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セコム、食べ物を口元まで運んでくれる食事支援ロボットを発売

2002年04月26日 19時51分更新

文● 編集部 桑本美鈴

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セコム(株)とセコム医療システム(株)は26日、手の不自由な人向けに、ジョイスティックを操作するだけで食物を口元まで運んでくれる食事支援ロボット『マイスプーン』を5月1日に発売すると発表した。

マイスプーン
食事支援ロボット『マイスプーン』。専用食事トレイと操作装置(写真は標準ジョイスティック)が付属する。右側にあるのは飲み物用のコップスタンド

マイスプーンは、生まれながらの身体的障害や、事故や病気など後天的な理由により、手の自由がきかず自力で食事ができない人を対象とした食事支援ロボット。身体の一部を使ってジョイスティック等を利用してロボットを操作することで、任意の食物を口元まで運んでくれる。これにより、自分のペースで食事をすることが可能になるという。

ロボットは、本体(ベース部、アーム部、とハンド部)、ハンド部に取り付ける専用スプーンとフォーク、本体を操作する装置で構成される。本体サイズは、幅28×奥行き37×高さ25cm、重量は6kg。操作装置は、利用者の残存機能に応じて“標準ジョイスティック”“強化ジョイスティック”“自動モード用ボタン”の3種類から選択可能。

標準ジョイスティックは、あごや指先での微妙な操作が可能な人向けの操作装置で、軽いタッチで操作できる。強化ジョイスティックは、手が震える等の理由でジョイスティックの微妙な操作が難しいという人向けの操作棒で、しっかりした大きな動作にのみ反応し、手や腕、足で操作できる。自動モード用ボタンは、ジョイスティックが操作できない人向けのスイッチで、1回スイッチを押すだけで、ロボットが食べ物を口元まで自動的に運ぶ。

強化ジョイスティックと自動モード用ボタン
強化ジョイスティック(左)と、自動モード用ボタン(右)

操作方法は、まず食べ物を一口サイズにカットして、専用の食事トレイ(盛り付け箇所が4つに区分けされているトレイ)に盛り付ける。続いて、利用者に合わせて操作モードを“手動モード”“半自動モード”“自動モード”から選択する。

手動モードは、専用食事トレイの区画選択、区画内の食物の選択、食物をつかむといった一連の操作を、標準ジョイスティックまたは強化ジョイスティックで行なうモード。ジョイスティックを前後左右の4方向へ倒し、食物に合わせてロボットのハンド位置を調整でき、トレイ内の食べ物を利用者が好きな順番で食べることが可能。

半自動モードは、専用トレイの区画選択のみ標準ジョイスティックまたは強化ジョイスティックで行なうモード。スプーンをどの区画へ移動させるかだけを操作でき、その後のどの食べ物を選択するかはロボットが自動で行なう。このためどの食べ物を取るかは選べないが、利用者の操作は手動モードより容易となる。

自動モードは、ボタンを押すだけでハンドが自動的に移動しトレイの食物をつかんで口元まで運ぶというモードで、自動モード用ボタンで操作する。あらかじめ設定された順番でトレイ内の区画を回るので、食べ物の選択はできない。

手動モードの場合、トレイ内の食べたいものがある区画をジョイスティックを倒して指示すると、ハンドがその区画へ移動する。続いて食べたいものに合わせてハンド位置をジョイスティックで調整し、食べ物をつかむ指示を行なうと、ハンドに付いているフォークとスプーンがその食べ物を挟み込んでつかむ。そのまま食べ物を利用者の口元まで運び、利用開始時に設定した口元位置で停止する。利用者がスプーンに口を付けるとフォークがスライドし、食べ物を食べられる。

麩澤さんによるマイスプーンデモ1
標準ジョイスティック使用によるマイスプーン手動モードのデモ。デモを行なっているのは東京頸髄損傷者連絡会の麩澤孝さん。ジョイスティックを操作してトレイ内にある食べたい物のところでロボットのハンドを移動させる
マイスプーンデモ2
ハンドの先端に取り付けられた専用スプーンとフォークが食べ物を挟み込んでつかむ。ストローで飲めるようなもの(飲み物や流動食など)以外のほとんどの食べ物をつかめるという
マイスプーンデモ3
食べ物をつかんだまま、ハンドが利用者の口元のほうへ移動、口元位置でスプーンが停止する
マイスプーンデモ4
利用者自身がスプーンから食べ物を食べ取る。麩澤さんは、マイスプーンを利用すると20分程度で食事できるという

いずれのモードも、利用者の口の中にスプーンが入るというものではなく、利用者自身がスプーンから食べ物を食べ取るという仕組みとなっている。また、身体の状態に合わせてジョイスティックの感度を3段階に切り替える“感度切替スイッチ”も用意されている。

また、さまざまな食材に対応しており、ご飯やおかず類のほか、麺類(短くカットする)、豆腐やゼリーなども専用スプーンとフォークでつかめるという。また、飲み物や汁物は、コップに入れてコップスタンドに置き、ストローで飲むようになっている。

マイスプーンの利用対象者は、手の自由がきかず自分で食事をするのに苦労している、またはヘルパーの介助がなければ食事できない人。頚髄損傷、筋ジストロフィー、慢性関節リウマチなどの障害/症状のある人の一定数で、日本国内には約20万人の潜在ユーザーがいるという。

一方、マイスプーンを利用できない人は、食べ物の嚥下に異常のある人、食べ物を咀嚼できない人、頭部を動かして口元へ運ばれたスプーンを口に含めない人、座位姿勢を維持できない人、食べ物またはスプーンの先端が見えない人、ボタンやジョイスティックを操作できる身体能力のない人、マイスプーンの操作を理解できない人など。

販売方法は、身体障害者個人向けにはレンタル方式を採用する。レンタル期間は5年(以降1年ごとに自動更新)または1年(以降1ヵ月ごとに自動更新)から選択可能。5年の場合、利用料金はAセット(標準ジョイスティックが付属するセット)が月額6100円、Bセット(強化ジョイスティックのセット)が月額6600円、Cセット(自動モード用ボタンのセット)が月額6300円。1年の場合、利用料金はAセットが月額2万2600円、Bセットが2万4900円、Cセットが2万3400円。

また、社会福祉施設向けには売却方式を採用、価格は、Aセットが38万円、Bセットが40万8100円、Cセットが38万6900円、すべての操作装置が付属するフルセットが43万6000円。

セコムは、'91年より医療福祉分野におけるロボットの研究を開始、2000~2001年度には厚生労働省の認可法人である(財)テクノエイド協会の助成を受け、障害者と含む専門家とのプロジェクト体制をとりながら、商品化に向けての研究開発、フィールドテストを実施してきたという。

テクノエイド協会マイスプーン研究開発助成事業プロジェクトメンバーとして、マイスプーンの開発に携わってきたという東京頸髄損傷者連絡会の麩澤孝さんは、「普段の食事はヘルパーさんに一口ずつ口に入れてもらって食べていますが、マイスプーンを使えば、最初にご飯を食べて、次にから揚げ、その次は漬物と、自分のペースで食べられます。自分で食事を楽しめる素晴らしい機械だと思います。マイスプーンにより、重度の障害を持ったかたに自分でできる喜びを広めていければ」としている。

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