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「自分の言葉で思いを伝えるのは楽しい」――三鷹市立第一小学校がブロードバンドネットワーク授業を公開

2002年05月20日 17時49分更新

文● 編集部 田口敏之

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三鷹市教育委員会と三鷹市立第一小学校は17日、ブロードバンドネットワークを利用した同校の授業を、保護者や関係者、報道関係者らに公開した。

三鷹市は4月より、日本アイ・ビー・エム(株)と共同で、同市の市立の小学校全15校を対象に、“三鷹市学校・家庭・地域連携教育プロジェクト”を実施している。これは、学校と家庭、および周辺地域をブロードバンドネットワークで結び、これを強固なセキュリティーで保護されたイントラネットとして利用することにより、地域が協力できる開かれた学校教育を目指す試み。今回の公開授業は、その一環として行なわれた。なお、同プロジェクトは米IBM社が展開している、教育改善のための社会貢献プログラムの1つ。米IBMは同プロジェクトで、三鷹市に対して75万ドル(約9450万円)相当の支援を行ない、高学年児童、保護者、地域支援者(メンター)など3000人程度が利用できるシステムの環境作りを目指すとしている。

命名“ポキニシキ”――5年1組、FOMAを利用した稲作体験授業

5年1組は図書館で、“米作り体験 レッツゴー! 一小(いちしょう)ダッシュ村”と題した社会科の稲作体験の授業を、パソコンと掲示板、FOMAのTV電話機能などを利用して行なった。

生徒たち
書き込んだ質問に対する答えを確認する生徒たち

これは、5年1組の生徒が、三鷹市で陸稲作りを営んでいる須藤嘉也氏と共同で、稲作の実習を行なうというもの。授業の始めでは掲示板を使って、授業の前日に生徒たちが書き込んだ、稲作作りや農業についての質問に対する、須藤氏や地域の方々からの回答を確認した。その後に、お礼などを書き込んでいるグループの姿もあった。

お礼
回答に対するお礼を書き込む生徒たち

そして、FOMAのテレビ電話機能を使って、生徒たちが須藤氏に直接質問を投げかけた。

TV電話
FOMAのTV電話機能を利用して、直接質問を投げかける生徒。内容は、「お米が病気になった時はどうするのですか?」「これまで病気になったことはないよ」など。スクリーンに映っているのが、三鷹市で稲作を営んでいる須藤嘉也氏

内容は「お米が病気になった時はどうするのですか?」「これまで病気になったことはないよ。でも、蜜蜂を飼っているから、野菜も米も消毒できない。そういう信念でやっている」などというもの。途中で須藤氏が、稲作に使っている道具や、生徒たちが植えた種から芽が出ている様子をTV電話で見せると、教室では一斉に歓声が上がった。

命名、ポキニシキ
「お米に名前をつけてください」という課題に、生徒たちがつけた名前は“ポキニシキ”。ほかにも、“ポキヒカリ”“コニシキ”などの候補があったという

また、須藤氏が出していた「お米に名前を付けてください」という課題に対する答えの発表も行なわれた。生徒たちが付けた名前は“ポキニシキ”。この名前は、三鷹市にある“三鷹の森ジブリ博物館”のマスコットキャラクターの名前“ポキ”と、仙台から来たという須藤氏の米にちなんだものだという。

担任の山口菜穂子氏は、掲示板とFOMAを使ったこの授業について「直接畑に行って実習を行なうと、行って帰ってくるだけで2時間も使ってしまう。掲示板やFOMAを使って、直接まとめて質問ができれば、これほど効率的なことはない。また、こうすれば、須藤氏を訪ねた際に、稲作実習にすぐに移ることができる」と述べた。

「自分の言葉で思いを伝えられるのはとても楽しい」――6年2組、掲示板のマナーを学ぶ

6年2組はコンピューター室を使い、“エンジョイ川上村~イントラ掲示板を使って~”という、総合的な学習の時間の授業を行なった。これは、5年生が予定している川上村の宿泊授業(自然教室)について、5年生が掲示板に書き込んだ質問に対して、6年生が回答を書き込むというもの。いわば、インターネット上の掲示板でのマナーを学ばせる授業と言える。

掲示板
掲示板で、5年生からの質問に答える生徒。内容について話し合いながら、書き込みを行なっていた

書き込みの内容は、「肝試しでは呪われそうだった」とか、「アイスおいしかった。またたべたいなー」といったもの。5年生のさまざまな質問に対して、6年生が自然教室の楽しさについて教る場面が多く見られた。

コンピューター室での授業
「肝試しでは呪われそうだった」、「アイスおいしかった。またたべたいなー」など、さまざまな回答を返していた

授業後、先生が生徒に対し、掲示板に書き込む際に注意したことを尋ねると、「話題に沿って書けたか注意した」「読みやすいように文字を大きくした」などの答えが返ってきた。また、「自分の言葉で思いを伝えるのはとても楽しい」と述べる生徒もいた。

授業後の感想で、「自分の言葉で思いを伝えるのはとても楽しい」と述べる生徒もいた
授業後の感想で、「自分の言葉で思いを伝えるのはとても楽しい」と述べる生徒もいた

授業でTT(Team Teacher)を担当した木暮敦子氏は「校内で掲示板が利用できるのはコンピューター室のみで、授業にも活用している。掲示板の利点は、地域の人々と安心して交流できること。本年度より昼休みにもコンピューター室を解放した。授業で習う枠を超えて、生徒が掲示板を活用できるようになってくれれば良い」と述べ、担任の梅津靖子氏は「子供が楽しく掲示板を活用するためには、どうすればいいか考えていきたい」と語っていた。

