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クアルコム、“BREW”に関する説明会を開催──KDDIのBREW対応端末をデモ

2002年03月09日 02時45分更新

文● 編集部 佐々木千之

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クアルコム ジャパン(株)は8日、ワイヤレス端末向けアプリケーション開発プラットフォーム“BREW(ブリュー)”を発案した、米クアルコム社ワイヤレス&インターネットグループ プレジデントのポール・ジェイコブス(Paul Jacobs)氏の来日を機に、BREWに関する記者説明会を開催した。米国時間の7日付でKDDI(株)とBREW対応サービス開始に関する合意に達したことを発表した。2月25日に発表したGPS機能搭載端末『C3003P』がBREWを搭載していることを明らかにし、BREWアプリケーションのデモなどを行なった。

BREWの発案者。米クアルコム、ワイヤレス&インターネットグループ プレジデントのポール・ジェイコブス氏
BREWの発案者。米クアルコム、ワイヤレス&インターネットグループ プレジデントのポール・ジェイコブス氏

韓国、米国に続いて日本にもBREWが

“BREW(Binary Runtime environment for Wireless)”は米クアルコムが2001年1月に発表した。これまでワイヤレス端末(携帯電話)のアプリケーションは、端末が搭載する半導体の仕様に合わせ、その端末専用に開発されてきた。BREWはワイヤレス端末で使われる半導体上で動作する一種のインターフェース(BREW API群)で、クアルコムはBREW環境上で動作するアプリケーションの開発キット(SDK)をアプリケーション開発者に無償公開している。

BREWとBREWアプリケーション、Javaアプリケーションの関係
BREWとBREWアプリケーション、Javaアプリケーションの関係
BREW開発キットは無償提供される
BREW開発キットは無償提供される

BREW SDKで書かれたアプリケーションは、各端末で使われる半導体の仕様によらず、BREW対応の端末であれば動作する。これによって、端末のハードウェアが無くても、アプリケーション開発が独立して行なえ、端末の半導体の仕様ごとに変更する必要が無くなり、開発効率が向上するとしている。また、SDKは開発言語としてパソコンのソフトウェア開発で一般的なC/C++を採用しており、特別な言語を学習する必要がないこともメリットとしている。また、BREWアプリケーションは、端末に対してダウンロードによって配布が可能となっている。

クアルコム ジャパン代表取締役社長の松本徹三氏
クアルコム ジャパン代表取締役社長の松本徹三氏

説明会にあたって挨拶したクアルコム ジャパン代表取締役の松本徹三社長は「BREWはワイヤレスインターネットの世界に革命を起こすものだ。韓国、米国に続いて、日本市場でも(革命が)始まる」と述べた。韓、米に対して日本で遅れる形となった理由については、日本ではすでに携帯電話上のインターネットアプリケーションが豊富にあり、これを生かす形で進めたために(韓、米よりも)開発に時間がかかったと説明した。

BREWを採用予定の世界の携帯電話キャリアー。加入者の総計は8100万人
BREWを採用予定の世界の携帯電話キャリアー。加入者の総計は8100万人

ジェイコブス氏の説明によると、BREW対応サービスは、現在韓国のKorea Telecom Freetel(KTF)社が2001年11月に開始したほか、米Verizon Wireless社が間もなくサービス開始予定。KDDIはサービス開始に向けて最終合意に達した携帯キャリアーとしては世界で3番目になる。KDDIのBREW対応端末としては、GPS機能を合わせ持った組込型BREW対応端末(※1)『C3003P』が最初の製品となる。

※1 組込型BREW対応端末:BREWアプリケーションがあらかじめ組み込まれた端末。現時点でKDDIはBREWアプリケーションのダウンロードサービス開始時期についてアナウンスしておらず、開始にはしばらくかかる見込み。そのためにまず組込型として提供することになったと思われる。

BREWアプリケーションの例
BREWアプリケーションの例
BREWアプリケーションはJavaアプリケーションと同じような形で利用する
BREWアプリケーションはJavaアプリケーションと同じような形で利用する。ダウンロードサイトは携帯電話キャリアーが管理する形となる

