐらいの少年少女が、どのように成長していくか、思春期から大人へかけての気持ちの推移に興味があるので、それを描く作品を作りたい」と述べたが、次回作の内容や発表時期については未定とした。

なかなか知ることのできないメイキングに触れることのできた参加者は、新海氏による密度の濃い制作手法の解説を聞き漏らすまいと、全員が集中してスクリーンを見つめていた。

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