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富士写真フイルム、フォトプリンター『Printpix CX-400』の発表会を開催

2002年05月24日 03時03分更新

文● 編集部 田口敏之

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富士写真フイルム(株)は23日、都内に報道関係者らを集め、同社が6月8日に発売するデジタルフォトプリンター『Printpix CX-400』(Printpix Digital Photo Printer CX-400)の発表会を開催した。これは、4月8日に同社が発表した製品で、今回初めて製品の実機および内部構造が公開された。発表会では、同製品の事業戦略の発表や、製品に採用されている独自の“Printpix(プリンピックス)”方式についての技術説明、および東京工芸大学教授で工学博士の大野信氏の特別講演などが行なわれた。

執行役員プリンピックス事業部長の内田洋祐氏
執行役員プリンピックス事業部長の内田洋祐氏

発表会の冒頭では、同社執行役員で、プリンピックス事業部長の内田洋祐氏が「思い出を写し、残すのがプリント。プリントは、昔の出来事を思い出すことができる優れた手段だと思っている」と述べ、「今回発表した“Printpix”は、従来“TA(Thermo-Autochrome)”という技術用語で呼ばれていたが、一般コンシューマーの方々に親しみやすい名前を付けてご愛顧いただくために、Printpixに変更した。プリント品質は見ていただければ分かるが、銀塩写真に匹敵するものを持っている。この製品を、手軽に使えるインフラとして整備したい。プリントする文化を培って、良い文化を伝え育てて行きたいと考えている」と語った。

プリンピックス事業部営業グループの田崎啓氏
プリンピックス事業部営業グループの田崎啓氏
各ターゲット層
ターゲット層は、女性・ファミリー層とシルバー層。どちらの層も、パソコンにそれほど詳しくないが、高画質なプリントを得たいという欲求を持っているという

続けて、同社プリンピックス事業部営業グループの田崎啓氏が、Printpix CX-400のターゲット層についての説明を行なった。同氏は「ターゲットは、デジカメを銀塩カメラ感覚で利用する“女性・ファミリー層”と、デジカメを趣味で楽しむ“シルバー層”。家族の成長や子供の思い出を、きれいなプリントで残したいという女性・ファミリー層の需要にも、趣味で撮影した写真を、店に行かなくても家で好きなときに高画質でプリントしたいというシルバー層の需要にも応えることができる」と述べた。

5つのステップでフルカラープリント

富士宮研究所研究部長の五十嵐明氏
富士宮研究所研究部長の五十嵐明氏

そして、Printpixに採用されている技術の詳細について、同社富士宮研究所研究部長の五十嵐明氏が説明を行なった。同氏によれば「Printpixペーパーは、熱が加わると発色する、イエロー(黄色)、マゼンタ(赤)、シアン(青)の3つの層を重ね合わせてできている。この3つを発色させることによって、フルカラーのプリントを得る」という。

Printpixペーパーの模式図。上からイエロー、マゼンタ、シアンの3つの発色素材が重なっている
Printpixペーパーの模式図。上からイエロー、マゼンタ、シアンの3つの発色素材を重ねて配置している

発表会で配布された資料によれば、Printpixペーパーの発色素材には、ジアゾニウム塩化合物と、カプラーと呼ばれる化合物を採用している。ジアゾニウム塩化合物は、カプラーと反応して色素を形成するが、紫外線を照射することによってカプラーとの反応性を失うという特性を持っている。この特性を利用し、加熱によって色素画像を形成した後に、全面に紫外線を照射すれば、加熱しても発色しなくなる。これによって、記録画像の定着が可能となる。

しかし、ジアゾニウム塩化合物は極めて活性が高い化合物なので、水分などの影響で徐々に分解してしまうという。そこで、熱応答性を付与したマイクロカプセルの中に、ジアゾニウム塩化合物を内包させ外界から遮断している。マイクロカプセルは、芯(コア)と殻(シェル)から構成される微小容器で、直径は数10nm(ナノメートル)から数100μm(マイクロメートル)。マイクロカプセルの殻には、ポリ(ウレア・ウレタン)樹脂を用いている。このマイクロカプセルの外側にカプラーを配することによって、常温時には安定したジアゾニウム塩化合物を保持し、加熱時は速やかに反応して色素の形成を行なうことができる。

