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東京国際ブックフェアと併催で“デジタルパブリッシングフェア”が開幕――NTTドコモ+シャープの参入で電子出版ビジネスが本格化

2002年04月19日 23時59分更新

文● 千葉英寿

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4月18日、アジア最大規模の本の見本市“東京国際ブックフェア 2002”(TIBF)が東京ビッグサイト(東京・有明)で開幕した。今年もこのTIBFの併催イベントとして、電子出版を中心とした“デジタルパブリッシングフェア”が行なわれている。今年の傾向としては、PDAを使った電子書籍サービスが具体化してきたことだ。そうした中にあって話題の中心はなんといってもNTTドコモとシャープという強力な新勢力が登場し、より具体的なビジネスとしての電子出版がクローズアップされてきている点にあるだろう。

シャープブース
Zaurusを中心に展示を行なったシャープブース

シャープとNTTドコモが“XMDF”で参入

昨年のデジタルパブリッシングフェアでは、アドビシステムズ社からPDFをベースとした『Adobe Acrobat eBook Reader』が華々しく登場し、電子出版の老舗である(株)ボイジャーも著作権保護に配慮したドットブックを提案するなどフォーマット競争の様相を呈していたが、今年はこれにさらにシャープ(株)と(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモの提案する“XMDF(MobileDocument Format)”が加わった。2社とXMDFの開発、オーサリングに協力しているデジブックジャパン(株)の3社が協同でブースを展開した。

数機種のZaurusがデモに数機種のZaurusがデモに使われていた。写真はMI-E21

XMDFは、元々シャープが同社のPDA“Zaurus”のサービスである“シャープスペースタウン”の“ザウルス文庫”などで提供しているコンテンツのために開発したフォーマットだ。すでにザウルス文庫では約2500タイトルのコンテンツを用意しており、インターネットを経由したシャープスペースタウンからの提供と、コンビニに設置した端末からの提供の2通りのサービスを実施している。また、電子書店パピレスや文春ウェブ文庫をはじめとする7つの電子書店がXMDFを採用している。

今回、キャリアーであるNTTドコモと協業するとともに、XMDF対応ビューワをZaurus以外のPocket PCやWindows CE、Palm OS(※1)といった代表的なPDA(※2)向けのものを用意することで、XMDFを使った電子書籍配信サービスで電子出版のメインプレイヤーを目指す。

※1 Palm OS Palm OSについては条件付き対応となっている。いったん、コンテンツをPCにダウンロードしてからPalmデバイスにシンクロして読む形式をとっている。

※2 代表的なPDA 対応OSを搭載した各機種で、ドコモでは以下の機種の接続を確認している。Zaurusは、MI-E1、MI-L1、MI-E21、MI-P10、MI-C1、MI-E25DC。WindowsCE H/PCは、シグマリオンII、シグマリオン。PocketPCは、GFORT、HP jornada 525、iPAQ H3630/H3660、GENIO e550/X。Palm OS機は、CLIE PEG-N750C、Palm m500。

NTTドコモのブース
NTTドコモのブース。残念ながらFOMAでのデモは行なわれていなかった

NTTドコモでは、この電子書籍配信サービスを5月15日~9月30日を期間としてモニター実験を行なうことで、今秋のサービス開始に向けて技術的信頼性の調査・検証を行なう(ただし、Palmのみ6月3日提供開始)。ドコモの担当者によれば、1000名の応募枠に対して、まだ多少の余裕はあるものの順調に埋まってきているとのことだ。また、秋のサービス開始についても、「予定通り」としており、「運用開始時にはPHSとともにFOMAでの提供も行なう」としている。

XMDFは「軽い、早い」が……

XMDFは後発だけあって、eBookリーダーの抱えていた課題をよく研究しており、それらのほとんどをクリアにしている。例えば、画像表示や外字表示、外部フォントの読み込みなどにも対応しており、暗号化や改ざん防止などのセキュリティーも強化している。ただし、“本”としての電子出版として見たときに組版などの甘さが目立つのは否めない。表示された印象がPDAによって異なるのも、コンテンツを提供する側にとっては気になる部分といえるだろう。もちろん、これらの課題はどのリーダーも持っているわけだし、本命視されているAdobe eBook ReaderのPDA版(米国ではPalm OS、Pocket PC向けを提供中)が出てきていないという状況でもある。

XMDFはPalm OSでも動作するXMDFはPalm OSでも動作する。ただし、ダイレクトにコンテンツをダウンロードすることはできない。写真はPalm m500

シャープの担当者は、XMDFの「軽い、早い」点を強調しているが、通信インフラの改善やモバイル向けCPUのパワーアップなどPDAでのリッチコンテンツのハンドリングが難しくなくなりつつある状況を考えれば、“本”というコンテンツを考えた場合に、それらだけがかならずしもアドバンテージをもつとも言えないだろう。

NTTドコモのシグマリオン
NTTドコモのデバイスもいくつかあった。Windows CEを搭載するシグマリオンも対応機種だ。特徴的な画面サイズなので読みにくそうだ