「ワイヤレスインターネットは固定のインターネットよりずっとすばらしいものになる」と述べて、BREWによって拡張されたワイヤレス端末サービスがもたらすライフスタイルを列挙した。例えば、ゴルフをやりながら、自分がゴルフ場のどこにいるかを知ることができ、子供に持たせれば、親はいま子供がどこにいるかをすぐに確認できるという。ビジネスでは、打ち合わせの場所が変更になっても、ワイヤレス端末なら新しいスケジュールを自動的にアップデートし、その場所の地図を表示してそこに向かうといったことも可能になる。本や音楽をどこでもすぐに買えるようになり、また韓国ですでに囲碁の対戦ゲームが登場しているように世界中で対戦ゲームを楽しめるようになるとし「常にサイバースペースと共にある」ことができるとした。

米クアルコムの子会社、米Wireless Knowledge社の企業向けグループウェアシステム
米クアルコムの子会社、米Wireless Knowledge社の企業向けグループウェアシステム。送受信データはTripleDES暗号で暗号化されている
BREW対応端末を発売、または計画しているメーカー
BREW対応端末を発売、または計画しているメーカー。日本企業も多い

BREW対応サービスを検討している携帯キャリアーは、3社を含め世界17社あり、端末メーカー17社がBREW対応端末開発を表明しているほか、未発表のメーカーも9社あるという。また、最近行なわれた世界GSM会議で、BREWをGPRS端末(※2)に搭載したものを見せたが、その上では従来のcdma端末向けに開発したBREWアプリケーションが動作し、開発者が驚いたというエピソードを紹介し、BREWアプリケーションのポータビリティーをアピールした。

※2 GPRS(General Packet Radio Service):ヨーロッパの携帯電話で使われているGSM方式の携帯電話で、パケット通信を行なうための規格。

米クアルコムのインターネットサービス部門プレジデントのペギー・ジョンソン氏
米クアルコムのインターネットサービス部門プレジデントのペギー・ジョンソン氏

ジェイコブス氏に続いて、米クアルコムのインターネットサービス部門プレジデントのペギー・ジョンソン(Peggy Johnson)氏が、韓国のKTFのBREWサービスの現状を紹介した。それによると、KTFは2001年11月9日にサービスを開始したが、BREW対応端末は4機種が発売されており、2月28日時点でユーザー数は23万4000人で、1日の平均BREWアプリケーションダウンロード数は4万件だという。

韓国KTFにおけるBREWアプリケーションのダウンロード統計グラフ
韓国KTFにおけるBREWアプリケーションのダウンロード統計グラフ

究極のナビゲーションソフトを搭載したKDDIのBREW対応端末

説明会では、C3003PにプレインストールされるBREWアプリケーション『NAVITIME(ナビタイム)』の開発元、(株)ナビタイム ジャパン代表取締役社長の大西啓介氏が、NAVITIMEの機能について紹介した。

ナビタイム ジャパン代表取締役社長の大西啓介氏
ナビタイム ジャパン代表取締役社長の大西啓介氏

ナビタイム ジャパンは、大西氏が学生時代から開発している道路上の経路探索アルゴリズムと、同社の現最高技術責任者である鈴木氏が開発している時刻表をもとにした経路探索アルゴリズムを組み合わせ、飛行機、電車、バス、自動車、徒歩のすべての移動手段をカバーする経路探索アルゴリズム(トータルナビゲーション)を使ったナビゲーション関連事業を手がけるベンチャー企業。同社のアルゴリズムは多数の企業にライセンス提供しており、さまざまなアプリケーションで使われているという。

C3003Pに搭載するNAVITIMEの技術
C3003Pに搭載するNAVITIMEの技術
NAVITIME向けに開発した“V format”と呼ぶ画像フォーマットはベクトル方式の地図データの10分の1程度の容量
NAVITIME向けに開発した“V format”と呼ぶ画像フォーマットはベクトル方式の地図データの10分の1程度の容量。C3003Pでは30KBほどの地図データ用キャッシュを持っており、歩行用地図で1km四方を保持できる。保持したデータについては0.5秒ほどで表示可能という

BREWネイティブアプリケーションとして開発したNAVITIMEは、C3003Pが持つGPSと地磁気センサーの機能を使った、徒歩から各種乗り物を使った移動もカバーするトータルナビゲーションプログラム。GPSによる誤差5mという位置精度と、地磁気センサーによって地図上で自分の向いている方向が検出できること、またネットワークを介したデータ受信によって、これまでのナビゲーションシステムと比べ、格段に精度の高いナビゲーション機能を提供するという。NAVITIMEの経路検索では、歩道橋や地下道なども使い、時刻表の情報も加味して、2点間の移動に最適な駅の、最適な出入り口への誘導や、正確な到着時間の予想が可能としている。

