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NEC、ブレードサーバーへの取り組みについて発表――国内初のグリッドコンピューティング実験の概要も公開

2002年03月08日 16時54分更新

文● 編集部 田口敏之

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日本電気(株)は6日、都内に報道関係者らを集め、同社のブレードサーバーへの取り組みについて発表した。発表会には、東京工業大学 学術国際情報センター(GSIC)教授の松岡聡氏も出席し、GSICが推進している、グリッドコンピューティング(※1)プロジェクト“Titech Grid プロジェクト”への取り組みについての説明を行なった。

※1 グリッドコンピューティング :インターネットや専用ネットワークを使って、地理的に分散したさまざまなリソース(スーパーコンピューターやサーバーなど)を相互接続し、統合して利用するための技術

NECソリューションズ執行役員常務の小林一彦氏
NECソリューションズ執行役員常務の小林一彦氏

発表会では、NECソリューションズ執行役員常務の小林一彦氏が、同社のブレードサーバーへの取り組みについて説明した。

同氏は「遺伝子機能の解析や、自然現象のシミュレーション、また高エネルギー物理実験データの解析などを行なうために、大量の計算、大量のデータアクセスが可能で、超高速のネットワークによって接続されたコンピューターに対するニーズが高まってきている。このためには、大きなベクトル型のスーパーコンピューターを利用する手と、ネットワーク上のコンピュータを、1つのコンピューターに仕立て上げるという、二つの手段がある」と述べた。そして「昨今は、ブレードサーバー群を光ファイバーで接続し、1つの巨大なコンピューターとして使う手段が注目されてきている」と述べた。

ブレードサーバー群によるグリッドコンピューティングの利点。必要なノードに動的にアプリケーションを割り付けることによって、資産を効率的に活用できる
ブレードサーバー群によるグリッドコンピューティングの利点。必要なノードに動的にアプリケーションを割り付けることによって、資産を効率的に活用できる

小型の基板上に、CPUやメモリーを搭載するブレードサーバーおよび、これを高速回線で相互接続する数台から数百ノードのブレードサーバー群は、スーパーコンピューターに比べて、低コストで導入でき、また必要なノードに動的にアプリケーションを割り付けることによって、資産を効率的に活用できる。また構成によって、省スペース化を図ることも可能となっている。

ブレードサーバー『Express5800/BladeServer』
ブレードサーバー『Express5800/BladeServer』

同社は、1月17日にブレードサーバー『Express5800/BladeServer』を発表している。Express5800/BladeServerは、幅128×奥行き334mmの1ボードサーバーで、ボード上にPentium III-S-1.26GHzを最大2基まで搭載可能。ブレードサーバー1台につき、3.5インチのHDDを2基まで接続でき、最大HDD容量は160GB(80GB×2)となっている。HDDは基板上に搭載するのではなく、ラック内で接続する。これにより、ボードとHDDを随時増設でき、また別々に交換することができる。

Express5800/BladeServerの内部構造
Express5800/BladeServerの内部構造

OSには、LinuxまたはWindows 2000 Serverを搭載できる。高さ3Uの収納ユニット『ブレード収納ユニット』は、ブレードサーバー本体を最大6台まで、HDDを最大12台まで収納できる。ユニットには、表側からブレードを、裏側からHDDを設置できる。またアプライアンスとして、ネットワークやCPUの負荷を分散させるロードバランサー『Express5800/LoadBalancer』なども用意しており、規模や用途に応じたシステムの構築を行なえるようになっている。

Express5800/BladeServerの優位点の説明。CPUブレードとHDDを別々に設置できる
Express5800/BladeServerの優位点の説明。CPUブレードとHDDを別々に設置できる

同製品は、大学や研究機関などにおける、グリッドコンピューティングによる並列計算のプラットフォームとしての利用できる。また、インターネットデータセンターや、企業におけるウェブサーバー、動画コンテンツサーバーとしての利用にも適しているという。

グリッドコンピューティングのためのミドルウェア群の構造
グリッドコンピューティングのためのミドルウェア群の構造

そして同社内には、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の研究者や組織などの交流の場として“HPCエンジニアリングセンター”が設けられている。同センターでは、HPCの研究者や開発者が相互に情報交換を行ないながら、大規模なブレードサーバー群を1台の仮想HPCとして扱うためのミドルウェアの開発と検証を行なっているという。

東京工業大学教授の松岡聡氏
東京工業大学教授の松岡聡氏

また同社は、東京工業大学のGSICが推進する、“Titech Grid プロジェクト”のシステム基盤となるブレードサーバー群を納入する。これについては、同大学教授の松岡聡氏が説明を行なった。