XMDFはオープンな技術ではなく、コンテンツの作成については、電子書籍コンソーシアムを母体として設立されたデジブックジャパンの提供する“XMDFビルダ”のライセンスを受けて、オーサリングを行なうことになる。ライセンス許諾料は、出版社(1編集部)につき7万8000円でサポート契約は2003年(平成15年)4月30日まで無償となる。オーサリングを専門に行なう制作会社に対しては30万円でライセンスされ、月額8万5000円のサポート契約料を徴収する。

歴史的にみて、電子出版は個人ならびに弱小出版の重要な表現手段としてコミュニティーを形成してきたわけだが、今回のライセンシングおよびサポートは個人を対象としていない。同社の担当者によれば「今後はそうしたユーザーへのご協力も検討したい」とのことだが、出版社へのサポートを優先させることで、まずはビジネスとして成り立たせたいという事情が見てとれる。

ボイジャーは“ドットブック”と『T-Time』を

電子書店の老舗であり、日本の電子出版を牽引してきたボイジャーは今年も(株)新潮社と共同でブースを展開していた。ボイジャーはPDAでの展開を果たしまさに“手のひらの読書”を実現した“ドットブック”と専用ビューワーの『T-Time』を中心に紹介していた。

ボイジャーブース
ワークショップなども行なわれ、熱心に聞き入る来場者が多かったボイジャーブース

同社の提案する“.book=ドットブック”は電子出版のための新しいフォーマットであり、T-Timeの機能に加え、閲覧時間制限を設けることができる、といった電子本をビジネスとして成立させることを可能としたソリューションだ。通常、ドットブックをパソコンで閲覧する場合は、T-Timeアプリケーションとウェブブラウザー用プラグイン『T-TimePlug』で可能となる。今回、このドットブックをPDAに対応させる『T-Time for PDA』がクローズアップされていた。

『POCKET LOOX』初お目見えの富士通製Pocket PC『POCKET LOOX』。他のPDAとはちょっと異なる丸みを帯びたデザインが目を引く。液晶表示の美しさもZaurusに負けていない

2001年末に登場したT-Time for PDAは、すみやかにPocket PC機(※3)にバンドルされ、Pocket PC専門ダウンロードサイト“PDABOOK.JP”が開設されるなど、PDAにおけるドットブックの展開が活発になっている。ブースでは新規の対応機種として、3月に発表され、展示会への初出品となる富士通(株)の『PocketLOOX』が紹介されていた。また、先だって発表されたソニー(株)の“CLIE”などのPalm OS用電子出版ビューワーとしてスタンダードとなっている“PooK”を所有する(有)アーキタンプとの提携による成果として、ソニーCLIEでのドットブック表示のデモも行なわれていた。

※3 T-Time for PDA対応端末 カシオ計算機(株)のCASSIOPEIA l'agenda BE-500、E-2000、E-750、E-700、E-707、E-800。NTTドコモのGFORT(for DoCoMo)。日本ヒューレット・パッカード(株)のjornada 548/525/568。コンパックコンピュータ(株)のiPAQ Pocket PC H3800/H3600。(株)東芝のGENIO e550/MD、e550X/MD。日本電気(株)のPocketGear。

Palm OS上で表示されているドットブックのコンテンツ初公開となったPalm OS上で表示されているドットブックのコンテンツ。ただし、まだ不安定なようでフリーズすることも。写真はソニーCLIE

Pocket PC専門のダウンロードサイトである“PDABOOK.JP”は、音楽配信サイトの老舗である(株)ミュージック・シーオー・ジェーピーが運営するサイトで、文芸・小説、推理・アクション、ビジネスなど幅広いジャンルの電子書籍タイトルをPocket PC向けの用意するとともに、(株)産業経済新聞社のニュースを提供する“Mobile産経”のサービスも行なっており、いずれも好調のようだ。

コニカビジネスマシンはオンデマンド出版の提案
コニカビジネスマシン(株)は、住友金属システムソリューションズなどの各分野のエキスパートとともに提案するオンデマンド出版の提案を行なっていた

XMDF、.bookのいずれも全方位的な展開を図ってきているが、Palm OSについてはどうも条件付き、となっているのが気にかかる。Pocket PCがある程度の支持を得てきているとはいえ、最もシェアを獲得しているPalmへの対応が不十分である以上、どこがスタンダードへの最短距離にいるのかは見えない。最も早くからPalmへの対応を表明していたPDFを擁するアドビシステムズが、今回、出展していなかったことを考えると、たとえ英語版がリリース済みだとしても、非常に困難な日本語化が遅れれば、XMDF、.bookにもまだまだ勝ち目はあるはずだ。今後の三者の動向は要注目と言えるだろう。

電子ペーパーの最新モデル
凸版印刷は現在、最も力を入れている分野でもある電子ペーパーの最新モデルを紹介していた
凸版ブースで紹介されていた電子ペーパー
凸版ブースで紹介されていた電子ペーパー。自動的に画面が切り替わるデモが行なわれていた。大変薄くしなやかな素材で作られているように見受けられるが、ケースに入っているために実際にどのような感触かを確かめることはできなかった
大日本印刷はデジタルコンテンツの販売サイトを
大日本印刷はデジタルコンテンツの販売サイトである“AnyStyle”(http://www.anystyle.com/)の紹介などを行なっていた

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