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【IDF Spring 2002 後日編】IDF Spring 2002を振り返る──インテルの64bit戦略はどうなる

2002年03月18日 23時56分更新

文● 塩田紳二

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2月25~28日(現地時間)にサンフランシスコで開催された“IDF Spring 2002”終了後の3月1日、米インテル社の招待で、カリフォルニア州フォルサム市にある米インテルのラボを見学した。

フォルサムラボ見学プレスツアー

フォルサム研究所はインテルの主要施設の中で、唯一生産工場(Fab)を持たない施設である。本社のあるカリフォルニア州サクラメント市から直線距離でおよそ30kmあり、サンフランシスコ市内から車で2時間ぐらい。地図を見るとサンフランシスコの北東に位置するサクラメント市のさらに北東側になる。

インテルのフォルサムにある施設。このようなビルが敷地内に全部で7つある
インテルのフォルサムにある施設。このようなビルが敷地内に全部で7つある

このフォルサムには、米国のセールス・マーケティング部隊、インテル自身の情報システム部門とチップセットやフラッシュメモリーの開発、テスト部門、コミュニケーション部門などが入る7つのビルディングがあり、およそ1500名の社員が働いているという。

いつものことだが、インテルの施設内では写真撮影が禁止されているため、入り口でカメラを預けてからの取材となる。このため、今回紹介する写真は建物外観を除き、インテルが配布した画像であることをあらかじめお断りしておく。

フォルサムのラボ内にあるグラフィックスシステムの検証を行なうサイト
フォルサムのラボ内にあるグラフィックスシステムの検証を行なうサイト。ほかにもさまざまな項目での検証サイトがあり、どこもこのようにマザーボードが大量に並べられている

さて、ブリーフィングを受けたのは、インテルのIT、通信関連のプロセッサー(XScale)とチップセットについてである。

ざっと内部を見たが、どうも電話などによるサポート部門もここに入っているようだ。これはおそらくセールス・マーケティング部門に所属しているのだと思われる。

最近のリリースによると、インテルはこのたび初めてCIO(Chief Infomation Officer)としてダグラス・ブッシュ(Douglas Busch)氏とサンドラ・モリス(Sandra Morris)氏の2人を任命している。そのことと、情報部門がこのフォルサムにあることから、記者向けにインテルの情報システムについての話があったのだが、日頃インテルの製品を相手にしている筆者にとっては(実は同行した多くの日本人ライターたちほぼ全員)少々退屈な話だった。

フォルサムのプレゼンテーションで提示されたPCA(PXAシリーズ)のロードマップ
フォルサムのプレゼンテーションで提示されたPCA(PXAシリーズ)のロードマップ。これによれば、今年後半には、PXAシリーズの低位のプロセッサーが登場し、来年前半には少し性能を上げた製品が登場する。質問したところNG(Next Generation) CPUと書かれた箱の高さが性能を表わしているという。だとするとPXA250の後継はもう少し先か

しかし、PDA/スマートフォン向けのXScaleベースのプロセッサー“PXA”のプレゼンテーションでは、いくつか収穫があった。提示された資料によれば、PXA系列は、2002年後半と2003年前半に、それぞれ新プロセッサーが投入される予定だ。どちらも性能は先日発表となった『PXA250』よりも下になるので、PDAよりも携帯電話向けだと思われる。また、2003年前半の製品は2002年下期の製品よりは性能が向上しているようだ。おそらく『PXA210』の性能を段階的に上げていくのではないだろうか。

“IDF Spring 2002”を振り返って

今回のIDF Spring 2002は、どうも製品発表のタイミングが変則的な感じである。まず、XScaleを使ったPXAプロセッサーPXA210/250は、IDF前の米国時間12日に発表した(同日ではあるが、時差の関係で日本が先となった)。また、モバイルPentium 4については、IDF終了後の3月4日の発表(日本では5日)となっている。もっとも、IDF会期中に発表となった製品も少なくないのだが、プロセッサーとしてはXeonぐらいである。ニュースが重複するのを防ぐためにあえて、PXAとモバイルPentium 4を外したのかもしれない。前回のIDF Fall 2001では、会期中にPentium 4-2GHzを発表した。まあ、あのときにようやくAthlonを振り切ったわけで、まだ、あまり余裕のない時期だったからかもしれないが。

2003年下期のパソコンのひな形ともいえる“Lecta”は、次回のIDFでリファレンスモデルが登場し、詳細なスペックが決定する
2003年下期のパソコンのひな形ともいえる“Lecta”は、次回のIDFでリファレンスモデルが登場し、詳細なスペックが決定する。プロセッサー競争が落ち着いてきたために、1年も先のシステムを提示できるようになった