“Titech Grid プロジェクト”は、仮想分散高性能計算環境(グリッド)を構築し、グリッドコンピューティングの実証実験を行なうというもの。このグリッドにより、脳神経のシミュレーションや、大規模な気象シミュレーション、DNAの構造解析といった、T(テラ)~PFLOPS(ペタフロップス)、T~PB(ペタバイト)級の計算性能を必要とする“E-Scienceアプリケーション”を高速で運用させる。ブレードサーバーをグリッドコンピューティングに活用するのは、国内では初めての事例になるという。

“Titech Grid プロジェクト”の設備の解説
“Titech Grid プロジェクト”の設備の解説

このために同大学は、同社のExpress5800/BladeServerを400基(合計800CPU)発注し、25TBのストレージによる計算資源とともに、学内に分散配置する。各ノード間は、2001年4月から学内で運用している、最高4Gbpsのギガビットネットワーク網“スーパーTITANET”で相互に接続する。そして、仮想スーパーコンピューターとなったグリッド上で、ミドルウェアやE-Scienceアプリケーションの動作実験や、クラスター群のリモート管理実験、外部のグリッドとの協調・相互運用実験などを行なうとしている。

大学内に設置するノードの構成
大学内に設置するノードの構成

同氏によれば「スーパーコンピューターは、E-Scienceアプリケーションが不得手で、またコストがかかりすぎる。なんとか、これらのアプリケーションに対応し、何人何百人何千人が、うまくネットワーク上で計算を行えるようにしたかった」と述べている。また同製品について同氏は「高性能かつ安価で、省スペース性に優れていて省電力などといった条件を満たすのは、NECの製品以外になかった。他社製品で、ブレードサーバーに安価なCPUを搭載したものもあり、分散のさせ方によっては同じぐらいの性能になるのではという意見もあるが、メンテナンス性や信頼性などの面から見て、同社の製品がベストだと思った」と語った。

同実験には、大学内の18の専攻およびセンターが参加しており、期待が集まっているという。同プロジェクトの今後の予定としては、3月末に大学内の各個所にノードを設置し、システムの稼働を開始する。2002年度の前半には、一部の参加グループに限定的に資源を公開する。そして後半には、学内の一般のユーザーへ資源の一部を公開するという。また、2003年にはさらにグリッド資源を追加し、学術研究用の超高速光ネットワーク“スーパーSINET”により、学外のグリッドと10Gbpsで接続するという。松岡氏は「将来的には、今回の実験の25倍ぐらいの規模のグリッドを構築したい」と語っている。

Express5800/BladeServerは東京工業大学のほか、大阪大学からも、バイオ研究用のグリッドコンピューティング基盤システムの構築のための受注を受けている。大阪大学では、ゲノムデータの解析システムと、タンパク質構造シミュレーションシステムとして用いる。運用は、3月末に開始する。

Express5800/BladeServerで構築されたサーバー。左の27Uラックは企業/インターネットデータセンター向けのシステムで、ブレードサーバー18基を装備する。右の44UラックはLinuxクラスターシステムで、ブレードサーバー60基を装備する。27Uラックは後ろ向きになっているExpress5800/BladeServerで構築されたサーバー。左の27Uラックは企業/インターネットデータセンター向けのシステムで、ブレードサーバー18基を装備する。右の44UラックはLinuxクラスターシステムで、ブレードサーバー60基を装備する。27Uラックは背面を向いている

また、発表会の会場には、Express5800/BladeServerで構築されたサーバーの実物が展示され、性能や運用性を証明するためのデモンストレーションも行なわれた。

Linuxクラスターシステムで行なわれたデモンストレーション。ソフトは(株)アライドエンジニアリングの『ADVenture Cluster』。エンジンのシリンダーにかかる負荷を計算し、解析結果をレンダリングして表示した
Linuxクラスターシステムで行なわれたデモンストレーション。ソフトは(株)アライドエンジニアリングの『ADVenture Cluster』。エンジンのシリンダーにかかる負荷を計算し、解析結果をレンダリングして表示した

NECは、同製品のターゲットとして、これまでコストの問題で、スーパーコンピューターなどを導入できず、ワークステーションなどで計算を行なっていた中小の製造業者や、インターネットデータセンター業者などを見込んでいる。今後、同製品を運用するためのミドルウェアや、並列処理に最適なキラーアプリケーションを開発していくという。

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