(財)国際科学技術財団は22日、2002年(第18回)日本国際賞の受賞者を迎え、合同記者会見を行なった。
日本国際賞は、科学技術の分野において、独創的、飛躍的な成果を挙げ、技術の進歩に大きく貢献したと認められた者に与えられる賞。受賞者は、国籍、職業、人種、性別等は問われないが存命中の者に限られる。2002年度の受賞者は、“計算科学・技術”分野がTimothy John Berners-Lee(ティモシィ・J・バーナーズリー)博士、“発生生物学”分野がAnne McLaren(アン・マクラーレン)博士とAndrzej K. Tarkowski(アンジェイ・タルコフスキー)博士。
“計算科学・技術”分野で日本国際賞を受賞したTimothy John Berners-Lee(ティモシィ・J・バーナーズリー)博士。「ウェブという新しい媒体を人類のために使いたい。ある国の家族が作ったウェブページを別の国の人間が見ることで戦争がなくなるかもしれない」 |
バーナーズリー博士は、ワールドワイドウェブ(WWW)を考案しHTMLの処理系を開発した人物で、今回の受賞も“ワールドワイドウェブの発明・実現・発展とそれによる文化への貢献”が認められたもの。現在博士は米マサチューセッツ工科大学計算機科学研究所主席研究員で、World Wide Wed Consortium(W3C)の所長も務めている。博士は46歳で、日本国際賞では最年少の受賞者となる。
マクラーレン博士とタルコフスキー博士は、マウスをモデル動物として初期胚の培養操作技術を開発し、哺乳類の発生生物学の基礎を築いた業績が認められての受賞。なおマクラーレン博士は女性初の日本国際賞受賞者という。
会見を行なったバーナーズリー博士は「CERN(ヨーロッパ核物理学研究所)にいた'90年にWWWを発明した。楽しい作業だった。ウェブはユニバーサルであり、普遍的な紙のようなもの。例えばもし紙が論文を書くためにしか使えないものだとすると可能性が限られるが、実際の紙はそうではない。ウェブもそれと同じで、商業的なもの、政治的なもの、宗教的なものなどどんなものでも掲載できる。国や言語などの制限も設けられていない。今後もユニバーサルを維持し、特定の国や機関がウェブを独占することにならないようにすることが大切。現在ウェブにおいて、商業的な観点からウェブあるいはウェブブラウザーをコントロールしようという動きが出ているが、これが1つのグループに牛耳られてしまわないように気をつけなければならない」
「また、ウェブは完成したとの誤解があるがそうではなく現在も進化中だ。現在のウェブの使われかたをみると、ほとんどの人はウェブをブラウズするという目的でしか使っておらず、ウェブ上で作る/書くという行為をしている人は少ない。見る/読むだけでなく書くことにもウェブを利用することで自身が情報の送り手になることが必要だ」
「また、ウェブ上にある情報の意味をコンピューター自身が理解し分析するセマンティックスウェブ(意味論的ウェブ)も実現しなければならない。現在は情報の意味を人間が解釈し理解しているが、そういったことを行なうコンピューターができれば意味論的ウェブが完成する。現在、われわれの生活の中にはパソコンや携帯情報端末、自動車のカーナビなどさまざまなコンピュータープログラムが存在する。例えばある会議の情報がウェブページに載っていて、それに出席する場合、われわれはどうするか。会議の日時をメモに書き取ったり、あるいは携帯情報端末のスケジューラーに登録したり、会議の場所を地図で調べたりする。これらは本来ならコンピューターがやるべき処理だ。ユーザーがこの会議に出たいと設定した時点で、スケジューラーに自動登録され、車内のカーナビは会場までの経路を表示するといったことがなされなければならない。これを実現するのが意味論的ウェブだ。今後、ウェブ上にあるさまざまな情報をひとつのデータベースとして利用できる強力なプログラムが必要となる」と語った。
“発生生物学”分野で日本国際賞を共同受賞したAnne McLaren(アン・マクラーレン)博士(左)とAndrzej K. Tarkowski(アンジェイ・タルコフスキー)博士(右)。マクラーレン博士は「初の女性受賞者として選ばれてうれしい。今後も女性の研究者、科学者が恵まれた地位を確保できるよう望む」 |