そんなわけで今回のIDFでは、製品としては小ネタが沢山あるという感じとなった。また、デスクトップ関連では、IDFでコンセプトを発表したのち、次のIDFでリファレンスモデルを公開、その1年後ぐらいに市場に登場させるというサイクルを作るようだ。今回は“Lecta”と呼ばれるコンセプトが公開され、これが2003年後半のパソコンの標準的なモデルとなる予定だ。いままではAthlonへの対抗策として、計画前倒しの連続で、1年後のインテルプロセッサーを使うPCプラットフォームの実際の姿が見えにくい時期が続いた。しかし、どうやらこの点では落ち着きを取り戻し、パソコンの1年以上先の姿をきっちりと見せるような余裕がでてきたようである。

インテルは、AMDの“Hammer”に対抗するプロセッサーとして、デスクトップ(IA-32)では90nmプロセスで製造し、Hyper-Threading機能を搭載した“Prescott”を、サーバー/ワークステーション(IA-64)では、間もなく登場予定という“McKinley”の0.13μmプロセス版“Madison”/“Deerfield”で対抗する予定。おそらく、いまのところはこれで十分という“読み”なのであろう。

不確定な要素があるとしたら、ユーザーにとって“64bit”というキーワードがどれだけアピールするかだ。実際に64bitの機能を使うユーザーは非常に少ないと思われる。インテルのプロセッサーを振り返ってみると、一般ユーザーが32bit OSに移行するのは、最初の32bitプロセッサー『80386』が1985年に登場してから1995年のWindows 95まで10年もかかっている(完全に32bit OSに移行したのはWindows XPだからもっと長いとも言えるが)。しかし、ユーザーはすぐに16bitプロセッサー(8086/80186/80286)を捨て、32bitプロセッサーに乗り換えた。これは単に速いというだけの理由でもなかっただろう。

チップセットのCADデータをベースにエミュレーションでハードウェアの検証を行なっているところ
フォルサム施設内でチップセットのCADデータをベースにエミュレーションでハードウェアの検証を行なっているところ。写真左側に見える青い大きな箱が米ケイデンス社(回路設計CADメーカー)の『QUICKTRAN Mercury Plus』システム。設計データをもとに実際の回路をエミュレーションする信号を生成し、実際のボードに接続して動作の確認などが行なえる

だとすると、HammerがItaniumに比べて“安く誰にでも手に入る”64bitプロセッサーであることが、ユーザーに多少でもアピールする可能性はある。また、32bitのときと違って、64bitOSはマイクロソフトのものを待つ必要はなく、64bit版Linuxなど誰でも簡単に手に入るようになっていることも、状況を変える一因となる可能性がある。Linuxの上で『VMWare』のような互換環境を使ってWindows XPでも動かせば、アプリケーションにも困ることはない(ここまで来ると多少敷居は高いので、一般ユーザー向けとは言い難いのだが)。そうなると、64bitを前面に出したシステムを出してくるメーカーもないとは言い切れなくなる。そうなってしまうと、64bitCPUの値崩れがおき、インテルもIA-64をどうするか考える必要が出てくるだろう。一部で報道されたIA-32を64bit化する計画の噂は、こうしたところに原因があるのだと思われる。

ただ、インテルの選択肢としては、IA-64を安くするという手も残ってはいる。いまのところ、来年登場のDeerfieldをデュアルプロセッサーのみに限定することで低価格とする予定だが、デスクトップ向けにシングルプロセッサーのみに限定したバージョンで、さらに低価格を実現することは不可能ではないはずだ。ただ、IA-64のパッケージやスペックは、ちょっと大きすぎてデスクトップにはし難いという部分もあるが、IA-32を64bit化することは、IA-64路線の放棄にもつながるもので、いままでの投資を考えると、IA-64の価格を下げてでも無理矢理デスクトップにまで落とす可能性もある。

ただ、Hammerの64bitというキーワードがどこまでユーザーにアピールするのかにかかっている問題であり、場合によっては、Hammerがあくまでも32bitというカテゴリーで捉えられ、64bitというキーワードがなんの役にもたたない可能性もある。このあたりは、AMDの今後のマーケッティング次第という部分がずいぶんと大きいし、しかもそんなに簡単なことでもない。さて、どういう手を打ってくるのか、AMDの今後の動きが気になるところだ。

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