米カリフォルニア州アナハイムで開催中の“Annual Borland Conference”(BorCon)では、米ボーランドソフトウェア社の未発表の製品に関する情報が多数明らかになった。複数のセッションで語られているこれらの情報を整理した。
.NET対応次世代Delphi“Aurora”
19日(米国時間)のオープニングキーノートで明らかなように、今回のBorConにおいて米ボーランドが力を入れてアピールしていたのが、Javaの統合型ビジュアル開発環境『JBuilder』と、『Delphi』。JBuilderはこのBorCon開催に合わせ、新バージョンの『JBuilder 7』ファミリーを発表している。もう一方のDelphiでは、新バージョンの発表には至らなかったものの、2月に発表した、Microsoft.NETプラットフォーム向け製品戦略の第1弾となる“Aurora(オーロラ:コードネーム)”を公開した。
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『Delphi for .NET』として紹介された画面だが、タスクバーを見るとプログラム名は『Delphi 7』となっている |
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AuroraイコールDelphi 7というように読みとれる |
Auroraは、.NETプラットフォームとコンパチビリティーを持つ言語拡張やコンパイラーを備えており、開発者に対して.NET環境への移行手段を提供するものという。ただ、Auroraが現行製品の『Delphi 6』の後継となる『Delphi 7』とまったくイコールの製品かどうかははっきりしていない。というのは、プレゼンテーションによってAuroraを“『Delphi 7』プラス『Delphi for .NET Preview Edition』”と説明したり、『Delphi for .NET』だと説明したりしているからだ。ただ、正式発表前の製品ということもあるが、細かい製品仕様について最終決定されていないというのが真相のようだ。ただ、Auroraは2002年後半リリース予定となっている。
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こちらはDelphi for .NETの概要 |
完全.NETサポートの企業向けアプリケーション開発環境“Galileo”
Galileoは2003年リリース予定という、企業システムアプリケーション向けの“100%Pure .NET開発環境”。米ボーランドは企業システムアプリケーション開発ツールとして『Enterprise Studio』を持っており、その完全.NET対応版がGalileoということのようだ。プログラム言語としてはDelphi for .NETを含むポピュラーな.NET言語に対応ということで、C++、J#、JScript、C#などにも対応すると思われる。
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Galileoは、名前と概要が明らかとなっただけで、デモンストレーションは行なわれなかった |
マイクロソフトも『Visual Studio .NET』を提供するわけだが、Galileoが決定的に異なるのは、分散オブジェクトではCOM、SOAP(Simple Object Access Protocol)だけでなく、CORBA、ウェブサーバーは『IIS』と『Apache』、データベースは『SQL Server』だけでなく、『Oracle』や『DB2』、『Interbase』など、非マイクロソフト陣営の標準をもサポートしている点。この特長によって、Galileoは非常に柔軟なシステム開発が可能になる。
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Galileo概要。.NETにおいて、マイクロソフト以外の製品も統合するためにはGalileoが必須となるはず |
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Galileoは主要なスタンダードを網羅する |
ウェブサービス向けに特化したプログラム言語“Charlotte”
Charlotte(シャーロット:コードネーム)は、ボーランドがウェブサービス向けにデザインして開発中のプログラム言語。.NETに完全対応し、C#、Visual Basic、J#、Delphi for .NETなど.NET向け言語と相互運用性を持っており、.NETウェブサービスやコンポーネント、アプリケーションが開発できるという。また、使い方は“Visual Basicよりも簡単”ながら、ビジネスシステム開発や統合にフォーカスしたものだとしている。
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Charlotteはウェブサービス作成とスクリプティングのためのシンプルかつ強力な言語であるという |
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ウェブサービスプログラミングにおけるCharlotteの特徴 |
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Charlotteのコードを紹介するのは、このBorConが初めてのことという |
C++でのクロス開発をサポートするKylix 3
DelphiのLinux対応版として登場し、Linux上の標準統合開発環境としてのポジションを得たKylixは、次期バージョンKylix 3において、C/C++もサポートする見込み。これによって、Delphi 6やC++Builder 6を合わせて使うことで、1つのソースからLinuxとWinodws用のプログラムを作成できるクロス開発環境において、Delphi、C、C++の3つのうちからプログラム言語を選択できるようになる。
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Kylix 3の特長。開発者にDelphiかC/C++かという選択の自由を与えるという |
米ボーランドは、Linux向けのC++開発ツールを2002年内に提供すると明らかにしているが、それがKylix 3を指しているのか、あるいは別の製品になるのかは不明。C++Builder 6で作成したプログラムソースを、そのままKylix 3に読み込ませてコンパイルし、Windowsと同じようにLinuxのX Window上でプログラムが動作する、というデモを行なった。
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Kylix 3の画面。動作しているプログラムは、C++Builderで作成したコードを、Kylix 3でそのままコンパイルしたもの |
複数のプロセッサーに対応できる新C++コンパイラー
またこのほか米ボーランドは、C/C++コンパイラーの改良も手がけているという。現在のC/C++コンパイラーは、FEP(Front End Processor)とCode Generatorから構成されているが、新コンパイラーではFEP+SSA Optimizer+Code Generatorの3階層となっている。FEPからはSSA(Static Single Assignment:静的単一代入)形式と呼ばれる中間表現形式を出力、これをSSA Optimizerが最適化し、Code Generatorが最終的なプログラムコードに変換するという形になる。SSA形式は最適化しやすいうえ、最終段のCode Generatorを取り替えることで、異なるアーキテクチャーのプロセッサーに対応できるメリットがあるという。
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ボーランドの新しいC++コンパイラーのアーキテクチャー |
米ボーランドではx86以外のプロセッサーとして英アーム社のARMアーキテクチャーに対応するとしている。
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プロセッサーに依存する最適化は3段目のCode Generatorが行なう |
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3階層の方式により、Code Generatorを取り替えるて、ほかのプロセッサーのコード出力が可能となる |
C++BuilderでSymbian OS向けアプリの開発を可能にする“Edison”
“Edison(エジソン:コードネーム)”は、C++Builderのアドオンキット『C++Builder for MobileSet』。Version 1.0と2.0の2段階でリリースするとしている。Version 1.0では、フィンランドのノキア社が開発した、Symbian OSを採用する携帯電話向けのアプリケーションプラットフォーム“Series 60 Platform”向けのアプリケーションが開発可能。Version 2.0では、Galileoのアドオンとなり、『Borland ARM C++ Compiler』およびクロス開発用ライブラリー『Mobile CLX』を追加して、Symbian OSを搭載するスマートフォン向けアプリケーションが開発できるとしている。Version 1.0は2002年第3四半期にリリースの予定。
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EdisonはC++Builder for MobileSetという、C++Builderのアドオンとなる |
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C++Builder for MobileSet(Edison)の、Version 1.0および2.0の概要 |
米ボーランドはすでに、Java対応携帯電話向けに『JBuilder for MobileSet』を提供している。Edison(C++Builder for MobileSet)によって、JavaとC/C++という、2大言語の両方で携帯電話のシステム開発が可能になる。Symbian OSは2.5G/3G携帯電話向けとして採用が見込まれており、大きな需要が見込まれる携帯電話市場に向けた、米ボーランド期待の製品群と言えそうだ。