NAVITIMEのナビゲーションサービスは、電車の時刻表も考慮しており、乗り換えの状況なども含め、目的地まで正確な経路探索と、かかる時間を算出できるという
NAVITIMEのナビゲーションサービスは、電車の時刻表も考慮しており、乗り換えの状況なども含め、目的地まで正確な経路探索と、かかる時間を算出できるという

NAVITIMEでは、このナビゲーション機能を生かすための高速描画エンジン、サーバー側の高速地図は威信エンジン、ダウンロードに適した地図フォーマットなども含め、すべて同社が開発したという。これによって、誘導に従って道なりに歩いた場合、歩行者の向きに合わせて0.5秒ごとに地図を回転表示できるという。また、ウェブベースで位置の取得や経路探索をした後、BREWアプリケーションである地図ビューアーソフトによって地図を表示するが、このときの起動が速いことがNAVITIMEの使い勝手をよくしているとした。

C3003Pに表示した、NAVITIMEの地図表示画面
C3003Pに表示した、NAVITIMEの地図表示画面。本体の向きを変えると、地図もそれに合わせて回転する。地図が回転しても、文字は常にユーザーに正対する形で表示する

質疑応答の際には、BREWとJavaとの関係や、日本市場でのBREWの展開についての質問が出た。

BREWもJavaも、異なるハードウェアの上で共通のアプリケーションが動き、ネットワーク経由で端末にダウンロードできるという点で似ている。BREWとJavaの関係についてジェイコブス氏は、「BREWはJavaアプリを動かすJava VMを1つのアプリケーションとして動かすことができ、Java VMそのものをアップデートすることも可能。対立するものではない。JavaはBREW上のアプリケーションのための言語の1つと考えている」と述べた。また、Javaはハードウェアの機能を直接使うことは難しいが、BREWのネイティブアプリケーションは、ハードウェアが持つ機能はすぐに使え、ソフト面でのオーバーヘッドが少ないメリットも挙げた。

また大西氏は開発者の立場から「比較のため、同じハードウェアを使ってJavaとBREWでナビアプリケーションを動かしてみたが、速度が3倍違った。またJavaアプリは起動時にJava VMが立ち上がってコーヒーカップロゴが出るが、BREWでは瞬時に立ち上がる。モバイルナビゲーションは急いで使いたいという場合がほとんどなので、速さはメリット」と速度面の優勢を報告した。

日本初のBREW対応端末となる松下通信工業(株)製『C3003P』
日本初のBREW対応端末となる松下通信工業(株)製『C3003P』

日本ではほかの国と異なり、すでに携帯電話向けのアプリケーションが豊富に存在しているが、そうした状況でBREWを普及させることができるかという質問が出された。これに対しては、「BREWが動作するワイヤレス端末には、新しい機能がどんどん追加され、BREWアプリケーションはそれらをどんどん利用できる。また、開発者にとって見れば、BREWアプリケーションは海外に向けて販売することができるのもメリットだ」(ジェイコブス氏)という。さらに松本氏は「(BREWの機能を使って)今あるアプリケーションの1歩先のアプリケーションを提示できる。すでにアプリケーション市場があるのはプラスに働く」という考えを示した。

BREWは、クアルコムのcdma端末用チップセット向けに開発されたものだが、同社以外のチップセットへの展開はないのか、という質問には「クアルコムの半導体に限定するものではない。世界GSM会議の際のGPRS端末は他社の半導体を使っている」と答え、クアルコム以外の半導体を使ったものでもBREW対応は可能とした。

説明会には、KDDIからの出席はなく、今回発表したKDDIとクアルコムとのBREWサービス(アプリケーションダウンロードサービス)がいつから開始されるかという点については「KDDIが決めること」(松本氏)として明かされなかった。とはいえ、“最終的な合意”が交わされたわけであり、アプリケーション配信システムや課金システムを構築といった作業は残っているものの、年内にBREWサービスが開始されることも十分に考えられる。

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