各感熱発色層の感熱度の違いを示すグラフ
各感熱発色層の感熱度の違いを示すグラフ。この違いを利用して、5回のステップに分けてフルカラーのプリントを作成する

Printpixペーパーは、紙支持体上に、シアン、マゼンタ、イエローの順に感熱発色層を積層し、最上層には耐熱性保護層を設けている。イエローとマゼンタの発色層は、ジアゾニウム塩化合物とカプラーを発色素材とし、紫外線で画像の定着が可能な感熱記録層となっている。また、シアン発色層は定着の必要がないので、染料前駆体と有機酸を発色素材としている。各層のマイクロカプセルは異なる熱感度と紫外線感度を持っているので、異なる熱エネルギーと異なる波長の紫外線を、5回のステップに分けて与えることによって、発色と定着を繰り返しながら、フルカラーのプリントを作成できる。各ステップについては以下の通り。

  1. イエロー画像情報を基に、低熱エネルギーでイエロー画像を形成する
  2. 波長が419nmの紫外線を全面照射し、イエロー画像を定着させる
  3. マゼンタ画像情報を基に、中熱エネルギーでマゼンタ画像を形成する。このときイエロー発色層は加熱しても発色しないため、影響を受けない
  4. 波長が365nmの紫外線を全面照射し、マゼンタ画像を定着させる
  5. シアン画像情報を基に、高熱エネルギーでシアン画像を形成する
プリンターの内部構造
プリントを行なう部分の模式図。熱エネルギーを与えるためのサーマルヘッドとその制御回路、および発色素材を定着させるための419nmの紫外線ランプと365nmの紫外線ランプが1列に並ぶ形で配置されている

プリンター内には、熱エネルギーを与えるためのサーマルヘッドとその制御回路、および発色素材を定着させるための、419nmの紫外線ランプと365nmの紫外線ランプが1列に並ぶ形で配置されている。これにより、上記のステップ1と2、3と4を同時に行なえるため、結果としてプリンター内をペーパーが2往復半することにより、フルカラープリントが得られることになる。なお同社の説明員に、紫外線ランプの耐久性について尋ねてみたところ「3000回程度の照射から、徐々に照射できる光量が低減していくが、すぐにプリントできなくなるわけではない。ランプの交換は保守サービスによって行なう」という答えが返ってきた。

サーマルヘッドのサンプル
サーマルヘッドのサンプル
紫外線を照射し、色素の定着を行なう紫外線ランプ
紫外線を照射し、色素の定着を行なう紫外線ランプ

また、画像の保存性を向上させるために、ペーパーの発色層と耐熱保護層の中間に、紫外線遮断と酸素遮断を兼ねたフィルター層を挿入している。さらに、発色層と支持体の中間にも、酸素遮断層を設けている。紫外線遮断フィルター層は、記録時は紫外線を透過させ、記録後に紫外線を遮断するようになっているという。これらの保護層によって、直接日光が当たらない通常の室内では8年から10年、アルバム内では30年の画像保存性(画像濃度の残存率80%以上)を得られるという。

Printpixペーパー
保護のためにPrintpixペーパーに挿入されたフィルター層。紫外線遮断フィルター層と酸素遮断層でサンドイッチ状に挟み込まれている
Printpix専用紙をセットする
Printpix専用紙。専用紙自体が発色するので、インクリボンやインクカートリッジなどの必要がない

五十嵐氏は、「このPrintpixペーパーを利用することによるメリットは、消耗品がペーパーのみなので、インクリボンやインクカートリッジなどを必要としないことと、構造が単純なので故障しにくいこと。また、発色濃度が加熱エネルギーに比例するため、濃度階調の写真のような画質が得られること」としている。

東京工芸大学教授で工学博士の大野信氏
東京工芸大学教授で工学博士の大野信氏「Printpixペーパーは、信じられないような芸術品」

発表会の最後に行なわれた、東京工芸大学教授で工学博士の大野信氏による特別講演の中で、大野氏は「このPrintpixペーパーは、信じられないような芸術品。厚み方向に色素を配置しているのが特にすごい。印画紙と同じ構造なので、耐久性が高いのにもうなずける」と述べ、「消耗品を紙以外に必要としないのも大きなメリット。インクリボンやインクカートリッジを要するプリンターでは、紙かインクかのどちらかが無くなってプリントができなくなる。また、廃棄物が少ないのも歓迎すべきところ。Printpixペーパーには、印画紙と競争して頑張ってほしい」と語った。

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