セイコーエプソン(株)は23日、都内で発表会を開催し、本体重量が1.9kgで、3枚板液晶プロジェクターでは世界最軽量という、2000ANSIルーメンのスクリーン輝度を持つプロジェクター『ELP-730』など、液晶プロジェクターの新製品4機種を発表した。
『ELP-720』。外観は『ELP-730』と同じ |
価格は『ELP-730』が69万8000円で、下位機種の『ELP-720』が59万8000円。また2500ANSIルーメンの輝度を持つポータブル液晶プロジェクターの新製品『ELP-820』が79万8000円で、下位機種の『ELP-811』が69万8000円。ELP-730とELP-820は4月下旬に、ELP-720とELP-811は5月上旬に、それぞれ出荷を開始する。
最軽量と最高輝度を持ち合わせた『ELP-730』
ELP-730は、新開発の光学エンジンや液晶パネル、電源装置やランプリフレクター、および各部の部品の徹底的な軽量化によって、3枚板液晶プロジェクターでは世界最軽量という、1.9kgの本体重量にした。同時にこれらの技術によって、2kg以下のプロジェクター(DLP方式も含む)では、世界最高のスクリーン輝度である2000ANSIルーメンを持つとしている。
集光型インテグレーター光学系 |
0.9インチポリシリコンTFT液晶パネル“ドリーム2液晶パネル” |
光学エンジンは、インテグレーターレンズによる集光を、ランプを覆うレンズと、液晶パネルに照光するレンズの2段階で行なうことによって、集光部の小型化と短光路化を可能にした“集光型インテグレーター光学系”を搭載している。液晶パネルには、高温(約1000℃)で製造する0.9インチ高温ポリシリコンTFT液晶パネル“ドリーム2液晶パネル”を搭載した。同液晶パネルは、新プロセスと新スタック構造(※1)によって、従来の“ドリームI液晶パネル”よりも、開口率が約20%アップした63%となっている。この液晶パネルの技術は、高輝度化を達成する上でも鍵となる技術だという。
※1 ドリームII液晶パネルの詳細構造については非公開従来の約50%のサイズに小型化した電源 |
小型リフレクターの開発によって、従来の約60%に軽量化したランプ |
電源装置は、同社のプロジェクター『ELP-713』などに搭載していた電源のサイズを約50%に小型化し、ランプは、光を効率的に反射する部分だけにして小型・軽量化したリフレクターの開発によって、従来の約60%に軽量化した。
単位重量当たりの明るさの値と、単位ランプ電力当たりの明るさの値を求めた結果の比較を表わすグラフ |
同社によれば、スクリーン輝度の数値(2000ANSIルーメン)を、本体重量の数値(1.9kg)で割って得られる、単位重量当たりの明るさは、1g当たり1.05ANSIルーメン。また、スクリーン輝度の数値を、最大消費電力の数値(280W)で割って得られる、単位ランプ電力当たりの明るさは、1W当たり13.3ANSIルーメンとなっている。DLP方式の他社製品では、単位重量当たりの明るさが、1g当たり0.8ANSIルーメン、単位ランプ電力当たりの明るさが、1W当たり10ANSIルーメンとなっており、他社製品と比較した場合でも、同製品が最も高い値を示している。
補正前。プロジェクターがスクリーンに近すぎ、画面が台形になっている |
1秒ほどで自動的に補正が行なわれる |
このほか、ELP-730のユニークな機能として“自動台形歪み補正機能”を備えている。プロジェクターでスクリーンに投射する際、本体を傾けて上向きあるいは下向きに投影すると、画面が台形に歪んでしまう。従来の機種も、歪みを補正する機能は搭載していたが、手動で調整するものだった。同機種では本体に搭載した傾斜センサーが、傾きを検出して、設置後約1秒で自動的に画面を補正する。補正可能なのは縦方向の歪みのみで、傾斜は±15°まで有効となっている。
カードリモコン。マウス操作は方向キーで行なう |
リモコンは、背面のパネル内に収納可能 |
同製品は、本体に収納可能なカードリモコンが付属する。パソコンとプロジェクター本体をUSBケーブルで接続すれば、このリモコンをパソコンのマウスの代わりとして利用できる。Microsoft PowerPointを利用したプレゼンテーションの際に、ページ送り/戻しの操作が行なえるボタンも備えている。また、プリンターやスキャナーなどとのカラーマネジメントが可能な“sRGBモード”やテキストをはっきりと写し、メリハリのある画面にする“ミーティングモード”、ゲームの迫力を伝える“ゲームモード”などといった、6つの“画像モード選択機能”を備えており、使用シーンに応じて画面モードを使い分けられる。
ELP-730/720の外部インターフェース |