「一小の掲示板を、ほかの方々に伝えたいと思いますか?」――6年3組、PDAとデジタルカメラを使って来校者にインタビュー

6年3組は、“それいけ! さわやか3組「無線LAN探検隊」”という、総合的な学習の時間の授業を行なった。授業内容は、PDAと無線LANカード、デジタルカメラを利用して、生徒が来校者に“取材”を行ない、その状況報告を、メールで担任に連絡するというもので、コンピューターリテラシーの一環となっている。なお、この授業内容は、PDAの使い方と無線LANでできることを習った上で、生徒たち自身が考えたという。

来校者を取材
来校者を取材する、6年3組の生徒

取材での、生徒たちからの質問は、「どちらからいらっしゃいましたか?」「一小のホームページを知っていますか?」「一小の掲示板を、ほかの方々に伝えたいと思いますか?」などというもの。生徒に話を聞こうとして声をかけ、逆に取材を受けている報道関係者の姿も多かった。

報道関係者と、互いに取材し合う場面もあった報道関係者と、互いに取材し合う場面もあった

担任の末長寿宣氏によれば「5年生時も同様の授業を行ない、その際にはデジタルカメラのみを利用して行なった。今回初めてPDAを使った。PDAに録音したインタビューや、デジタルカメラで撮影した画像は、あとでそれを元にウェブサイトを作り、プレゼンテーションを行なう」という。

質問の内容は、生徒たち自身が考えた
「どちらからいらっしゃいましたか?」「一小のホームページを知っていますか?」「一小の掲示板を、ほかの方々に伝えたいと思いますか?」といった質問の内容は、生徒たち自身が考えた

また同氏は「今回、授業を行なうにあたって、IBMの方などに多大なご助力をいただいた。その中で、我々が学ぶことも多かった。我々教師は、失敗してコンピューターを壊さないように、やってはいけない事を教える。しかしIBMの方々は、『壊してもいいから、まずやってごらん。もし失敗したら、次に失敗しないようにはどうしたら良いのかを考えてみよう』と教える。まるで、私よりも担任のようだった」と語っていた。

「苦労してでもやろうという気力がないと、とてもこういう試みはうまくいくものではない」――“三鷹市学校・家庭・地域連携プロジェクト”キックオフセレモニー

公開授業のあと、“三鷹市学校・家庭・地域連携教育プロジェクト”のキックオフセレモニーが、同校の体育館で行なわれた。その中で、三鷹市教育委員会教育長の岡田行雄氏は「各自治体が、このプロジェクトに興味を示している。本日の公開授業によって、より多い興味と関心を集めるのではないだろうか。IBMの協力をいただきながら、問題や課題を把握し、さらなるネットワークの構築と拡大を図り、日本の教育に貢献したい」と語った。

三鷹市教育委員会教育長の岡田行雄氏
三鷹市教育委員会教育長の岡田行雄氏

また、IBMアジアパシフィックの、コーポレートコミュニティーリレーションズマネージャーである、ルイズ・デイビス(Rouise Davis)氏は「公開授業を見せていただいたが、とても熱心なので非常に感動した。IBMの教育改善プログラム“Reventing Education Program”は、1994年からはじまり、現在8つの国で実施されている。目標は、学校教育に対して、テクノロジーを用いた解決策を提供し、教育の発展と、全世界での学校教育の変容を図ること。これまで実施されてきた成功事例を共有して、教育効果を高めたい。今後も三鷹市の方々のために、プロジェクトを進めるのが楽しみ」と述べた。

ルイズ・デイビス氏
IBMアジアパシフィックコーポレートコミュニティーのリレーションマネージャーである、ルイズ・デイビス(Rouise Davis)氏

セレモニー終了後に、日本IBMの常務取締役である堀田一芙氏に、なぜ三鷹市でプロジェクトを行なうことにしたのかについて尋ねたところ「三鷹市は、早くよりインフラ環境を整えてきた実績がある。1980年代に国から“情報都市モデル地域”に選定され、1997年には“地域情報化計画”によって、教育センターと市立の全焼学校・中学校をイントラネットで接続し、ホームページを作成している。日本IBMは、この試みに賛同して、教育改善のパイロット・プロジェクトに参加した。それに、三鷹市の教育委員会の方々はとても熱心で、ボランティア精神がある。苦労してでもやろうという気力がないと、とてもこういう試みはうまくいくものではない」という答えが返ってきた。

日本IBMの常務取締役である堀田一芙氏
日本IBMの常務取締役である堀田一芙氏「三鷹市の教育委員会の方々はとても熱心で、ボランティア精神がある。苦労してでもやろうという気力がないと、とてもこういう試みは上手くいくものではない」

また、今後の目標について尋ねたところ「環境が整った小学校を卒業して、中学校に上がったら、パソコンもネットワークも何もなかったという事になってしまったのでは意味がない。今回のプロジェクトは小学校を対象にしているが、早い時期に中学校の環境の整備も行なっていきたい」とした。

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