ELP-730の主な仕様は以下の通り。スクリーン輝度は2000ANSIルーメン、コントラスト比は400:1、投射レンズのF値は1.9~2.1、焦点距離は31~36mm。映像入力端子はミニD-sub15ピン、コンポジット(RCA)、Sビデオ、音声入力端子はステレオミニ端子。音声出力装置として、1Wのスピーカーを備える。外部インターフェースとして、USB端子(タイプB)を備える。実解像度はXGA(1024×768ドット)で、対応するビデオ入力信号はNTSC、PAL、SECAM、D1(480i)~D4(720p)、パソコン画像信号はUXGA(1600×1200ドット)まで対応する。本体サイズは幅276×奥行き190×高さ70mmで、重さは約1.9kg。消費電力は最大225W。なお、ELP-730の下位機種である『ELP-720』は、スクリーン輝度が1500ANSIルーメンであること以外は、ELP-730と同一のスペックを持つ。なお同製品には、ナイロン製のソフトキャリングケースが付属する。
同社では、ELP-730、ELP-720の1年間の販売目標を、2機種で3万台としている。
多機能なポータブルプロジェクター『ELP-820』
ELP-820は、2500ANSIルーメンのスクリーン輝度を持つプロジェクター。パソコンから接続できる入力端子を2系統持っている。また“タテヨコ台形歪み補正機能”を備えており、手動で縦方向に±30°、横方向に±10°の傾きまで画面の歪みを補正できる。付属するリモコンは、プロジェクター本体とパソコンをUSBケーブルで接続すれば、パソコンのマウス代わりに利用できる。
ELP-820 |
ECL-820のリモコン |
ELP-820の主なスペックは以下の通り。スクリーン輝度は2500ANSIルーメン、コントラスト比400:1。投射レンズのF値は1.7~2.0、焦点距離は29~37mm。映像入力端子はミニD-sub15ピン、コンポジット(RCA)、Sビデオ、DVI-I、映像出力端子はミニD-Sub15ピン、音声入力端子はステレオミニ端子、コンポジット(RCA)、音声出力端子はステレオミニ端子。このほか外部インターフェースとして、USB端子(タイプB)を備える。対応するビデオ入力信号は、NTSC、PAL、SECAM、D1(480i)~D4(720p)。実解像度はXGA(1024×768ドット)で、パソコン画像信号はアナログ接続時にUXGA(1600×1200ドット)、デジタル接続時にSXGA(1280×960ドット)まで対応する。本体サイズは幅348×奥行き274×高さ104mmで、重さは約4.2kg。消費電力は最大280W。ELT-730/720と同様に、6つの“画像モード選択機能”を備えている。なお『ELP-811』は、2000ANSIルーメンのスクリーン輝度のほかは、同一のスペックを持つ下位機種となっている。
同社では、ELP-820、ELP-811の販売目標を、1年間で1万台としている(4機種合計で4万台)。
「プロジェクターの世界トップシェアを目指す」
発表会において、同社専務取締役で映像・デバイス応用機器事業部長の木村登志男氏は「私は、この春から、プリンター事業部の事業部長から、プロジェクター事業部の事業部長になった。プリンターの市場同様、エプソンはプロジェクターの市場でも、周囲より一歩先を歩んできた。今後も、画期的な製品を開発し、思い切った販売戦略を取っていきたい」
同社専務取締役で映像・デバイス応用機器事業部長の木村登志男氏 |
世界における同社のシェア |
「エプソンは、液晶プロジェクターの心臓部である、高温ポリシリコンTFT液晶パネルのシェアを、世界でも50%以上を握っているが、エプソンブランドのプロジェクターとなると、シェアは13%になる。今年度以降は、エプソンブランドのシェアも、世界一を狙っていく。その根拠の1つは、キーデバイスが自社のものであるという強みを持っていること。弊社は、高温ポリシリコンTFT液晶パネルなども自社開発を行なっており、非常に優れた光学系の技術を持っている。パテントの資産もたくさんあり、豊富な製品のラインアップを持っている」
同社による今後の市場規模予測 |
「トップシェアを狙うもう1つの根拠は、現在のプロジェクターの市場が、これまでのAV系の販売チャネルから、パソコン・IT系の販売チャネルへと移行しつつあること。エプソンは、プリンターとともに全世界にパソコン・IT系の販売ネットワークを確立しており、世界的に最も強いと自負している販売チャネルを持っている。これを利用して、米国でシェアNo.1の米InFocus社よりも遙かに強い販売体制を築いていく」と語った。
地域別における各社のプロジェクターのシェアを表わすグラフ |
また発表会の質疑応答の場で、事業部長に木村氏が就任したことによって、今後の販売戦略に変化はあるのかという質問に対して、同氏は「戦略の変化は大いにある。データプロジェクターは、まだまだパソコンやプリンターに比べて認知度が低い。製品の優れた点や用途を積極的にアピールし、認知度を高めていきたい。国内においては、2002年度は35%のシェア獲得を目標としているが、認知度を高めればすぐにこれは達成できるだろう。我々にとってのチャンスは、プロジェクターの販売チャネルがパソコンのチャネルに移行しつつあるということ。エプソンにとっては最も強いチャネルなので、これを突破口としていきたい」と語った。
また、家庭向けプロジェクターの市場拡大については「エプソンは、家庭向けプロジェクターについては後発。やはり、ホームシアタープロジェクターが大衆化していく。これまでホームシアターはマニアの持ち物だったが、かつてそうであったステレオと同様に、大衆製品に変わっていく動きがあるのではないかと思っている」と述べた。